「騎士の要請を断ったって……?!」
酒場に響く声に、アッシュは慌ててシルヴァンをなだめるように立ち上がり、座らせる。それほどにシルヴァンの驚きの声は大きかったからだ。
「でも、アッシュ。あなた、騎士になるのが夢だったのではないのですか……?それを断るだなんて……」
続くイングリットの言葉も当然だ。何故ならアッシュは士官学校時代から騎士を目指して努力を重ねてきた――それは青獅子の学級の生徒であれば、皆知っていたところだからだった。
「断ったのには、ちゃんと理由があるんです。僕、このフェルディアで店を持ちたくて」
はにかむその表情は、見ているこちらが幸せになってしまいそうなくらいに蕩けている。それでシルヴァンとイングリットは得心した。そういうことか、と。
「なるほどな。ドゥドゥーと店を出すのか」
「違いますよ!ドゥドゥーには殿下の側近という立派な仕事がありますから。ただ、僕は、ドゥドゥーの故郷であるダスカー料理の店を開きたくて、色々準備していたんです。勿論ドゥドゥーにもいろいろ教えてもらいましたし」
「色々、ねえ……?」
声に色のあるものを含んだシルヴァンは酒を口に含むとニヤリと笑う。その笑みを見て、アッシュは慌てて首を振った。
「シルヴァン……君が想像しているようなものじゃないですよ。料理に関することを色々、です」
「わーってるって。冗談冗談。でも、お前らってそういう仲だったんじゃなかったけか?」
シルヴァンがさらりと言えば、アッシュは顔を真っ赤にして唇を噛む。
「え、アッシュ……本当なのですか?ドゥドゥーと付き合っていたのですか?」
「……うん、それは本当。僕から告白しようと思ってたんだけど、ドゥドゥーがね……最後の戦いの前にって、呼び出されて」
「それでキスされて、最後までした、と」
「そこまではしてませんっ!」
「シルヴァン、貴方さっきから話をひっかきまわしたいの?話を聞きたいの?どっちなの?」
イングリットの冷たい声にもシルヴァンは動じずに杯を重ねてゆく。
「シルヴァン、結構な勢いで飲んでますけど、そのダスカー産のお酒は強いですよ」
「え、いやでも飲み口はさっぱりしてるし、そんなに強いって感じじゃないけどな」
「だから急にくるんです。気を付けないと……」
「って、シルヴァンッ?!」
イングリットが叫ぶのと、シルヴァンが椅子から転げ落ちるのは同時だった。
「言わんこっちゃない……水、持ってきますね」
呆れたように言うアッシュは謝るシルヴァンを尻目に、厨房の奥へと引っ込んだ。冷たい水を準備するためだ。介抱はイングリットに任せておけば大丈夫だろう。
アッシュが戻ってくる頃には、シルヴァンはイングリットに介抱されながらもしっかりと椅子に座っていた。
「けどよお、キスくらいはしたんだろ?」
「まだその話ですか……」
冷えた水を渡しながらため息を吐けば、シルヴァンはにやにやと続きを促す。酔っぱらっているからだろうか、いつも以上にしつこい気がする。これは答えるまでしつこく粘られるだろうと思い、アッシュは思い切って答えることにした。
「……しましたよ!……ドゥドゥーから、最後になるかもしれないから、って。でも、僕はそんな気は全然してなかったんですけどね」
アッシュの答えに、シルヴァンはニヤリと笑い、イングリットも微笑む。
「そうですね……皆、生きて帰ろう、そう陛下は仰いましたものね」
「はい!だから、僕もドゥドゥーに最後だなんていうな、って言い返しました。せっかく告白してくれたのに、そんなのはひどいって」
「確かに」
そこで言葉を区切って肉料理をイングリットは頬張る。
「……!美味しいです!香辛料が効いてて、肉の味を引き立ててて……これならいくらでも食べられますね!」
イングリットはキラキラとした目でアッシュを見ながら肉を頬張り続けた。
「あはは、それもドゥドゥーに教わったんです。香辛料だけじゃなく、香草も使ってるんです。味付けは濃いめに。だから、飲み物も飲みながら食べてください」
「はい!でも、本当にアッシュとドゥドゥーは仲がいいんですね。お似合いです」
「お似合い、だなんて……そんな……」
「俺もお前とドゥドゥーはお似合いだと思うぜ、堅物同士、な」
