「番の儀式、ですか」
「そーそー。説明するの忘れててゴメンね。島では、守護者が番になったら、必ずしなきゃならない儀式があるんだ」
「……まあ、なんとなく、想像に難くないですが」
オーシュットの番となって、三日目。初日、二日目は彼女の狩りについていって一緒に獲物を捕り、帰ってきた。魔物の解体方法や調理方法もより詳しく教わり、テメノスひとりでもなんとか出来る様になって欲しい、とオーシュットに言われたからだ。確かに、彼女の伴侶であれば必要な技術だし、旅の最中も何度か手伝ったこともあったので快諾した。
島の住人たちは、あれよあれよという間にテメノスを受け入れてくれた。早速オーシュットの伴侶に相応しいであろう衣装まで仕立て上げてくれ、今は重たい外套と異端審問官の法衣ではなく、ケノモ村の獣人たちが作ってくれた衣装に身を包んでいる。そのお陰で汗もそこまでかかず、この蒸し暑いトト・ハハの気候でもそこまで苦ではなくなった――ただし、一つだけ懸念点を除けば。
「それはそうと、オーシュット。ずっと尋ねたかったのですが、私の衣装、女性用ですよね?」
「ん?そうだよ。私の番だから、そうなるんだよ」
「いえ、私は男性ですが」
「島の守護者は男とか女とか関係なく、守護者だから。守護者の伴侶はおんなのひと、でしょ。守護者が子供を産むわけにもいかないし」
話が嚙み合わない。と、同時に、何やら儀式というものに対して嫌な予感がしてきた。ただ、オーシュットのいう事ももっともではあった。守護者とは、島を護る存在――即ち戦いに優れたものである必要がある。そして、いついかなる時も敵と対峙出来る必要がある。敵の襲撃など、予測できる手段があるわけではない。ましてトト・ハハ島には獰猛な魔物も多数存在してる。襲撃まではなくとも、住人から要請があれば狩りに出ることもある。そんな守護者が子を孕み、産み育てる性では確かに務まらない。であれば守護者の伴侶は自ずと女性でなくてはならないはずだ。だが、ジュバもオーシュットもテメノスを守護者の伴侶と認めてくれた。これには、こういう訳があったのか。
「なるほどなるほど、読めてきましたよ。つまり、私はあなたの番になった時点で、そういう役割をする羽目になるわけだったんですね」
別に、怒っているわけではない。というか、テメノス自身驚くほど冷静でいる。そもそもこの島の文化は独自だし、それを長年テメノス自身が重んじて住人たちと交流していれば、だいたい予測はついても当然だった。ただ、前任の守護者のジュバには番の存在がなかったため、知らなかったというだけだ。
それにしても、オーシュットの断片的な話の内容から、実はとんでもないことになっているのではないか?と密かに思うテメノスだったが、今更婚姻を撤回しようとは思わなかった。この島に移住することを決めた時に、既に腹は決まっていたのだから。
「……そか、島の外の人間は、そんなこと知らないよね。最初に言わなきゃならなかったんだ……ごめん」
しゅんとなって耳までぺしゃんこになっているオーシュットを抱き寄せながら、何時ものように背をさすってやるとそのふさふさの尾がテメノスの手にふわりと触れてくる。
「いいんですよ、オーシュット。それに私は怒っているわけではありません。そういうこともあるだろうな、と考えていただけです」
「……テメノスって、誰にでもそうなの?」
ふと、彼女らしからぬ言葉がその口から飛び出てきてテメノスは一瞬固まってしまう。ぱちくりと翆の瞳を瞬かせて彼女を見つめると、何やら不安そうな表情の大きな瞳とかちあった。その不安さを取り除こうと、自ずと彼女の小さな頭に手が伸びる。ふさふさの髪の毛を優しく梳くと、オーシュットは目を細めて静かに温もりを享受している。
「いえ、あなただけです。誰にでもこんなに甘くしていたら、私の身が持ちません、それにね、あなただって私の性格は知っているでしょう」
「ん~、そうなんだけど、なんか、島に来てからのテメノス、わたしのいうこと何でも聞いてくれて、全然怒らないから、ちょっと、気になって」
