箒星という下町の風情に非常に調和した食堂兼酒場。既に相当出来上がり胡散臭いおっさんと胡散臭い青年が二人、店のカウンターで額がくっつくほどに身を寄せ合いながらぶつぶつと深刻な顔をしてささやき合う様は客観的に見たらたいそうお可哀相に見えることだろう。いや、現在進行形で俺は可哀相な部類に入ると思う。身の上話を聞かせたら十中八九同情される自身もある。ただしそれは自分でも泣けてくるというリスクを負うことを余儀なくされる諸刃の刃、或いは玉砕戦法というやつなのだが。
「はぁ?それで、結局押し切られたのか?」
「………いやあ、どうなんだろう……おっさんがもだもだしてたらサァ、フレンちゃん何勘違いしたんだか、わかりました、ってなんか捨てられた子犬みたいな目ぇして打ちひしがれて去ってったからねえ……」
正直なことを、言えば。ほんの少しだけはかわいそうなことをもしかしたらしたのかもしれない、という気持ちが心の中に存在しないわけではなかった。あからさまにふわふわの髪の毛がズブ濡れ子犬のようにぺしゃんこにへたれていたような気もする。それでも圧倒的恐怖の存在であることには変わらないのだが、そのあたりの心理に関しては些か複雑なものがあることはある。ないこともある。その場その場で変化する乙女心と秋の空。に、非常に良く似ているかもしれない。
「甘いな」青年の声のトーンがあからさまに一段くらい下がった。
「へっ?」
「甘い、っつってんだ。おおあま、だな。あんみつに蜂蜜ぶっかけて生クリームにこれでもかと砂糖ぶち込んでキャラメルソースかけたくらいの甘さだな」
「………うぷっ…」想像して気持ち悪くなるような例えは止めていただきたいが、それを主張するとこの青年は調子に乗るので、その考えと飛び出しかけていた言葉は喉から逆流させて腹の中にこっそりと仕舞いこんだ。
おまけに妙に喉が渇いて仕方がなく、加熱する人生相談劇場の傍ら、半ば放置されかけていたジョッキに残ってた既に生ぬるくてその価値を殆ど失った麦酒をあおってこくりと喉を潤す。それでも、やはり喉がイライラしてるような気がする。多分この無駄に重苦しい空気が原因か。相手は常に黒尽くめ胡散臭さ帝都イチを自称はしてないけど容認しているような野郎相手であるからして、仕方ないのかもしれない。何故そんな相手に相談をしていたのか、という根本的な疑問に関しては消去法、とだけ答えておく。
「いいか、あいつと長年どころかケツの青いガキの頃から付き合ってきたオレから、ひとつ忠告しておく」
「……はいぃ……」
「あいつに同情したら、負けだ。いいか、ものすごくへこんでいるように見えても翌日満面の笑みで『ユーリ、勝負しよう!』とか『ユーリ、今日はどっちが強いか決着を付けよう!』だの言って人のことこてんぱんに叩きのめして『また勝負しようねっ』とかちょう爽やかに言い放ちながら手を差し伸べて全く悪びれないようなやつだ」
それはいわゆるただのコンプレックス的な話で、今回の件と関連性は薄いように思えるのは、気のせいだろうか。
「いやあの青年、なんか話ズレてね?だいたいへこんでた、とその翌日の言動のどこに因果関係が…」
「だいたいな!」突然乱暴な様でテーブルの上に手のひら叩き付けながら立ち上がり、見事なあおり構図へと持ってゆく様のなんと自然なことよ。右手をしっかと握り締め、きつと虚空を睨みつけるその顔の角度からして完全に衆人に対する演説モード。
その瞬間に、ある程度予感はしていたことであるが俺は実感し認めざるを得なかった。この男、人の話の趣旨を理解していない。しようともしていない。
