憧れが恋心に代わり、やがてそれが欲に変わったのはいったいいつ頃だっただろう。自覚がないから、余計に性質が悪いとクリックは思っている。
 そもそも、二人旅に出よう、と言い出したのはテメノスの方だった。どうも、教会に酷使されるのが面白くなくなったらしく、逃げるように旅に出ることにしたらしかったのだが、クリックはその巻き添えを食らったというわけだ。勿論断ることもできたのだが、テメノスに淡い恋心を抱いていたクリックに断るという選択肢はなかった。
 テメノスは、その見た目だけは、流れるような繊細な銀髪の麗人であり、黙っていればすらりと長身の肢体とたおやかな立ち居振る舞いは上品で、聖職者然としている。ただし、その口が開いてしまうと破天荒な面を見せるのだから、その差に愕然としたのもよい思い出だ。その内心一体何を考えているのかわからないし、のらりくらりと言い逃れすることも得意でクリックはよく煙に巻かれている。それでもそんな彼でもどこか抜けている一面もあったりするのだから可愛らしいと感じてしまう。そもそもそれが、彼の魅力にやられてしまっている証左なのかもしれない。友人オルトからは、よくお前は審問官の一体どこを見てそんなに茹で上がっているんだと釘を刺されるのだが、惚れてしまったのだから致し方ない。
 クリックとて健全な青年だ。ストームヘイルに居た頃は、罰当たりだと思いながらも、清廉で神の御使いでもあるテメノスを汚す妄想をして自らを何度も慰めていた。それが、行動を四六時中ともにするなど――何らかの間違いがあっても、不思議ではない。
 テメノス直々のご指名でクリックはフレイムチャーチを訪れていた。旅の支度、とは言っても特にあてはないのだ。実際にテメノスに行き先を問うてみても、そうですねえ、とりあえず道中にでも考えましょうか、なんてふざけた答えが返ってきた。
 それでも、彼と行動を共に出来ることは、素直に嬉しい。
 クリックが先導する形となり、二人はフレイムチャーチの山道を降っていった。途中巡礼に向かうであろう人々とすれ違いながら、やがて見事な滝を望める吊り橋に差し掛かる。

「へえ、すごい滝ですね。水がキラキラ太陽の光を浴びて、虹がかかってるなんて」
「懐かしいですねえ。ここでオーシュットとアグネアが水浴びをしたいと言い出して、フレイムチャーチに向かうはずが道をそれる羽目になってしまって大変だったんですよ」

 懐かしそうに旅の思い出を話すテメノスは、実に楽しげだ。

「テメノスさんは、しなかったんですか?」
「私が、ですか?いえ、ここの滝行は修業時代に散々やらされましたから、懲り懲りです」
「でも、僕は見てみたいです」
「……私の、滝行を?」

 ぽかんとした顔で返されて、クリックは慌てて首を横に振る。否、本当の事をいえば、見たくないわけがない――邪な気持ちを含めて、だ。だが、流石に昼間からそんなことは言い出せない。ただ、この滝壺は見てみたい、と単純に思っただけだ。

「ち、違いますよ!滝壺を見てみたいなって思っただけです。これだけ立派な滝なら、さぞ凄いんだろうなと」
「ふむ、そうですか。まあ、確かに……そうですね。あてもない旅ですし、寄り道していきますか。ついでに水浴びでもしますか」
「は?え?よろしいので?」
「何がよろしいので、ですか。大分汗もかきましたし、刻限も丁度いい、滝壺の側にある洞穴で今晩は野営にしましょうか。そこならば魔物の侵入も防ぎやすいですしね」

 そういうとテメノスはさっさと道を切り替えて滝壺へ至る山道を歩きだした。クリックも慌ててそれに続く。ところが勝手知ったる何とやら、なのか、テメノスの脚がやたらと速い。甲冑を着込んでいるクリックでは追いつくのがやっとどころか、どんどん引き離されてしまう。わざとやっているのかどうか知らないが、それでも傾斜のきつい山道で慌てて駆け降りて怪我をするようなことがあってはならないと、その姿を視界に収められる程度の速度でクリックはテメノスを追った。