ふわふわの髪の毛を撫でているだけで、心の中に温かいものがじんわりと満ちてくる。こんな存在は、他にはいない。幼少期にロイと一緒にベッドで眠った時のように安心できる、あたたかい体温だ。
「それこそ、番になったのだからそれくらい気にしないでさい。それで、肝心の内容はわかるんですか?」
あまり色々と突っ込まれるのも面倒で話題を変えるが、オーシュットは気にしていないようだった。テメノスがオーシュットに甘いのは、長旅に出て居た頃から仲間達からも揶揄されるほどだったのだ。今更の話である。
「ふたりで主獣の墓所で夜を過ごすんだって。そこで主獣の祝福を受けて、それから村に戻って夫婦の営みをするんだって、ししょうは言ってた」
主獣の墓所は、旅の最中でも近づかなかった場所だ。そこはこの島の聖域のようなものであり、部外者の立ち入りは基本的に禁じられていたからだ。
「肝心の儀式の内容は、わからないんですね?」
「そだね~、ししょうは知ってるだろうけど、教えてくれなかったし」
「そうですか。では特に何もできることもないわけだ」
「ししょうには、夕方になったら主獣の墓所に来てくれ、とはいわれてるよ」
オーシュットの言葉にテメノスは頷くと、それならばその時間までは今日は村の様子でも見て回るか、と決めたのだった。
そして陽が傾いて来た頃。村の子供たちに言葉を教えていると、ぱたぱたとオーシュットが駆け寄って来る。手には狩りの得物だろうか、大き目の解体された魔物が携えられていた。
「テ~メ~ノ~ス~、これ!儀式の前に、これ、食べよ!」
それは見るからに、二人分をゆうに超える量がある。この量を食べるのは、流石に無理だろう。
「いえ、私はこんなには……」
「その分はわたしが食べるから!」
キラキラと瞳を輝かせてこちらを見るそぶりからも、断るという選択肢はどうやらなさそうだ。テメノスが頷くと、オーシュットは早速獲物にかぶりつく。
テメノスは切り分けられたうちあまり脂分のなさそうな箇所を選び、口に運ぶ。オーシュットからすればテメノスはかなり小食らしいが、元々あまり食事というものに拘ってこなかったし、質素な生活をしていれば自ずとその食事も生活に応じたものになる。
テメノスはあまり腹にたまらなそうなものを選んで(主に野菜や果物だが)食べていると、オーシュットが怪訝そうに見つめてきて、肉をすすめてくる。だが、この時間に肉は聊かもたれてしまうから、丁重にお断りをした。オーシュットは残念がったが、それでも自分が食べられるという歓びが上回ったのだろう、丸っと平らげてしまった。
そして、約束の刻限になる。
二人は儀式の衣装だという少し年季の入った色とりどりの布で織られた衣装に身を包み、いよいよ主獣の墓所へと向かう。その道程には灯りがたかれており、先導するケノモ村の青年は一言も言葉を発しなかった。辿り着いた主獣の墓所は静かで、そしてひんやりとしていた。そこには美しい花も咲いており、壁には壁画が描かれている。恐らくはトト・ハハの守護獣であろう三体の大きな魔物の姿が描かれており、それは旅の道程で見たオーシュットが従えている獣と同様に思えた。彼らは今、居るべきところに納まって過ごしている。
「ここで、何をするんですか?」
「ん~、なんか、この壁画の前に番で座ればいいらしいよ」
「それだけ、ですか」
「うん、わたしはそう聞いてる」
そんな簡単なことで済むのだろうか。儀式とは、もっとこう物々しいものかとテメノスは想像していた。
言われるがままに冷たい洞穴の床に座ると、ひんやりとした岩肌が体温を奪う。だがそれも一瞬で、オーシュットと二人並び壁画の前に座ると、ぼんやりと壁画が光り出した。
そして、次の瞬間、二人は光に包まれる――その間に、何があったかは正直わからなかった。ただ、何かが自分の中で変じた、とテメノスは強く感じた。そして遠い声で、島の主を頼む、と聞こえた。島の主――つまりオーシュットのことだろう。その声はジュバともまた違う声で、恐らくはこの島を代々守ってきた守り人そのひとの声だろう、とテメノスは直感的に感じた。聖火の郷で聖火が時折ゆらぎ、大きく燃えることがある。その現象に似ている、と思ったのだ。
