「あーっ、ミカヤ!もう回ってたのかよ!」
騒々しい声とともに向かってくるエディの両手には、大量の食べ物があった――パンに焼き物、菓子と種類も豊富だ。好きなように露店を回ってきたのだろう。どれだけ食べるな、とサザが小声でこぼす。
「あなたたち、どこにいたの?結構探したのよ」
「ほらみなよ、だから先にミカヤたちを探そうっていったのに…エディったら自由行動出来るからって、はしゃぎすぎだよ」
「だって、今までその為にがんばって仕事したんだからなあ…それに、結果的に合流できたんだし、いいじゃないか」
「まったく、もう」
「ほらほら、レオナルドもそう不機嫌になるな。せっかくの祭りだぞ?」
そう文句をこぼすレオナルドの手元にも、いくつかの食べ物が既にある。エディと違いまだ口はつけてはいないが、数は似たようなものだった。なんだかんだと彼なりに祭りの空気を楽しんでいるのだろう。ノイスの手元には食べ物よりは酒瓶が多い。彼らにかかれば祭りの華やいだ賑わいよりいも食い気といったところか。そんなところも彼ららしくて、ミカヤは口元に手をあてて小さく笑った。
「ノイスは朝から飲むなあ」
「はは、今日は特別だからな。王から蜂蜜酒が振舞われたんだ。火酒じゃないのが残念だったが、それでもおおっぴらにこんな時間から酒を楽しめるんだから、これを逃す手はないだろう」
「そうそう、王家からのお酒っててっきり火酒かと思ってたら、蜂蜜酒だったんだよな」
蜂蜜酒は、火酒ほどではないがデインで多く流通している。ベグニオン制圧下において火酒が多く徴発され本国へと流れてしまい、また一朝一夕で作れるものではないからその代用品として王家が集め、市民に振舞ったのだろう。
「あっちではクリミア産葡萄酒も手に入った。クリミア産の赤だぞ。今日はまったく最高だな」
珍しくノイスまでが羽目を外しているのか、酒瓶を両手に持っておおらかに笑う。隣ではレオナルドがため息をついた。
「ノイスがこんなだからね。エディが調子に乗るものも仕方ないし、止められないよ…」
「ふふ、今日から三日間はお祭りだもの。皆少しくらい羽目を外してもいいじゃない」
今日から夏至の日をはさんで三日間祭りは続き、夜には火を盛大にともして盛り上がるだろう。祭りの最終日には花火も打ち上げられるという。市民も心待ちにしていたのだろうか、初日の朝からこの賑わいだ。日中にかけて人は増えるだろうし、初日には騎馬隊の行進もある。
だからだろうか、ミカヤも今朝は眠っていられずに、いつもよりも半刻も早く目覚めてしまった。楽しみに待ちわびていたというのもあるのだろうが、なによりも祭りの前の空気が街全体を覆っていて、どことなくせわしなく、眠ってなどいられなかったのだ。
今度はどこからか軽快な音楽が流れてくる。ダルレカから楽隊を呼んだと昨日ジルから聞かされていたから、それかもしれない。そういえば一緒に軽業師も来ているのだとか。芸が始まるのは人が集まった昼頃からだと聞いていたから、その予行演習でもしているのだろうか。楽隊の演奏など一度もきいたこともなく、大道芸も殆ど見たことのないミカヤは、そちらも大層楽しみだった。
けれど、目下一番の楽しみはフリーダ率いる騎馬隊の行進だ。
普段の軍装ではなく、今日この日のために職人たちに作らせた装飾具を身につけたマラド騎兵は勇壮だろう。騎馬隊の行進など、殆ど行われたことがないから、ミカヤのみならず暁の団の面々もそれはそれは楽しみにしていたのだ。
「そういえば、騎馬隊の行進は昼過ぎからだっけ」
気づけば手にしていた食べ物をすっかりと平らげたエディが手持ち無沙汰になったのか、ミカヤに聞いてくる。
「ええ…今は城で準備をしているんじゃないかしら。着飾った騎馬隊なんて見たことがないから、今からとても楽しみよ」
「フリーダが出るんだよな。馬に乗って戦うフリーダも格好いいけど、それとはまた違うんだろうなあ…早く見てみたいよ。なあ、レオ」
「そうだね。マラド騎馬隊は統率もとれているし、きっと見事な行進になると思う。僕も楽しみだよ」
こちらはようやく食べ物を口にしだしたレオナルドが、珍しくエディと同じような表情で破顔してみせる。こういうところはやはり彼も年頃の少年なのだろう。
「あ!あっちにあるのは何だろう?よし、いってみようぜ、レオ!」
会話をしている先からエディは何か面白いものでも見つけたらしく、露店の方へとかけてゆく。レオナルドが止める間もなく、あっという間の出来事だった。
「…ほんとにエディったら落ち着きがないんだから…ごめんねミカヤ。僕も追いかけないと。あとでまた合流しよう」
「そうね。行軍が始まる前に大広場にでも集まりましょう。実はとっておきの場所を知っているのよ」
「本当?それなら絶対に一緒に見ないと」
行軍の予定は、城門から出て大通りを経て、外郭部の門までである。予めコースを教えられていたミカヤは、事前に一番見やすい場所の見当をつけていた。仲間の晴れ舞台を、一番よい場所で見たかったのだ。
「さて、それじゃあ俺も坊主たちのお守りにいくとするか。また後でな」
言うなりノイスも二人の少年を追って立ち去る。彼に手を振りながら、ミカヤはこれから何をして回ろうかとうきうきしながら考えた。