「子羊くん、遅かったですねえ」

 ようやくクリックが滝壺の傍にたどり着くと、成程随分と温度が低い。そして、確かに傍には身体を休められそうな洞穴があった。肝心のテメノスはといえば、何故か滝壺の浅い場所に入っている。

「テメノスさん?何をしているんです?」
「何って、水浴びですよ。折角ですし、汗を流そうかと」
「いえ、それは、わかるんですけど、滝行は懲り懲りだと……」
「ええ、ですから、滝行は懲り懲りです。でも、水浴びとそれは別ですよね」

 可愛げのない言い分なのだが、クリックはそちらに目をやり思わず息を呑んだ。
 薄手のチャーチスモックだけをその細身に纏い、テメノスは水浴びをしていた。全体的には線は細いものの、長旅で適度に筋肉のついた美しい肢体の線が丸わかりで、薄手の生地が肌に張り付いているお陰で、胸のふたつの膨らみも冷たい水に刺激されてかぷっくりと立ち上がり目立っている。その形も、上品な桜色まで視界に入って、クリックはゴクリと唾を飲み込んだ。濡れた髪の毛が額や頬、うなじに張り付き何とも言えない色香を漂わせていた。そして、ほっそりとしながらも筋のついたふくらはぎや太腿、そして形の良い臀部や背中も惜しげもなく晒しながらテメノスは水浴びをしている。

「大分歩きましたから、気持ちいいです。君も入ったら?」
「あ、いえ、その、僕は……」

 今は、まずいです、とは、流石に言えなかった。何がまずいか間違いなく問いただされるだろうし、それは男として情けないというか、生理現象ではあるのだが、好意を告げていない相手のほぼ素肌を見てしまい勃起しているからなどとあけすけに言えるわけがない。

「僕、ちょっと、甲冑の手入れをしてきますね!それから寝床の準備も」
「ああ、ありがとうございます。それでは、私は水浴びを終えたら食事の準備をしますから、君も水浴びをなさいな」
「は、はい!わかりました!」

 そう言って逃げるようにクリックはその場を立ち去るのだった。

「……まったく。せっかくお膳立てをしてあげたというのに。なかなか面倒でじれったい子なんだから」

 その背に投げかけられた言葉を、クリックが聞くことはなかった。



「……テメノスさん、大胆だなあ……いや、そもそも同性同士だから、気にする方がおかしいのか?いや、でも……ふつういきなり肌を見せるような真似はしないよ、な?テメノスさん、一応聖職者だしなあ。……いやでも、うーん……」

 悶々としながらクリックは甲冑を丁寧に一つずつ外してゆく。カラン、カラン、という音がその都度洞穴内に響く。一人ぶつぶつと呟いているが、考えていることは先程までのテメノスの素肌のことばかりだ。
 濡れて張り付いた薄手の衣服の下に見えた肌は、透き通るように白かった。そして、その肢体は本当に綺麗だった。何よりも、あの乳首の色。うっすらと色づいていて、それでいてぷっくりと大きく、男性のそれにしては目立っていて、言葉を選ばなければ非常にいやらしく、情欲をそそった。まさか、テメノスには経験があるのだろうか。そんな話は聞いたことがないし、第一教会内では清貧が貴ばれる。肉欲は大っぴらに禁止されているわけではないが、無論推奨もされてはいない。教会内のある程度の地位の人間ともなれば、相応の立ち居振る舞いを望まれるのは当然だろう。だが、だからこそ逆に、ということもある。いや、テメノスに限ってそんなことはあるはずがない。けれど、テメノスのあの見た目は、多くを惑わせる――クリック自身が、囚われてしまっているのだから、否定しきれないのが哀しいところだ。思考はまとまらずにぐるぐると回り、どんどんエスカレートしてゆく。
 意外と経験があったりするのだろうか。夜な夜な誰かに抱かれていたり――それは、いや、かなり、嫌だな。出来ればテメノスさんの初めては僕であって欲しい。初めてっていっても、そもそもテメノスさんは男が好きなんだろうか。それすらわからない。いきなり男の僕に欲情されたら、気持ち悪いと感じたりしないだろうか。ましてや、毎晩テメノスで抜いているだなんて言ったら、どんな顔されるだろうか――クリックはだんだんと不安になり、何も手付かずになってしまった。