「ん、終わったのかな」
オーシュットの声が聞こえると、辺りはとっぷりと闇に包まれていた。あのまばゆい光は何だったのか、広い空間は寂として音一つない。風の揺らぎすらもない。
「そのよう、……です、……ね?」
テメノスはふと、身体に違和感を感じた。座り心地が、違う。具体的には、脚の間――つまり股間に違和感を感じた。嫌な予感、というよりも当然の予感というか、テメノスはオーシュットに隠れて下穿きにそっと触れてみる。
――ない。
本来あったはずのもの――男性器が、消失していた。代わりにあるのは、違和感。むずがゆいような、切ないような、それでいて熱っぽい感覚。下腹部がじくじくと熟れて、下腹が切ない。疼く、というのはこういう感覚をいうのだろうか。テメノスは無意識に膝をすり合わせ、顔を顰めていた。
「……っ、オーシュット、大丈夫、ですか?」
「わぁああああ!」
墓所内にオーシュットの素っ頓狂な声が響き渡る。
「なに、何これ!わたし、おちんちんが生えた!」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。儀式とは、つまり、そういうことなのか。瞬時に悟り、自分の股間に触れる。ないが、そこに確かに在る――あるはずのないもの、女性器が。
「ねえ、もしかしてテメノス、雌になった?」
ぴくり、とオーシュットの耳が動き、大きな瞳がこちらを見つめている。彼女の前で、嘘はつけない。テメノスは小さく返事をしてから、こくり、と頷いた。
「そっか。そしたら交尾しよ!」
吹っ切れすぎである。というか、元々オーシュットはそういう性格ではあるのだが……確かに番であるし、こうなってしまった以上やることはひとつしかない。ないということは分かっていたし、身体が、特に下腹部――女性でいうならば子宮が在るであろう箇所が妙に疼き、むずがゆくて自然と腰が揺れてしまう。目敏いオーシュットのことだから、この暗がりでもテメノスの様子を見ていたのだろう。
「お、オーシュット!せめて、それは家に帰ってからで……」
「でも、わたしおちんちんが苦しいんだ。はやく交尾したくてたまらない。テメノスにさわりたくて、仕方ない」
切なそうな表情でそう言うと、オーシュットは地面にテメノスを押し倒す。そして、衣装に手をかけだした。急すぎる展開に頭がついてゆかず、テメノスは反射的に彼女の手をとめようとするが、そもそも力では彼女にかなうわけがなく、あれよあれよと素裸にされてしまう。そして曝け出された裸体は、胸こそ女性のようにないものの、本来あるはずであった男性器を失い、かわりに挿入するための女性器が股間についたなんともいえない自分自身の姿だった。
「こ、これが、わたし……?」
おそるおそる性器に触ろうとすると、その手をオーシュットにとられ、ぺろりと舐められる。
「ひぁっ……な、オーシュット……!」
一瞬まろびでた甘い声を隠すようにオーシュットの名を呼ぶが、彼女はそのままテメノスの細く骨っぽい手をぺろぺろと舐めだした。その感触に、テメノスは思わずぶるりと身体を震わせる。彼女の手はテメノスの股間に伸びており、うっすらと生えそろった下生えを潜りきゅっとしまっている女性器に触れようとする。
「こ、ら……やめなさい!オーシュット!」
遮るように叫ぶが、声が上ずり巧く喋れない。甘ったるい声にオーシュットの耳がピクリと反応し、彼女は不満げに頬を膨らませる。
「え~~~、でも、わたし、早くテメノスと交尾したいよ。子作り、したいもん」
豊かな尾をぱたぱたと揺らしながら、子供が菓子を強請るようにオーシュットは俯きがちにそう言う。彼女の透明な声が木霊し、働きの鈍くなったテメノスの脳裏をチリリ、と焼く。テメノスと子作りをしたい、私と、本当に?こんな、奇妙な身体になってしまった、私と?