「オレは、だ、なんで幼少の頃からあいつに負け続けていたかというとだな!あの童顔だろ、でっかいあの目だろ、ふわっふわの金髪だろ、下町じゃすげえ珍しくってキレイでキラキラしてて……くそっ、だから幼少の頃のままで、あいつが幼少の頃のまま成長してくれていたらそのまんまあいつを嫁にしていたのに」
「おいちょっとまてにじゅういっさい」話の方向がズレたどころではなく豪快に脱線しかつ捻じ曲がってらせん状に脱線して果てしなく別方向へ向かっていやしないだろうか。
「それが!!ありえるか?」身振り手振りジェスチャーで、いかにそれが悔しく、苦々しく、絶望的だったかを熱弁する男それはユーリ・ローウェルにじゅういっさい。
本気である。
本気も、本気である。ただし、本気になりどころは明らかに間違えている。
「昔から密やかに心ときめかせていてかわいいなあ、だなんて懸想していた相手が男だったとか!」
背後に重々しく荒々しい効果音が入って思わず劇画調になりそうな空気に思わず同化され侵蝕され意識の集合体へと導かれかねない、この空気よ。格好をつけているのか、はたまた全身で笑いをとりにきているのか。難しい判断を求められる。
とはいえ彼の言動はその悲しさを含めて理解できない代物、というわけでもない。だいたい想像が付く。なにせこの男の言う幼馴染、二十歳過ぎてもあの童顔、あの表情、元々顔立ちも整っていて、かつては大変愛らしく存在するだけで愛を享受出来る無垢な天使のような存在であったのであろう。今は悪鬼そのものだが。
「…………やっぱり」
「やっぱり?やっぱりだと?」
俺としては心からの同意であったのだが、彼の元から何か危なっかしかった目がすうっとすわり、テーブル越しに胸倉を、唐突に掴まれる。
「やめ、やめ、やめやめやめーー」
「おい、おっさん、まるでこのオレの傷心っぷりがわかってるかのような態度じゃねえかおい…わかるのか!」掴まれた上に引き寄せられて首が絞められているような感覚になる、眼を見れば殺気でぶすぶすと穴だらけになってしまいそうな程、明確な殺意。これでは殺人未遂になるのだが。冷静になっているのは冷静ではない証拠だった。
「俺のあの絶望が!孤独感が!情けなさが!!!悲しさに打ちひしがれその日一日何も手が付かず食欲もわかずひたすら、ひたすらに後悔の念が押し寄せてきてどうにもならない……」そこで、がくりとうな垂れて肩を落とし締め上げてた手の力が抜けた。これ幸いと青年の拘束から逃げ出すことが出来てようやく息をつけばゴホゴホと咽てしまうのは、致し方あるまい。「ゲホッ、ちょっとっ、ったく乱暴なんだから…」
「己の過去全てを呪いたくなる…」なにやら、そのまま地面にずぶずぶ沈んでいって泥のようになり仕舞いには肥料か何かに変化しかねない雰囲気になっている。これはもしかしたらあれかもしれないそうあれである。ままあること、ではある。つまり、彼のような些か特殊かもしれない環境化の青少年にしては、ありがちなささやかで居たたまれなく絶望的な事故である。
「あ、もしかして、青年、勘違いしたまま迸る本能に抗いきれず?」
思わず聞いてしまったのは、この男でもそういう側面があるのだと思えた、所謂多少の精神的余裕による判断ミス。ただでさえ視界良好になりそうもない前髪の間からギロリと覗く目玉二つ。青年が自分で自分を呪い過ぎた挙句その余剰分でこっちまで呪われそうな程の、忌々しき悪鬼そのものたる恨みの権化のごとし。
「………どうしてそれがわかった……」
「い、いや、ちょ、っとしたジョークだったんだけど、……マジだったの……」
「うっせオレだって別に女なんざその気になりゃあより取り見取り、昨日はあっちの淑女今日はあっちの後家さん明後日はお隣さん、てな具合にとっかえひっかえできるんだよ!やろうと思えば!」うわそれ童貞のこってこての言い訳…とおもったけど今日は賢さ一割増しのおっさんは黙っているよ。