「シルヴァン!あなたは一言余計なのよ!」
イングリットの怒りも何のその、シルヴァンは再び杯を重ねている。余程ダスカー産の酒が気に入ったのだろう。今度ドゥドゥーと相談して仕入れ量を増やしてもいいかもしれない。
「あはは、でも、そういってもらえるのは、素直に嬉しいです……。僕たち、婚約も、したので」
「婚約?!」
「マジかよ?!」
二人の驚きの声が重なる。アッシュは応じる様に、照れながら左手を掲げた。その指には、ダスカー意匠の指輪が嵌められている。そしてよくみれば、アッシュの肩耳にはドゥドゥーがしていた耳飾りも在った。
「いつの間に……」
あんぐりと口をあけて驚いているのはシルヴァンだ。イングリットの方はと言えば、なるほど、と納得している。
「でも、二人の仲の良さを考えたらそれくらい当たり前かもしれないですね。ちょっと驚きましたけど」
「うん、でも、婚約していることを知ってるのは僕たちの他は陛下だけなんです。まだ、正式に式を挙げる予定もないし……」
「いや、それは絶対に挙げろ」
らしからぬ真剣な様子で告げるシルヴァンに、アッシュは一瞬面食らう。
「シルヴァン?」
「ダスカーとフォドラ、友好の懸け橋になるかもしれないだろう。お前がダスカー料理の店を出すのだって、そのつもりなんだろう?だったら、式は盛大にやったほうがいい。その方が、ダスカーの連中もフェルディアに入りやすくなるだろうからな」
「なるほど。流石シルヴァンですね」
「いやあ、それほどでも。それより、この酒もう一杯もらえないか?」
「シルヴァン!あなた、まだ懲りてないの?!」
「まあまあ、イングリット。水を飲みながらだったら大丈夫ですよ、それよりも二人とも時間は大丈夫なんですか?」
「あ、そういえばもうこんな時間なのね。料理とお酒が美味しいからすっかり時間を忘れてしまっていたわ。明日は陛下にお会いしなきゃならないから、そろそろ宿に戻らないと。シルヴァン、もうあきらめて戻るわよ!」
「あ、いやーもう少し、酒をたしなみたいんだけどなー、俺は……」
「だ・め・よ!陛下と謁見するのに遅刻するゴーティエ嫡男なんて、情けなくて見てられないわ!」
「そういうお二人も、今度結婚なさるんですよね?」
席を立ち、店を出てゆこうとする二人の背にアッシュは声をかける。
「あ、アッシュも知ってたのね……。まあその話はまた今度、今日はもう帰らないと」
「そうだな、こんどじっくり話そうぜ、お前らの話とひきかえに、な」
文字通り息がぴったりと合った様子で二人はそういうと、店を出て行った。二人が出てゆくと、店の中は閑散としたように思える――それほどに遅い時間になっていたのだとアッシュも気づき、慌てて店の片付けをしだした。すると、店の扉を開ける音がする。
「あの、もう店はお終いで……」
「アッシュ、まだ働いてたのか。そこでシルヴァンとイングリットとすれ違ったからもしやと思ったが……」
「ドゥドゥー?!」
見れば、彼らと入れ違いにドゥドゥーが店に入ってきた。今日は城で仕事のはずではなかったのか。そして明日も側近としての仕事があるはずだ。アッシュの顔に疑問が出ていたのか、ドゥドゥーは小さく笑うとアッシュを手伝い出す。
「突然、どうしても、お前の顔を見たくなってな」
「え、それって……どういう……」
「どうもこうもない。どのままの意味だ」
手を動かしながらも、アッシュはドゥドゥーの顔をまともに見れなかった。恥ずかしくてたまらない。会いたくて会いたくてたまらなかった人が向こうから来てくれた、しかも顔を見たくなったなどと言われて、喜ばない方が難しい。
「アッシュ」
突然、ふわりと背後から抱きしめられた。
「アッシュ。会いたかった」
暖かい感触、逞しい身体に抱きしめられて、アッシュはほっとすると同時に心臓が跳ねる。動揺を悟られないように平静を装って振り向き、微笑んだ。
「ドゥドゥー……どうしたの?珍しいね」
「そうか。珍しいか。おれとしては……もっとお前と時間を共に過ごしたいと思っているのだがな」
「そ、そう」
声が上ずってしまうのは仕方ない。こんなに積極的なドゥドゥーは久しぶりだ――それこそ、最終決戦の直前にキスをしてきたとき以来ではないだろうか。