「オーシュット、本気ですか?それに、濡れてないんですよ?いきなり挿れようとしても、無理です」
「あ、そっか。……えっと、こういうときは……テメノスを気持ちよくさせればいいんだよね?」
まったく、どこで仕入れた知識なのか。オーシュットはにっこり笑うと、テメノスの首筋に噛みつくようなキスをしてきた。そしてそのまま首を舌でなぞり、鎖骨へと降りてゆき、やがて平らな胸にたどり着くと、じゅ、と音を立てて肌を吸う。その吸い方は流石狩人というか、獲物の急所を的確に狙ったものだった。ぞくり、とした感覚が全身を奔り、甘い声が漏れてしまう。
「ぁんっ、……は、ぁ……お、しゅ、……っと、……ぁ」
もどかしい刺激により齎される快楽は続けざまぞくぞくと背筋をのぼり、下腹部をじれったく重くする。オーシュットはそのまま外気に晒されてピンと立ち上がっているテメノスの乳首に舌を這わせた。ざらりとした、獣人特有の舌先とぬくみに乳首を包まれ、テメノスの腰が跳ね上がる。乳首で感じるなど生まれて初めてだが、これも「雌」にされた影響だろうか。思いの他大きな快楽の海に突然投げ出されたテメノスは不安げに眉根を寄せながら、必死に空気を求めた。
「ぁあんっ、な、なに…?!」
わけもわからず甘い声をあげるテメノスの乳首にむしゃぶりつくようにオーシュットは更に刺激を加え続ける。そして彼女の犬歯がカリ、と乳首を軽く噛んだ瞬間、テメノスの意識が軽くトんでしまった。そして同時に下腹部でトロリと何かが内部からこぼれおちてくる感覚。感じている、ということだろうか。
「テメノス、きもちい?」
顔を上げたオーシュットが、純粋そうな表情で訪ねてくる。その表情は普段の彼女と何ら変わらない筈なのに、何故か捕食されている、と感じてしまうのは気のせいだろうか。
「は、わか、……りません……こんな、こと、はじめて、で……」
顔が、熱い。思わず顔を背けてしまった。するとオーシュットは更に乳首を刺激してくる。あいている方も片手でコリコリと刺激してくる。正直なところ、胸ではなく下半身の方をどうにかして欲しかったが、オーシュットなりに何か考えているのだろう。
「ふふ、腰、うごいてるよ。気持ちいんだね、感じてるんだよね?乳首、きもちいんだ。なんか、テメノスかわいい。ぎゅってしたい。早く、おちんちん挿れたい」
彼女の幼い外見でそんなことを言われると、倒錯的でなんともいえない。だが、その表情はすっかり捕食者の顔になり、その準備をしているのだ。獲物を狙い定めた獰猛な目――旅の最中もよく見た、その攻撃的で鋭いまなざしに、いま、自分が囚われているのだと思うと、こくり、と喉が鳴る。ぞくぞくする。早く、はやく、その、さきに――
「も、もう胸はいいので……は、やく……くださ、い……」
もじもじと濡れた下半身をすり合わせて主張すると、ようやくオーシュットは胸から顔を上げた。
「大丈夫?もう、ちゃんと挿れられる?わたし、確かめるね」
言うが早いか、オーシュットはテメノスの両ひざの裏に手をまわし、脚を開かせる。抵抗もできず(そもそも力の差がありすぎて無理なのだが)なすがままにされるテメノスだったが、正直非常に恥ずかしかった。ひんやりとした外気に晒された自分の女性器がどうなっているかなど、見たくもない。粘着質な液体がとろり、と流れ落ちる気がして、テメノスは顔から火が出るほど恥ずかしかった。
「おぉ~、濡れててひくひくいってる。テメノスのここ、すごく綺麗な色してる。トロトロで、おちんちんが欲しいっていってるみたい」