「クリックくん?こんな暗がりの中で、ぼんやりと一体どうしたの?」
「ひゃいっ、い、いえ!な、なんでも!」

 突然想い人の声がして、クリックは文字通り飛び上がる。そのはずみで、足元に整理していた鎧が派手な音を立てた。

「う、うわ!」
「まったく君は何をしているの。準備もまだのようだし……何か、考え事ですか?」
「い、は、……ええと、はい……そのような……ものです……」
「ふうん。何か、悩み事でも?」

 ずい、と端正な顔が間近に迫る。濡れた水の匂いと共に、すっと通った鼻筋と透明な翆の瞳がクリックを覗き込んでいた。濡れて張り付いた衣服はそのままだから、当然だが視線を少し下げれば、ぷっくりと膨らんでいる桃色の乳輪と乳首も否が応でも視界に入る。美味しそう。触りたい。舐りたい。指先で転がして、摘まんだら、どんな声で鳴いてくれるんだろう。想像するだけで、海綿体に血流がゆき、熱が溜まってきそうで堪らなかった。

「え、ええと!すみません、ちょっと、頭冷やしてきます!!」
「ちょっと!クリックくん!話はまだ終わってませんよ~」

 クリックは再び逃げるように駆けだして、滝壺に向かうのだった。



「は、はぁ……危なかった……あんな恰好のテメノスさんが至近距離にいたら、押し倒すしかないだろ?選択肢的に!」

 煩悩を追いやるように冷たい滝の下に飛び込み、クリックはガシガシと髪の毛を乱暴に掻く。それでも一度火がついてしまった欲はなかなか収まらず、股間の逸物は相変わらず熱を持ったままだ。これは一度抜いた方がいいかもしれない……。おそるおそる手を伸ばせば、待ち焦がれたようにソレはむくむくと勃起してきた。

「……テメノスさん……ごめん、なさい……テメノスさん……」

 先程までの、濡れた衣服を着たテメノスを脳裏でよみがえらせる。白い素肌、ぴったりと肌に張り付いた布から垣間見える桜色の乳首と、乳輪。そして綺麗な色をした性器まで、ありありと想像ができる。そこに触れて、よがらせたら。甘い声を響かせたら。一体どんな声で彼は鳴くのだろう。想像するだけで、欲はどんどんとエスカレートしてゆく。
 しっとりと濡れた肢体、悩まし気な瞳、色香漂う鎖骨や胸元――クリックの息はどんどんあがってきた。脳裏のテメノスはクリックの手によって甘い吐息を零し、あられもない声をあげ、そして美しい肢体をおしげもなく曝け出し、クリックの名を呼ぶ。その都度クリックは背筋に奔る快楽と欲を覚え、ペニスを握り上下する手を早めた。しゅっしゅっと音を立てながら、クリックはどんどんと昇りつめてゆく。あられもない姿でクリックに手を伸ばし、秘所を曝け出し誘うテメノスの蕩けた甘い表情に、クリックの頭はどんどんと上せてきた。

「あっ、あっ、テメノスさんっ、かわいいっ、テメノスさん……っ、僕っ、テメノスさんにっ、……あ――っ!!」

 どぷどぷどぷ!とたっぷりの粘着質な精液を吐き出して、クリックは果てた。火照った身体に冷たい流水が容赦なく流れ落ちる。その冷たさと痛さに、クリックは早々に現実に引き戻された。
 てのひらにべったりとついた自分自身の精液を眺め、またしても焦がれている人を穢してしまった、と自己嫌悪に陥る。今ころは、夕食の準備をしてくれているであろうその人のことを考えると、あまりにも申し訳ない。だが、一度覚えてしまった欲を抑えるのは、若いクリックには困難なことだった。それでも一度吐き出して大分すっきりしたのか、やや熱も落ち着いたようだ。冷たい滝の水も頭を冷やすには十分で、クリックは滝壺からあがると、持ってきていた布で身体を軽く拭くと、下穿きと衣服を身に着けて洞穴へと向かった。


