ざっと剣を薙ぐと、風に血飛沫が混じる。これで、いったい何人屠ったのだろうか、数えてなどいない。
グロンダーズ平原での戦いは熾烈を極め、数多の血が流れた。その中には知った顔も多く、言葉を交わし情を深めたものもいた。かつてのベレスならば何も感じなかったかもしれないが、今は、違う。肉を断ち命を散らすたびに、ベレスの中で何かがすり減り、疲弊していっていた。これが、自分が選んだ道なのだと自らに言い聞かせてもなお、息は上がる。感情があふれ、行き場がないものを目の前の「敵」にぶつける。そしてまたすり減る、その繰り返しだった。
これが、エーデルガルトの選んだ覇道の道なのだ。せめて愛おしい教え子のことを考えれば、まだ、それでも、地に足を踏みしめて立つことが出来た。
ただ、彼女のために。彼女の掲げる理想や覇道は、正直ベレスには理解の及ぶところではない。彼女の抱える大きな闇と不安を、すべて理解できないのと、同じように。けれど、その隣を歩むことを赦された、それならばせめて露払いくらいはできる。
皇帝の首を獲らんとする敵兵を幾人か屠り、視界に鮮烈な赤を認めると、ベレスは駆けた。同盟軍のクロードは逃亡し、残存王国軍のディミトリは討ち死にした。両軍対象を喪い、エーデルガルトのその身に敵が迫っているわけではないし、そもそも大局はもはや決したようなもだ。投降してきたものは捕虜として認め、枢機卿ヒューベルトなどはもはや戦線を離脱し戦後処理に回っている。仕事の早い彼らしい。
「エル」
「師……ひどい、かお」
エーデルガルトがすべてを言う前に、その唇をふさいだ。続けて驚くほどに細い肢体を力いっぱい抱きしめる。そして、角度を変えて再び唇を合わせた。
「ん、せ、師……っ、まだっ……」
「……急にすまない。急に、君が欲しくなって」
その言葉にエーデルガルトは言葉を失い、近くにいたドロテアがきゃあ、と歓声をあげる――先刻まで疲弊しきっていたドロテアらしからぬはしゃぎ方だなと思ったが、彼女もそうして心の均衡を保っているのかもしれない。自分がエルに触れるのと同じように。
「コホン、師……そういうのは、せめて、……天幕に戻ってからにしてちょうだい。ここは皆の目があるわ」
エーデルガルトの言葉に促されて周囲を見渡せば、目をふさぎながらも指の隙間からこちらを見据えるベルナデッタ、気まずそうに視線を逸らすリンハルトと愉しそうなドロテアの顔が並ぶ。彼らに従う兵士たちも、どうしてよいのかもわからずに視線を泳がせていた。
ここにヒューベルトがいなくてよかった、とベレスは思う。かの枢機卿は手段を択ばないから、何をされていたかわからない。
それでも、どうにも愛おしいこの子に触れたくて仕方がなかったのは事実なので、恐らく枢機卿がこの場にいたとて同じことをしただろう、とベレスは思った。