「い、いわないで……その、恥ずかしいので……」
「なんで?テメノスのここ、ピンク色でほんとに綺麗だよ。新鮮な肉みたいで、うまそう。ちょっと触ってみるね」
「あ、ちょ、ぁあああっ!」
オーシュットがいきなりテメノスの陰唇に舌を這わせだしたのだ。そのまま溝に沿ってゆっくりと舐りながらクリトリスを唇で含むと、舌先でコロコロと転がしてくる。その唐突で強烈な刺激に、テメノスは肢体をビクビクと震わせた。こんなにも感じやすいのか、この身体は。余りの快楽に恐怖すら感じながら、その快楽を逃そうとテメノスは身体を捩る。冷たい岩肌に触れている背中が擦れるが、そんなことは気にしていられる場合ではなかった。
そのまま、じゅ、じゅっ、と溢れてくる愛液を吸われて、テメノスは再びイってしまう。
「はっ、……ぁ……ぁ、あんっ!」
「テメノス、かわいい。ねえ、そろそろおちんちん挿れても大丈夫かな?いっぱい濡れてるし、ひくひくしてて、わたし、我慢できなくなってきた」
「は、…い……きて、オーシュット……」
すっかりと快楽で意識が混濁してきたテメノスは、完全に受け入れるための雌と化していた。オーシュットに向けて両腕を広げ、蕩けた表情をする。
オーシュットの喉が、コクリ、と動いた。彼女の目は据わっており、呼気も荒い。狩りの時の興奮とは違う、生殖のための行為に彼女が興奮しているのがわかり、テメノスの肢体が反射的にきゅ、と縮こまった。
「テメノスが、欲しい」
ぞくりとするような、彼女にしては低い声。猛獣の舌が、ぺろりとテメノスの脇腹を舐める。テメノスが小さな悲鳴をあげるとオーシュットの大きな口の口角が上がる。そして、その体躯にしては大きな獰猛な性器の先端が、テメノスの蜜壺にぴたり、とあてがわれた。ひくつく熱を享受して、テメノスの腰が浮く。その瞬間、熱くて苦しくて太い肉棒が、テメノスを貫いた。
「ぁ、ぁあ―――――――――――ッ!!!」
「んっ、ふ……テメ、ノス……きつ、……でもっ」
先端部分が入り込むと、オーシュットは遠慮なく一気に肉棒をテメノスの膣内に挿入する。ぶちぶちと、処女膜が破れる音がして、テメノスの翆の瞳からはぼろぼろと宝石のような涙が流れ落ちた。それに気付いたオーシュットはその涙をついばむようにぺろぺろと舐めとっていく。
「ん、ごめんね、テメノス、苦しいよね……」
「は、あ、……だ、いじょうぶ、……だか、ら……遠慮は、しな、いで……」
そういって垂れさがってしまっているオーシュットの獣耳を撫でると、いいの?といわんばかりにオーシュットがぱっと顔を上げる。
「でも、テメノス、苦しそう」
「ん、ふぅっ……きっと、さいしょ、だけ……だから」
この身体――つまり、女性器があり、膣があり、子宮もあるであろう、殆ど女性と変わらない下半身ならば、男性器を受け入れることは可能なはずだ。オーシュットのそれが、通常の人間にとって規格外であろうと、恐らくは大丈夫のはず。少なくともテメノスは、この後出産というもっと大変な事をしなければならないのだから、この程度の痛みに耐えられなくては困る。実際、痛みは想像していたほどではなかった。女体は痛みに強いというのは、本当だったらしい。
「ん-、そしたら、動くけど、……わたし、がんばって、やさしくする。テメノスのこと、大好きだから」
