美しい終わり方

 「きみをもっと知りたかったよ、エーデルガルト」

 ひそやかに存在する無銘の墓に、白い花を添える。いまだこの手が肉を断った感触を、忘れられない――こんなことは、初めてだった。
 そう、傭兵として当たり前に生きていたベレスにとって、”誰かを殺して””記憶に残った”のは、初めてだ。命を奪うのは、自分の命を奪われないため。そこに感情も思惑も、何も存在しない。ただの摂理だった。生きるということは、ベレスにとっては長い間そういうことだった。
 けれど、学校という場で教師として教鞭を振るい、生徒たちを導くうちに、ベレスの中で少しずつ何かが変わっていっていた。  生徒たちを――金鹿の学級の生徒たちを、導きたい、という想いが、ベレスの中に少しずつ芽生えてきていた。それは、クロードを始めとした金鹿の学級の生徒たちがベレスを温かく受け入れ、頼り、時に衝突し、笑いあい、過ごしてきたかけがえのない時間があったからこそだ。
 けれど、その道の先にあったのは、決してやさしいものだけではなかった。
 喪失の痛みは知っていた――他でもない、唯一ベレスが心という反応を示すことが出来ていた肉親であるジェラルトの死を目の当たりにしたとき、ベレスは初めて慟哭した。
 青獅子の学級の級長ディミトリは戦いの中で討ち死にし、そして彼に従ったかつての彼の級友たちもこの手で討ってきた。帝国として大陸に覇を唱えたエーデルガルトを始めとした黒鷲の学級の生徒たちも、同様だ。
 それが、ベレスが選んだ道だった。

――私を討たなければ、戦いは終わらない。あなたの道は、私の屍を越えた先にしか、ないの

 そういって首を差し出した皇帝エーデルガルトは、最後の言葉を言い終える前に、ベレスにより命を絶たれた。

 その言葉を聞いてしまえば、多分彼女を討つことは、できなかっただろう、と、ベレスは思う。

 自分は、確かにこの手でうばったのだ。この子の、いのちを。

「君は、きれいだよ。私が知る中で、一番に、ね」

 墓の下に眠る躯にかけるベレスの声色はないでいて、やさしい。
 ベレスは、あんなにも美しく気高い死を知らない。彼女はアドラステア帝国の皇帝として、正しく、美しく死んでいった。その死はあまりにも鮮烈で、ベレスの記憶にいつまでも残り続けるだろう。  この胸に去来する感情が一体どういった種類のものなのかを問える相手は、もう、ベレスの傍らにはいない。

「ソティスが居たら、なんて答えてくれたんだろうな。もう、知る由もないけれど」

 どこまでも気高く美しい魂を持った少女は、天に召された。きっと地獄で会える。ベレスは、そう信じながら、己の道を進むことを、無名の墓前に誓った。
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