(中略)


 クリックが目を覚ましたのは、まだ夜半過ぎだった。焚火は残り火になっていたが、洞穴の入り口に煌煌と輝く聖火はその輝きを失わず、魔物を寄せ付けない。それのお陰か、見ればクリックと触れ合うほどの距離にテメノスが眠っていた。衣服は先程来ていたワンピース一枚のみ。簡易毛布も掛けているが、途中ではだけてしまったのか上半身は覆っていない。そして襟ぐりがおおきく空いているワンピースは、その細い鎖骨や胸元を露わにしていた。
 クリックの中で、どくりと欲望が沸き立つ。すぅすぅとあどけない顔で眠るテメノスの睫毛は長く、薄く桜色に色づいている唇はふっくらとしていて、触れたら柔らかそうだ。普段は綺麗にまとまっている白銀の髪もばらけており、白い額がきれいに見えている。全ては聖火の灯火があればこそ見えるテメノスの美しさだったが、クリックはごくり、と唾を飲み込んだ。

――流石に寝込みを襲うわけには、いかない、けれど……。

 はっきりいって、これは据え膳食わぬは男の恥、というやつだ。

 いや、でも、僕だって聖堂騎士の端くれで、テメノスさんは異端審問官。聖職者同士、そんな簡単に肉欲に屈するわけにはいかない。己を律しようとクリックは思いなおすが、一度覚えてしまった欲は収まるわけもなく、先程のテメノスの水浴びの姿を自ずと脳裏に描いてしまう。透き通った綺麗な肌が水に濡れて、艶めかしかった――濡れた衣服から見える乳首の艶やかさも、ほっそりとしながらも肉付きはしっかりとしている太腿も、引き締まった尻肉も、全部克明に思い出せる。

「テメノスさん……」

 そっと、その口元に手を伸ばしてみると、指先に触れる温かな吐息。それが引き金となり、クリックはそのまま指でふに、とテメノスの唇に触れる。思っていた以上に柔らかいそこに、口付けをしたい。欲が抑えきれず、クリックは静かにテメノスが起きないように唇を重ねた。その味わいは例えようもない程に甘く、そして熱かった。
 そのままテメノスの耳の裏に指を這わせ、唇の中に舌を割り入れる。若干の抵抗はあったものの、舌はすんなりと熱っぽい口腔内に入り込んだ。クリックは熱いテメノスの口腔内を遠慮がちに、けれどもたっぷりと舐めとるように蹂躙しながら、細く銀糸のような髪の毛を撫でつけて指先に絡める。クリックはこの美しく光沢を湛えたテメノスの髪の毛が好きだった。

「ふっ……ん……」

 息苦しいのだろうか。テメノスの唇から籠った音が漏れる。起きてしまったか、と思ったが瞼は閉じられたままだ。胸を撫でおろし、クリックは一度唇を離す。二人の間に銀糸のように唾液がつながり、そしてぷつりと落ちていった。その唾液を掬い取るように落ちた箇所を舐める――丁度テメノスの鎖骨に当たる部分で、その綺麗な肌に、クリックは吸い付くような口づけをした。じゅ、と吸い付いて鬱血痕を残す。起きたら怒られてしまうかもしれない、などと殊勝な考えは今のクリックの中にはなかった。ただただ、この甘い肌を味わいたい、食らいたいという欲だけで動いていた。そして、先程からちらちらと見えている乳首に視線が吸い寄せられる。
 先程のように膨らんではいないが、それでも男性にしては目立つ、綺麗な色をしている。女性のそれまでとはいかないものの、吸い付いたらきっと柔らかいに違いない。クリックは再び唾を飲み込んだ。欲しい。このひとが、欲しい。我慢が、出来ない。そうでなくても下穿きの下のペニスは既に勃起しており、痛いくらいなのだ。懸想している人に触れただけでこれなのだから、情けない。だが、欲を我慢は出来なかった。そのまま舌先で白い肌を犯しながら薄く色づく乳輪を舐めてゆく。まだ、乳首は立ち上がってはいない。邪魔な衣服を少しだけはだけさせて、胸部を露出させた。すると、少しずつ外気に晒された乳首が立ち上がって来る。それをよいことに、クリックはぽってりとしてきた乳首を口に含んだ。そして、舌先でころころと転がす。甘くて、たまらない。