オーシュットはそういってテメノスの薄い唇に己のそれを重ねた。そんなことが出来るとは想像していなかったテメノスはあっけにとられたが、そのままオーシュットの舌が入り込んできて歯列をなぞりだし、熱をわけあたえてくるものだから、ふるりと身体の芯が震えてしまった。オーシュットの口付けに応じるようにテメノスも舌先を絡め合い、熱を交換しあっている間に、オーシュットは少しずつ腰を動かし、肉棒の抽出を繰り返す。その度にこすれる膣襞は余すことなく快楽を拾い、テメノスの腰はゆらゆらと動かして快楽をより拾おうと無意識に動く。テメノスの媚肉がオーシュットの大きな肉棒に食らいつく度、オーシュットは腰を動かして奥へ、奥へと熱を進める。その動き、すべてが両者に快楽を落として、行為を加速させた。
「あっ、ん、はっ、……オーシュット、おく、……おくっ」
テメノスの身体はすっかり快楽に蕩けてしまい、飛び出てくる声も自分のそれとは思えない程甘ったるくて、雄に媚びるそれそのものだ。けれどもその声はオーシュットの火をつけたらしく、テメノスの細い腰に両腕をまわすと、ぱんっ、ぱんっ、と肉同士がぶつかる激しい音が洞窟内に木霊するほどに激しい動きで腰を打ち付けだしてくる
「はっ、んっ、テメノスの膣内(ナカ)っ、すご……いよ……!きもちい、きもちい……!このまま、子作り、しよ……!!」
そのままぐっと奥に侵入した彼女の太い欲望が、ぐぐ、ぐ、ぐ、と最奥の子宮口に押し付けられているのがわかる。そして、そのままソコに熱い飛沫――たっぷりの精液が吐き出された。
全身で呼吸をして、なんとか整えようとするテメノスの太ももの間から、どろりとした白濁――うけとめきれなかったオーシュットの精液が零れ落ちてくる。オーシュットはといえば、全身汗まみれになったテメノスの肌をぺろぺろと舐めて綺麗にしてくれていた。獣の雄は交尾が終わればそっけないものだとおもっていたのだが、やはりそこは獣人ということで、違うのだろうか。ただ、そんな中でも少しでも音が聞こえると彼女の耳がぴくりと動くあたりは、周囲の警戒も怠ってはいないようだ――大切な番を守ろうとする行為に、なんだかテメノスの心の中にほんのりと温かなものが灯る。それだけでも彼女のところにきてよかった、と、思えた。
「テメノス、おきた?ね、大丈夫?大丈夫そうなら、わたし、また交尾したいんだけど」
「ちょ、っと……それは……。家に帰ってからに、しませんか?」
「ん、そだね。テメノス疲れてそうだから、わたし、抱えていくよ。でもその前に、テメノスのこと綺麗にさせて?いくらなんでも、番のこんな姿を誰かには、見せたくないし」
「ちょ、オーシュット、そこは……ぁんっ」
腫れぼったくなり感じやすくなっている乳首に触れられ、テメノスは思わず甘い声をあげてしまう。
「あれ?まだ、子作りしたい?」
「そ、そうではなくて……君に触れられると、私、どうも、おかしくなってしまうというか、自分がわからなくなってしまって……」
しどろもどろになりながら答えると、オーシュットがぽかんとしている。顔から火がでそうなくらい、恥ずかしい。ただ、実際子作り――つまりはセックスの最中は何が何だかわからなかった。ただ、もう快楽の大海に落とされて、そこでおぼれないように必死だった気がする。オーシュットのモノを受け入れてからは、もうそんなことすらどうでもよくなって、ひたすら快楽を求めていた。一応は聖職者として貞淑に生きてきたこの数十年、自分の身体がこんなにも快楽に弱いとは知らなかった。純粋な男の身体であったときも、自慰行為などは本当に一握りほどしかしたことはないし、それも処理以上の意味合いを持たなかったのに。
「それは、きもちよすぎてあたまがまわらなくなるってこと?」
