ふういち

「それじゃあおやすみ、エル」

 そういってすべらかな頬に軽いキスを落とせば、分かりやすく彼女は肩を躍らせて反応する。いつまでたっても初心で愛らしいと思う一方で、普段は凛として皆の上に立つ彼女のこんな姿を知るのは自分だけでよいのだという欲も沸いてしまい、これ以上のことをしかない己の自制心のなさにも呆れながら、ベレスはエーデルガルトの片側に寄せて編まれた白銀の髪に指をすべらせた。いつも心地の良い彼女の髪は、風呂上がりということもあってか若干の湿気を帯びていて、いつもとは少し違う感触で、それをベレスは指先でもてあそび、楽しんでいた。

「もう、師……仕事にならないのだけれど?」

 拗ねたように唇を尖らせてベレスの挙動を彼女は責めるが、その瞳は触れることをねだる子供のものに酷似していて、ベレスは笑みを深める。

「ならば、ヒューベルトにでも告げ口をすればいい。君に誰よりも忠実な彼の仕事は、確かだよ」
「私がそんな命令をヒューベルトにするわけがないことも、分かってるでしょう」
「そうかな?」
「……わかったわ。これ以上根を詰めるなってことでしょう。確かにもう遅いし、能率は悪くなるわね」

 上出来だ、といわんばかりに今度は背中を抱き寄せ、腕の中に閉じ込めてから額にキスをする。触れるだけのそれに、エーデルガルトはまたしても狼狽し、咎めるようにじっとベレスを見つめてから、大きなため息を落とした。

「仕方のない人」
「教え子が可愛くてね、仕方ないんだよ」
「それ以外にも、あるんじゃないの」
「なら、確かめようか」

 そう言って存外に華奢な手をとれば、諦めたように付き従うさまがいじらしくて、もう一度腕の中に閉じ込めてしまいたい欲を抑えながら、ベレスは寝台へと向かう。今晩は、ゆっくり寝かせてはやれなそうだ。
  • INDEX
  • Wavebox
  • CSS Designplate