「ん、……ぁ……」

 テメノスの唇から甘い声が漏れ、肢体が動く。起こしたか、と思ったが、まだ彼は夢の中の様だった。こんなことをされても起きないのだから、余程疲れていたのだろうか。だが逆にクリックにとっては好都合だった。そのまま乳首を転がしながら、もう片方のあいている乳首を爪先で刺激して立ち上がらせる。ぷっくりと立ち上がってきたところを、特に中心部に爪先をくい、とねじ込むと、テメノスの身体が跳ね、甘い吐息が唇から零れた。

「ぁ、は……あ……んっ……」

 クリックはテメノスが目覚めないのを良いことに、更に乳首を刺激する。すると、見ればテメノスのワンピースの一部が濡れてきていた。彼も感じているのだ。乳首で感じて勃起するだなんて、一体どんなことをしたらそうなるのか。女性ならばともかく、男性で乳首でこんな風になるなんて、聞いていない。

「テメノスさん、本当に誰とも寝てないのかな……。本当は誰かに開発とか、されてるんじゃないかな、これ……」

 顔を上げ、荒い呼気とともにぽつりとクリックは呟く。見下ろした先には、すっかり上気して赤く染まった肌と、ぷっくりと立ち上がった乳首がてらてらと唾液で光って、いやに艶めかしいテメノス。未だ夢の中にいるのか、だが柳眉は寄せられ、どこか悩ましい表情になっている。夢の中で犯されているのだろうか。だとしたら、誰に?現実で眠っている相手に好き勝手やっているという自分の行為を棚に上げて、クリックは余計なことを考え出した。そして、無性に腹が立ってきた。

「……僕に抱かれる前に、一体誰に抱かれてたんですか?もしかしたら、教会内部の誰かに、夜毎に犯されてたりしたんですか?だから、こんなにいやらしい身体になってるんですか?」

 静かに、けれど確実に怒りの感情を含んだ低いクリックの声に、テメノスが起きる気配はない。それがまた癪に障った。途中で起きて悲鳴でも上げてくれれば、或いは罵ってくれればこんなことをしなくても済んだのに。もう、引き返せない所まで来ている自覚はあった。灯りが聖火の灯火しかない中で、乳首にも、鎖骨にも、ハッキリとクリックがつけた鬱血痕が残っている。 それがまた艶っぽさを際立たせていた。

「それなら、僕が好きにしても、いいですよね。僕、ずっと我慢してたんです。テメノスさんのこと、犯したくて、犯したくて、我慢してたんです。それなのに、あんな風に見せつけるみたいに肌を見せて……挑発してたんですか?」

 一方的な想いだということはわかっていた。けれど、悔しくて、悔しくてクリックはそこまで思いを吐き出すとテメノスに再び口づけをする。起こさないように、という気遣いはもうそこにはなかった。

「っ……」

 息にならない息がテメノスの唇から漏れる。それに構わず、クリックは何度も角度を変えて口付けをした。そして、口付けをしながら胸元をまさぐり、乳首を刺激する。コリコリと転がし、或いは指先で乱暴に潰し、乳輪だけを刺激したり、緩急をつけて爪先でつつき、カリカリと引っ掻いてみたりとあらゆる手段を使った。その都度甘い息が流れ込み、クリックの下腹部は重たく熱を持ち、欲が溜まってゆくのがわかった。それでも半ば意地になり、乳首を刺激する手を止めず、口付けもやめなかった。すると、ある瞬間、テメノスの身体がビクビクと跳ねてワンピースの一点に大きな染みが出来た。
 そこまできて、ようやくクリックは唇を離す。