「けど、それでも、昔の記憶とか美化された思い出とかモロモロでそりゃあキレーに育っているんだろうなと思い描いたオレの幼心から来るちょっとした勘違いの上に築かれたかけがえのない妄想ぶちこわされた絶望感がわかるかーーッ!!」両手で頭抱えてぐるぐる暴れてる青年を止める手段も言葉の、今の俺の中には存在はしていなかった……ゆえに、それ何年前の話ですかとかは流石につっこめなかった。
そして意外ともいえるその純情さに、自ずとこみ上げてくる熱いものがあった。相手がどうかということはひとまず置いておいておく。
「ちくしょう!わかるもんか!わかるわけがない!」
「青年キャラ変わってるよ。そもそもそれ、単にあれっしょ、昔のフレンが可愛らしかったから青年が一方的に勘違いしてたっていうオチでしょ」
「…………別にいいじゃねえか……乳がなくなってチンコついてたって……オレの妄想は正義なんだ……オレはただしい…オレは間違えてない……だいじょうぶだ……化粧させてドレス着せれば多分大丈夫だ……」
突如其処に、この世の悪の権化が出現した。まさに今、その薄くぼんやりとした酒場の灯すら届かぬような暗がり、別世界から召還されし七つの罪を背負う堕天使が死神の鎌を持ち出現した。
項垂れたたま未だ顔を上げずくつくつと低い笑いを零しながらゆらりとゆれる様など、まさに冥界の使者に相応しく、見ている者の魂を虜にしてその後ゆっくりと喰らうつもりなのか。
が、堕天使というよりはゴキブリという表現の方が全体的に正しいのが彼の悲しさである。
「…いやだからちょっと妄想ストップしようか、おっさん青年の頭の中身が今凄く心配よ…」
堕天使基黒光りする例の生物は唐突にその細長く間接の目立つ脚をテーブルの上に乗せて、ぐいと上体を反らし拳を作り、ガッツポーズをキめた。鼻息が無駄に荒い。まるで戦場から帰還したばかりの兵士のような、異様な高揚感がそこには垣間見える。表情は無駄に自信満々なのだが残念なことに大悪党顔であった。
「………イケる!!!」
堕天使基黒光りする例の生物はとうとう己の生態系に異論を唱え始めた。彼はこの持論を、これからおそらくは帝都ザーフィアス内において日々主張してゆくつもりか。そして、いつしかこのテルカ・リュミレースの中心都市帝都ザーフィアスは己の生態系に異論を唱える男女で満たされ、混乱を極めてしまうのか。殊更そうした特殊嗜好を否定するわけではないのだが、やはり自分が巻き込まれるとなるとどこか二の足を踏む、というのが俺の立場である。というか、そもそもこの話の趣旨はそうした、特殊嗜好に巻き込まれてしまった場合の対処法を相談していたわけなのだが。
「ちょっと、ユーリ!何遊んでんだい!ちゃんと片付けるんだよ!」店の女将の至極常識的な突っ込みもよくわからないポーズで片目をつむり「ああ、わかってるさ、当然だろ?」と、謎の返答。
「ったく、何時までたってもしょーがない子だよ…」ふむ、女将の台詞から考えると、どうやらこれがこの青年の日常的な性格なのだろうか。そうかもしれない、と、決して短くは無く波乱万丈かつ何度か死にかけた彼らとの珍道中を振り返って、考えたりした。
そのように、(こうした場合他人の振りをしてしまうのは、常識的な判断力をもつ人間ならば当然のことである)悦に浸っている青年と周囲を交互に見る分には非常に居心地が悪く、かつ、いたたまれない心地であったのだが、俺とその周囲以外は、通常の夜半過ぎのそこそこの賑わいのある酒場の雰囲気であった。考えすぎなのか。
盛大な溜息をついて麦酒のおかわりを注文すると、なにやらただならぬ疲労感に襲われる。アルコールが良い具合に回ってきているのかもしれない。上体を起こしているのも億劫で机につっぷしていると、ようやく満足したのか彼はテーブルから脚をおろし、椅子に腰を掛けた。