「そ、そうですね……たぶん、そうだと、おもいま……ぁ、だから、だめ、だと」
「ふふ、感じてるテメノスは、いつもよりもずっとかわいい。年上の人間だと思えない。ちゃんと、わたしの番だ」
オーシュットの言う番は、夫婦という意味のようなものだろう。相手を大切に思い、そして大切に思われる。愛の形は様々だが、確かに、オーシュットはテメノスを深く愛しているようだ。彼女なりの好意はくすぐったく、そして嬉しいと、テメノスは思う。
「そう、ですね……でしたら、私にも、あなたを、気持ちよくさせてください」
「??わたし、テメノスと交尾して、気持ちよかったよ」
テメノスは身体を起こし、要領を得ないオーシュットの額に口づけをすると、濡れている髪を優しく撫でた。
「ふふ、オーシュット。お願いがあります。ちょっと、そのままでいてくださいね」
「ほよ?」
テメノスはまだ硬さを少し保っているオーシュットのペニスの先端にか細い指で触れる。すると、オーシュットの身体がびくり、と触れた。
「わっ、テ、テメノス……!わたし、まだ……」
「大丈夫です、悪いようにはしませんから……」
そして茎の部分に徐々に指先をシフトさせながら、てのひら全体で包んでやわやわと愛撫する。勿論そんな刺激でイけるわけがないのは承知で、どんどんと手を下に、陰嚢部分へとさげていった。たっぷりの精液がまだ蓄えられている陰嚢を右手で、左手はペニスの生え際を捉えて刺激しながら、透明な汁を浮かべている亀頭部分をぱくりと小さな口で咥え込んだ。
「ひゃあっ、な、なに?」
急所を捕らえられて目を白黒させているオーシュットを他所に、テメノスは感じるであろう箇所、感じるであろう刺激を手で加え、舌先ではくびれの部分を重点的につつきながら優しい―もどかしい刺激を与え続けていた。
「だめだよ、テメノス、で、でちゃう……」
出したばかりで敏感なオーシュットのペニスは、テメノスの淡い刺激でも簡単に大きく勃起して、テメノスの小さな口はすぐ一杯になってしまった。それでも舌先でわざと見せつけるようにたっぷりと舐めて、膨張し熱を蓄える肉棒を扱き、陰嚢を揉みしだいていると、オーシュットの身体がびくびくと痙攣してくる。
――そのまま出して、いいのに。
目でそう訴えるが、オーシュットは首を横に振ると、テメノスの肩を掴むや、がっと勢いをつけてその身体ごと自分から離したかと思いきや、あっという間にテメノスの身体をひっくり返し、再び精液と愛液に濡れたテメノスの秘所に熱く滾った肉棒をつきつけ、貫く。
「ちょっ、オーシュット!私が、あなたを……ぁんっ!」
「だめ、わたしだけ気持ちよくても、よくない!」
そういいながら、オーシュットは先程とはくらべものにならない程乱暴にテメノスの腰を穿つ。身体が揺さぶられ、立ち上がった乳首が冷たい床に擦られてそこからも快楽を拾い、テメノスは全身を震わせていた。もう、どこから快楽なのかすらわからない。触れる感触全てが快楽に置き換えられるようで、理性などはとっくになくなっていた。
「やっ、あんっ、は……っ、ぁああっ、あっ」
まろび出る声は最早意味をなさず、テメノスは必死に空気を求めて藻掻く。それすらも快楽に繋がり、奥は熱く滾る肉棒に穿たれ、コスられ、重い熱に下腹部が支配される。
「やっ、わた、し……おかしっ、おかしくな……ってっ」
「いいよ、テメノス、どんどん、おかしくなって、もっと、たくさん、こえ、きかせて……っ」