「テメノスさん……寝てるのに、キスと乳首だけでイっちゃったんですか?ひとりで勝手に。なんて、やらしくて淫乱なんですか。僕も、満足したいのに」

 そう言って眠るテメノスの瞼に口付けを落とす。イってしまったからなのか、テメノスの表情は先程までよりはどこか楽そうなものになってはいるが、少し寄せられた眉根や半開きの濡れた唇は相変わらず欲をそそる。そっと頬に手をあてて、今度は唇に、触れるだけの口付け。何度しても、あきたらない。自分はこんなに欲深かっただろうか。

「ねえ、テメノスさん。今度は僕を満足させてくださいよ、そのやらしい身体で」

 そしてクリックは下穿きを下着ごと脱ぎ去る。ぶるん、と天を衝くほどに勃起した欲望はたらたらと我慢汁を垂らし、早く雌を犯したいと言わんばかりだ。その熱に滾る欲望を、テメノスの柔らかな頬に寄せると、クリックはそこで扱き出した。ぬめぬめとした我慢汁がテメノスの綺麗な頬を、耳を、髪の毛を犯していく。堪らない光景だった。

「ん、ぁ……は……ぁ……」

 小さな声が吐息と共にテメノスの唇から漏れ出る。それすら欲望を加速させる手段にしかならない。テメノスの美しい銀糸を犯している、それだけでも熱が更に加速し、血流はどんどんと滾ってゆく。ずしりと重たい欲が溜まり、早く解放をと求める。クリックは器用にテメノスの頬と銀糸を耳に赤黒い肉棒を押し付けながら、荒い呼気で腰を動かした。その速度がどんどんと早くなり、陰嚢がテメノスの頬と耳に当たって音を立てる。その淫猥な光景が溜まらなかった。クリックはぐ、ぐ、ぐ、とテメノスの頬に、髪に、欲を押し付けるように動かすと、たっぷりの精を解き放つ。顔に、髪の毛に、耳もとに、そしてはだけている鎖骨や胸元にまで、精液をたっぷりとかけた。
 粘着質で濃い白濁が飛び散り、テメノスの髪の毛と顔、そして耳を、肢体を穢してゆく光景も、ひどくインモラルで堪らなかった。

「はぁ、……はぁ……テメノスさん、こんなことされても、起きないなんて……。本当に、後を犯しても、……気づかないんじゃないか……?」

 一度欲を解き放ったものの、若いクリックの欲は収まることを知らない。ましてや眼下には懸想している相手が自分の精液に穢されている姿で横たわっているのだ。クリックの肉棒は眼下の光景を見ているだけでむくむくと大きく膨らんできて、刺激を待ち望んでいる。何よりクリック自身が止まれなくなっていた。

「テメノスさん……無防備に、あんな姿、曝け出した貴方が悪いんですよ……」

 そう言って、クリックはテメノスの身体をうつ伏せにすると、下肢のワンピースをたくし上げ、下穿きを脱がせて臀部を出させる。白く形の良い尻の奥にひっそりとすぼまっている秘所は硬く閉ざさされているのは当然だが、茹った思考のクリックにはそれだけでも刺激的だった。ふたたび、ゴクリと唾を飲み込む。
 挿れたい。
 その、窄まりに滾る熱をブチ込んで犯したら、どれだけ気持ちがいいだろう。テメノスの胎内はどんな感触なのだろう。胎内に挿入したら、流石に起きてしまうだろうか。それはそれで見物ではある。普段は澄まして取り繕っている彼が、この状況でどんな態度を取るのだろうか。戸惑うだろうか、怒るのだろうか。或いは困惑し、止めてと懇願するだろうか。どの想像もクリックの熱を滾らせるには充分で、いよいよ我慢が効かなくなってきた。

「テメノスさん、すみません……!!お叱りなら、後で受けます……我慢、出来ません!!」

 そう言って、クリックはピタリと閉じている窄まりに指を這わせた。テメノスは身体を一瞬動かすが、それでも起きる気配はない。そのまま硬く閉ざされている後孔をゆっくりと指で解して開いてゆく。やがてそのナカに唾液と自分の先走りの体液で濡らした指を侵入させる。最初の一本目こそ慎重だったが、すんなりと入るとわかるとクリックは遠慮をしなくなっていた。二本、三本と入れてゆき、違和感にテメノスがむずがるように動くことも無視してその胎内を指で蹂躙した。ぐちゅぐちゅと濡れた音がしてきて、テメノスの胎内で蠢く媚肉はクリックの指を食むように動く。これならば、と逸る気持ちを抑えながらクリックはテメノスの後孔に自分の亀頭を宛がい、一気に侵入させた。