「今日は少し陛下に無理を言って、お前に会いに来たんだ。明日は休みにしてもらった」
「え?!それって……」
それ以上をアッシュは言えなかった。いや、言いたくても言葉が出てこなかったのだ。望んで仕方がなかったことが現実になり、にわかには信じがたかったからだ。
ドゥドゥーと一夜を過ごす。意味が分からないアッシュではない。この日をどれだけ待ち望んでいたことだろう。逞しい腕に抱かれたかった。大きな胸板に触れて、キスをしたかった。そして――
「アッシュ。もう遅いが、風呂に入ってもいいだろうか?」
「も、勿論……でも、ドゥドゥー、本当に急に、どうしたの?」
「さっきも言っただろう、お前に会いたくなったんだ」
「そ、そっか。それならさ。一緒にお風呂に入らない?狭いかもしれないけど、一応宿場だから普通の家よりは大きいし」
アッシュとしては精一杯の誘い文句だった。心臓がどきどきして止まらない。顔も熱を持って、口元も震えている。こんなに緊張するのは、初めてだった。
「……いいのか?」
ドゥドゥーは、アッシュを抱きしめたままその頬に手を寄せて撫でながら問う。その様子があまりにも様になりすぎて、アッシュは一瞬言葉を失った。
「あ、うん……ドゥドゥーが嫌でなければ……」
「嫌な訳などあるものか」
言葉と共に、キスをされた。ドゥドゥーの分厚い唇がアッシュの唇と重なり、舌先が侵入してくる。ちゅぱ、と水音が漏れ、アッシュは鼻で息をしながら応じる様に舌を舐めとった。ドゥドゥーの下は尚もアッシュを責め立て、歯列をなぞり、絡まってくる。アッシュも応じる様に目を閉じてドゥドゥーの逞しい身体にしがみつきながら口づけの角度を変えて舌を必死に動かした。漏れる水音が激しくなり、二人とも呼気が徐々に荒くなってきたころ、ようやく唇同士が離れる。
「ド、ドゥドゥー、キス、すごく……上手……」
アッシュは蕩けた目でドゥドゥーを眺めながら呟き、もう一度軽いキスを唇にした。すると、うっ、とうめくような声が一瞬ドゥドゥーからしたが、ぼんやりとしていたアッシュは気づかなかった。
「と、ともかく風呂にいこう。少し慌ただしいが、平気か?」
「うん。でも先に片付けをしないと……」
「そうだな。それならおれも手伝おう。その方が早く終わるだろう」
慌てたようにアッシュを離すと、ドゥドゥーはてきぱきと片付けをしてゆく。その様子は流石と言うか、アッシュはしばらくぼんやりと眺めているだけだったが、このままドゥドゥーに任せっぱなしではいけないとはたと気づき自分も動き出した。客はシルヴァン達で最後だったから、片付けも思っていたよりも早く終わり、いよいよ、一緒に風呂に入ることになってしまった。
ああはいったものの、アッシュとしては恥ずかしさが先立ってしまう。身体は薄いし、傷だらけで決して綺麗とはいいがたい。それに比べてドゥドゥーの体躯は立派で、同じ男でも見惚れてしまうほどだ。この薄い身体を見られたら嫌われてしまうのではないか、呆れられてしまうのではないかなどと胸中とりとめのない不安がアッシュを襲う。
「アッシュ、どうした。風呂にゆくのだろう」
ところがそんなアッシュの不安をかき消すようにドゥドゥーはアッシュの腰に手をかけてアッシュを促した。そういう些細な気遣いがドゥドゥーらしく、そして好きだなとアッシュは思う。
「あ、うん、そうだね。僕は着替えを持ってくるから、先に入ってて」
「わかった」
ドゥドゥーが料理を手伝った後にアッシュの宿場に泊まることは少なくはない。最も、キス以上の関係に持ち込めたことはないのだが――だから、アッシュの部屋にはドゥドゥーの着替えも常備されているのだった。シルヴァンあたりが聞けばとっとと同居しろというのだろうが、城勤めで王の側近であるドゥドゥーと宿場の主人であるアッシュが同居するのはなかなか簡単な話ではなかった。
ドゥドゥーの大きいな寝巻と、自分の寝巻を持ってくると、ドゥドゥーは既に風呂に入っている様子だった。中から湯の音がする。
「ドゥドゥー、お湯加減はどう?」
「うむ、ちょうどいいな。お前の弟はいつも湯加減を調節するのが巧い」
「そうだね。宿場のお客さんからも評判なんだ。あの子は器用だから」