「いや、悪かったなおっさん。まあ、あれだよ人には色々とあるんだよ。色々と、な」
「………んだね…」
「で、要約するとおっさんがフレンを振ったからフレンがドン底まで落ち込んでザーフィアス城限定で暗雲が立ち込めてるからどうにかして欲しい、ってのが依頼の内容だな。まあ、あいつなら機嫌で嵐くらいは召還するからなあ」
「いや半分くらい違う、しれっと捏造しない、意味の分からない事言うのも禁止ね!」
「悪い悪い、冗談な、冗談。実は前々から下心があってフレンを付けねらって深夜寝室に忍び込んであられもな」「ちっがーーーーーう!!!青年っ、自分の妄想及び願望を当たり前みたいに押し付けないッ!」
「何だ、結婚を前提に付き合ってんだろ?なら当然じゃないか?」
「違うっつてんだろっていうかなんか前提がすげ代わってるしだいたいおっさんフレンちゃんと付き合ってないし付き合うつもりもないしふっつーに女の子大好きですから!」
「なん……だと……おい、胡散臭くて加齢臭が気になるよーなおっさんの分際でフレンを振る、だ、と……?何抜かしてんだコラ、場合によっちゃあ…」
「腰のもの抜くなッこんな公共の場で刀傷沙汰は勘弁!ってだから仰ってる意味が良くわかりませんんん!あと加齢臭って年齢じゃないからーー!」
「いや、勘弁ならねえな…俺はな…俺はあいつに相応しくないっていう自覚はあんだよ、だからこそ、な…あいつには、人並みに幸せになってもらいたくて……」まあそれはわからんでもない。が、どちらかといえばこの場合、フレンがユーリに抱く感情としてなら納得が行くような気がするのだが(ニートと国家公務員)、むしろ人並みにまともな生活をして欲しいというような内容のボヤきを、その言葉を微妙に選びながらもフレンは何度か零していた気がする。確かにこのままだとこの青年はただの前科つきニートである。俺も人の事はいえないのであまりとやかく言いたくはないが、まだ騎士団に(強制的に)在籍出来ている分社会的にマシである。というような、内心がバレたのか、青年の目つきが更に悪化した。殺意もなお増した。
「………で、隠れてごにょごにょやってたわけだ」
「おっさん……」
「あ、冗談です、いちいち剣を抜いていただかなくても間に合ってます、はい」
「奇遇だな、オレのコイツも全部冗談だ」
が、その顔はお世辞にも笑顔といえるような類のものではない。確かに、表情は笑顔らしきものを作ろうとしている、その努力は認めよう。が、眼に殺意はしりすぎである。ついでにそろりと腰の剣に手をかけてそろそろと抜く様なぞ、まったく冗談には見えない。
「好きにすりゃあいいんじゃねえの。おっさんが嫌なら嫌だって言いえばいいだろ。あいつはオレと違って人を呪ったり背後三メートル圏内を一ヶ月以上ストーカーして相手に命の危機を感じさせて精神的に追い詰めたりするような趣味もヒマも特殊能力もないからな。多少は落ち込んだりするだろうが、大の男がそんなことでいつまでもくよくよなんてしてねぇだろ」
「………おっさん、たまに青年がよくわからない……粘着質なのかサバサバしてんのか、マジわかんない…」
そんなことは通常の思考回路の持ち主ならばしない。発想すらしない。
「おっさんさぁ……本当に、フレンが嫌いなのか?」
ふむ、実に良い質問である。むしろ待ってましたと喜び踊り、祝杯でもあげたい気分である。ようやく本題に入れる、というものだ。
「いや、別に嫌いとかじゃないよ、ちょいと苦手かなぁってとこはあるけどねぇ…」
「じゃあ何だ」
