涙のキス

「逢いたかったわ、師……!!」

 胸に飛び込んでくる、いとおしいぬくもり。このぬくもりを、ずっと探していた気がする。そう、きっと、これは、手を離してはいけないぬくもり。大切な大切な教え子で、どうにもならないくらいにいとおしくて、欲しくてたまらない、ただひとりのひと。

「無事だった、んだね……よかった」
「それはこっちの台詞だわ、師。本当に、本当に探したのだから……!!私、たくさん、話したいことがあって」

 こらえきれずに言葉を流す、すっかりとうつくしく成長したエーデルガルトの唇に己の指先をあてて、ベレスは制する。困ったように眉をひそめてすぐさま口を閉ざすさまも、いとおしい。ああほんとうに、かわいい。自分はすっかりと、この教え子にまいっている。体感としてはあっという間だった気がするけれど、肉体は五年もの間眠っていたのだ。何となく不思議な感覚だが、あの時確かに自分は死んだと思っていた。ずっと、真っ暗な空間をただただ揺蕩うていた。懐かしくてあたたかな声に導かれなければ、ずっと自分はあの場所にいたのだろうと思う。

――きっと、この子とも再会できなかった。

 そう思うと、とたんに寒気が全身を走り抜ける。こわい、と素直に思った。こんな感情を覚えるのは、はじめてだ。
 ふと目にした、潤んだままのエーデルガルトの瞳。間近にある薄紫色の宝石を思わせる、きれいな瞳。少女らしさはそのままに、けれども以前よりもずっと女性として成熟した顔立ちは、以前の彼女とは少しだけ違っている。けれど、愛らしいふっくらとした唇は、そのままだ。
 ベレスは何も考えずに、そのまま少しだけ朝の空気にかさついている目の前の唇に己のそれを重ねる。
 驚いたように跳ねるエーデルガルトの肩を抱き寄せて、少しだけ、欲を出した。深く、深く、まじわるように、くちづけた。
 とんとん、と、抗議するように力ない拳がベレスの胸元を叩いたが、ベレスはこの温もりを離したくはなかった。
 やがてあきらめたのか、エーデルガルトの身体から力が抜けてゆき、かわりに、彼女の頬に一筋のしずくが流れ落ちる。彼女の流した水滴が朝日に光、ベレスの目を焼いた。

 いとしい、いとしい子。
 この温もりを、もう離さない。
  • INDEX
  • Wavebox
  • CSS Designplate