言いながらアッシュも脱衣所で衣服を脱いでゆく。すっかりと裸になってしまってから、ふとこれから二人で裸で向かい合うのだという事実に気づき、再びアッシュは赤面した。そんなことを考えてもいなかったからだ――当たり前だが、風呂に入るのだから裸を見せ合うことになるのに、だ。
「あ、あの、ドゥドゥー……」
「どうした、入ってこないのか?」
「あ、その、うん……」
ここまできて入らないのは不自然極まりない。
緊張が極度まで高まったが、入らないわけにはいかないのでアッシュはゆっくりと風呂の戸を開けて入ってゆく。中ではドゥドゥーが湯船にゆったりとつかり、寛いでいた。
「アッシュ、身体を流したら入るといい」
「う、うん……そうするね……」
心臓のどきどきが先ほどから止まらない。身体を流すのもなおざりに、アッシュは思い切って湯船に入った。背後にはドゥドゥーの大きな身体がある。アッシュが風呂に入ると、ドゥドゥーは再びアッシュを抱きしめてきた。
「ドゥドゥー?!」
「アッシュ……おれは……」
それ以上の言葉は、紡がれなかった。ドゥドゥーの唇が再びアッシュの唇に重なり、舌が割り入れられたからだ。ちゅぱ、ちゅぱ、と水音して二人の舌が絡まり合う。熱を持った舌先は我先にとどちらからともなく絡まり、乱れ、収縮し、食み、吸った。何度も何度も、唾液を吸い合い、飲み込み、唇の裏まで舐めとってそれからようやく唇を離すと、すっかりと二人とも息が上がっていた。風呂の水面は揺れ、いつの間にかアッシュの尻に硬いものが当たっている。
「ド、ドゥドゥー……」
「すまん。本当は、風呂から上がってからするつもりでいたのだが……」
「でも、この態勢じゃ苦しいでしょ。ね、ドゥドゥー、お風呂からあがって」
「アッシュ?」
「いいから。僕の言う通りにしてくれる?」
「あ、ああ……」
にっこりと微笑んで言うと、ドゥドゥーは厳つい顔を少し赤らめながら風呂からあがる。ドゥドゥーの立派なペニスはすっかり反応しており、アッシュは思わずそこに視線が釘付けになった。
「ドゥドゥーのおちんちん……すごい……おっきくて……」
「ア、アッシュ……すまん……」
「何で謝るの?悪いことなんて何もないのに。それより、そう、そうやって、そこに足に胡坐をかいて座ってくれる?」
「わかった……」
アッシュに言われるがままにドゥドゥーは床に胡坐をかいて座ると、アッシュが股座に顔を寄せてきた。流石に驚いてアッシュの頭を掴むドゥドゥーだが、不服そうに見つめられて手を退かすと、再びにっこりと――妖艶に微笑まれる。
「これからドゥドゥーのおちんちん、元気にしてあげるからね」
アッシュは言うなりぱくりとドゥドゥーのペニスを咥えた。袋には手を添えてゆっくりと揉みしだく。肉棒の裏筋も丁寧に舐めとりながら、時折舌先で刺激してみるとビクビクとドゥドゥーの身体が震えた。興が乗ってきたアッシュは更にドゥドゥーの袋を緩やかに揉みしだき、亀頭を舌先で刺激して我慢汁を出させる。くびれ部分にカリ、と歯を立てると、ドゥドゥーの呻き声が上から聞こえてきた。
そのまま肉棒を咥えて上下に扱き出し、その動きを速めるとぐっと頭をドゥドゥーに抑えられるが、アッシュは動きを止めなかった。
「ほほままだひて」
伝わったかどうかはわからないが、しこしこと音を立てながら肉棒を刺激するアッシュの唇はねっとりと我慢汁で濡れており、てらてらと艶っぽくいやらしい。やがて我慢の限界が来たのだろう、ドゥドゥーはアッシュの口内に大量の精液を吐き出したのだった。
「う、ぐ……げほっ………。ん、いっぱい、でたね……」
「アッシュ……何も、飲み込まずとも」
「だって、勿体ないもの」
「もっ……」
アッシュの物言いに驚いたドゥドゥーの表情は傑作で、アッシュは思わず笑ってしまった。先ほどまではあれ程に初心な反応をしていたアッシュが、急に積極的になったことに驚いたのだろうか、戸惑うような表情のドゥドゥーの手を取ると、アッシュは立ち上がる。
「ね、ドゥドゥー。続きは部屋でしよっか。ここだと人が入ってくるかもしれないし……」
ぺろり、と舌先で精液を拭いながらにこりと笑えば、ドゥドゥーはこくりと小さく頷いたのだった。