「一緒に仕事してみて分かったけどねえ、ありゃあ大将やドンとは違う意味で規格外だわ。大将はいかにも貴族の規格外だったし、ドンは無法者の規格外だろうけど、フレンはそういう規格外とはちょっと違うんだよねえ」
「ふうん、何だ、なんだかんだって買ってんだな」
「そりゃあね、あの若さで騎士団長なんてのやっちゃうような若人だもの。ま、青年にも同じくらいおっさんは期待もしてるんだけどねえ」
「年寄りの説教はごめんだぜ。つか、何だ、別に嫌いだとか信仰上の理由で駄目だとか生理的に無理とか死んでも嫌だとか、そういうわけじゃあねえんじゃねえか」
「……あいやその、嫌いじゃあないけど」嫌いではないが嫌いの表現がそれは極端すぎやしないか?怪我にもただの切り傷から命に関わるような大怪我まであるように、嫌いにも幅が在る。今、彼が提示したそれは怪我で言えば致命傷、とか、もう無理だと医師や治癒士が匙を投げるレベルじゃないんだよな、と言っているようなものである。んなわきゃあない。
「はっきりしねーおっさんだな!だから、そこまで嫌じゃないんだろ?だいたい、きっちり断れなかったって時点でおかしいんだよ。オレにこうやって相談してきてるってことは実際は腹ァだいたい決まってんだろ?」うむ、筋が通っているような通ってないような?
「それはどうだろうねぇ…嫌いじゃなあいよ、まあ、ああやってさ、例のプロポーズまがいの脅迫はおいといてもワンコみたいに慕ってくれんのは可愛いと思うし」
「はい、ダウト」
尻尾掴んだり。まさに、獲物を捕らえた瞬間の猟師の顔。或いは犯罪を犯しそれが完全犯罪たりえた瞬間の犯人の顔。わが野望成就せり!と調子ぶっこいた大将とまるで同じ顔を、このユーリ・ローウェルはしている。大将はその後実にお間抜けな結末を迎えたわけだが(流石に俺もあれをこうして半ばネタまじりに半ば自嘲気味に酒の肴に出来るようにはなっていた)、彼もそうなるのだろうか。できればなって欲しいなどと願ってしまった俺も適度に駄目人間だが、どっちにしても駄目人間同士の会話なのであまり気にしてはいない。
或いは、ドン・ホワイトホース。彼こそ生まれながらの規格外、人外、想定外と三拍子揃った非常識人間である。さらに悪党でありながら同時に義理人情に堅く、味方であればこの上なく頼もく敵なら最低最悪、まさにキングオブザ外道、死して尚その偉大さは語り継がれ畏怖され続ける伝説の男。そのドンが笑うと、こんな顔をしていた。
「ちょっとまって!今の話の流れおかしくね?だいたい青年、色々なかったことにしたりしてんでしょー!」
色々、例えばそもそも男同士でどうやって結婚するんだとか。そもそも、俺は同性愛嗜好者ではないとか。だから、例え、フレンが非常に好青年で誰でも魅了してしまうような超人格でイケメンで愛の天使でため息は薔薇の香りとかでも野郎であるというだけで男というだけで御免こうむりたいわけである、何が悲しくて男相手にうふふあははしなければならないのだ。
「おっさん、いいトシなんだし腹ァ括れよ」
が、にたぁっとそれはそれは人の悪い笑みを浮かべ俺の肩に手を置くその顔が、初めはドン・ホワイトホースのそれ、次は大将のものになり俺のか細い神経をギリギリと追い詰めてくる。ついでにあまり調子のよろしくない胃がビミョウに痛んでいる。括れるような腹がそもそもない。
蛇に睨まれた蛙の心地とは、まさに、このような心境を言うのか。蛙の知り合いも親戚も友人も恋人もいやしないのだが、今後の参考に少しばかり留めておくとどこかで役に立つかもしれない。一生役に立たないかもしれない。そんな、場違いかつどうでもいい思考で気を紛らわせていなければ、とっくの昔に気絶していたことだろう。
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