オーシュットがテメノスの耳元で低い声で囁く。それだけでテメノスの膣内が収縮し、オーシュットの肉棒を圧迫する。その様に満足したのか、オーシュットは抽出をがつがつと早いものに変える。ペニスの出し入れの度に、テメノスのしろい肢体が揺れ、乳首がすれて大きな快楽が内と外からテメノスを襲う。こわい。こわい。こんなのは、しらない。
「やだっ、こわ、こわ、い……こん、なの……しら、ないっ、」
「テメノス……だいじょうぶ、こわくなんて、ないから。わたしが。わたしが、ついてるから」
そういってオーシュットはテメノスの顔を自分の方に向かせて、口付けをする。唇に、涙に濡れる頬に、耳に、鎖骨に、何度も、何度も落とされる口づけとその体温の接触に、快楽の海で己を見失いかけていたテメノスはほっとしたように表情をくしゃりと歪ませる――それは、まるで全てを受け入れる慈愛の女神のように柔らかな笑みで、それを見たオーシュットの肉棒が更にずくり、と大きくなったのを、テメノスは腹の中で感じた。
「あり、がとう……オーシュット……。あいして、ます……」
「ん。うん。わたしも、テメノス、あいしてる……よ。子供、たくさん、産んでね……」
無邪気に笑うのも一瞬、一転して再び獣の表情に戻ったオーシュットは、テメノスの膣内で肉棒を抽出させる。ひときわ奥に突き入れて、そして、子種を沢山注ぎ込むと、オーシュットはテメノスを抱きかかえ守るように、ぱたりとその場に倒れ込んだ。
「テメノス~。テメノスの匂い、すごく甘くて、おいしそうで、わたし、我慢できないかもしれない」
テメノスを洞穴内の水で清めた後、儀式の服を着せてから横抱きにして運びながら、オーシュットは困ったようにぺたんと獣耳を伏せてそんなことを言い出す。
「あの、すみません、私の体力が……持ちそうも、なくて……今日は、もう勘弁してもらえる?」
「う~……でも、テメノスに触れてたら、我慢出来なそうだし。でも、離れて寝るのは、もっといやだし。わかった、わたし、我慢する」
これも若さなのだろうか。それとも、獣人はやはり性欲が強いのだろうか。獣人の発情期については旅の途中何度か聞いたことがあるが、基本的に雄に顕著に表れ、雌はそうでもないらしい。だから、旅の最中オーシュットにそんなそぶりは殆どなかった。
だが、獣の墓所で儀式をした後のオーシュットは別人のようにテメノスを、雌を求めてきた。儀式をすれば自ずと交尾をしなければならないのだから、当たり前といえばそうなのかもしれないが、これから毎日これでは、子供を産む前に壊されてしまいそうだ。
「テメノスが壊れちゃったら意味がないから、わたし、我慢するよ。触れないようにする。我慢、する」
まるで大好物の肉を我慢するような彼女の口ぶりに、思わずテメノスは笑ってしまい、あまりに愛おしくなってそのまろい頬に小さな口づけをしてしまう。
「テ、テメノス?!」
「ふふ、健気な旦那さまが可愛くてね、思わずキス、しちゃいました」
「も~~~、そんなことされると、わたし、また我慢できなくなるのに!」
そうは言いながらも、オーシュットの表情も嬉しそうだ。
恋をよく知らない獣人の彼女のひたむきで前向きな愛は、確かにテメノスの心の奥底にある棘を柔らかく包み込む。きっと、これからも、そうなのだろう。明日はクリック君に報告にでもいこうかな。ちゃんと私は愛されて、そしてひとりのひとを愛することが出来たのですよ、と。
そして、子供が産まれたら、教皇やロイにも報告をしないと。向き合ってきた過去たちに、今は笑顔を向けられる。
それだけでも、テメノスにとっては大きな一歩だった。それは、この世界で生きていてもよいのだ、という、大きな希望だった。