「ん、んん……?!」

 その衝撃と熱、そして違和感には流石に気付いたのだろうか。テメノスは呻くような声をあげながらぼんやりと目を開けた。

「くりっく、くん……君、なに、して……い、いたっ……!!」

 一瞬状況が把握できなかったのだろう。だが、顔や髪、そして胸元に飛び散っているべったりとした白濁に気付き、続けてクリックが猛々しい欲望を今まさに挿入していると理解したテメノスの顔色が変わる。

「き、君……それ……や、苦し……い、痛……」
「流石ですテメノスさん。察しがいいですね。でも、昼間あんなに見せつけてきたじゃないですか。僕のくらい、受け入れてくれますよね?」
「や、そんな、む、り……痛いから、はや、く、抜いて……」
「無理ですよ、だって、もう、こんなにテメノスさんの胎内に入っちゃってるんですよ」

 容赦なくそう言ってクリックは剛直を押し進める。その都度テメノスは拒絶するように暴れ、ひきつった悲鳴をあげるのだがクリックは止まらない。欲望のままに、胎内を蹂躙していた。ぐいぐいと腰を押し動かせば、結合部分からはぐちゅぐちゅと卑猥な音が聞こえてくる。テメノスの後孔は受け入れるべきではないものを受け入れたお陰で腫れあがり、流血していた。それでも繋がり、胎内に挿入して腸壁からのとんでもない圧迫感はクリックにしてみれば堪らなかった。言いようのない快楽、堪らない刺激、そして少しの後悔すらも快楽を助長する材料になり、そのままぐいぐいと腰を押し進める。

「いやっ、やめ、て……、やめなさい……!!」
「そう言いながら、本当は感じてるんじゃないですか?本当に嫌なら、テメノスさんなら僕の事を引き離す事だって出来ますよね」
「そ、んな……この状態で、どうしろというの……!!や、やぁあ!!痛い、痛い……奥、はいって……」

 テメノスは藻掻くが、クリックが下肢にのしかかっている状態では体重や膂力の差で跳ねのけることは不可能だった。ましてやうつ伏せの不自然な体勢だ。そのまま、なされるがままに犯されて、悲鳴を上げることしか出来なかった。

「テメノスさん、僕、ずっと、こうしたかったんです。あなたのこと、夜毎に犯してました。その時はあなたは喜んでくれてたんですけど、おかしいですね、今日のあなたは泣いてばかりだ」
「そ、んな、の、当たり、…前、……でしょう……ぁぁあ!やめ、て!!」
「嫌ですよ、折角こんなに気持ちいいのに。ねぇ、テメノスさんも感じているでしょう。僕の熱……僕、あなたのいやらしい寝姿を見て欲情しちゃったんです。だから、胸も、顔も、頬も、耳も、僕の大好きな綺麗な髪の毛も、全部、全部犯しちゃいました。気持ちよかったぁ……。ね、今度は胎内(ナカ)に出していいですよね。僕のたっぷりの子種で、孕んでくださいよ、テメノスさん」
「き、み、……なに、いって……」

 怯えるような素振を見せるテメノスを他所に、クリックは欲望を加速させ、熱く滾る肉棒をぐいぐいと奥へ、奥へと押し進める。ぐちゅぐちゅ、ぱちゅぱちゅと卑猥な水音と肉同士がぶつかり合う音が木霊して、テメノスの細い肢体は踊るようにされるがまま動いていた。その唇からは最早意味のある言葉は吐き出されない。ただ、時折空気の塊を吐き出すだけだった。やがて射精感が極限まで高まったクリックは、テメノスの細腰をぐっと強く掴むと、ぐ、ぐ、ぐ、と腰を押し付けて、精嚢にたまったたっぷりの精液を思い切り最奥に吐き出した