どうしたって、抗えない

「ねえカスパルくん、最近マンネリじゃない?」
「は?」

 夜分遅くに突然部屋を訪れたドロテアは、ドアを閉めるなりベッドでくつろいでいたカスパルに馬乗りになってくる。彼女とはいわゆるそういうことをする仲ではあったりはするのだが――だが、流石にいきなりの展開でカスパルは面食らった。別に性欲がない、というわけでもなく、むしろ年齢的にはそういうものは発散させてしまいたい方ではあるにせよ、なし崩し的に始まったこの関係をずるずると続けているのもどうなのか、と一応カスパルも思ってはいる。思ってはいるのだが。
 ふわりと薫る甘い香りに、とろりと蕩けたような――それでいて挑発的なまなざしと、ぽってりと濡れた紅いくちびる――そしてほんのりと染まった頬に、カスパルはいつだって、抗えない。
 今宵もその例にもれず、カスパルの愚息はドロテアの体重と太ももの感触だけで悲しいかな反応してしまっていた。



 ところが現在カスパルは両腕を頭上にあげるように組まされた上手首は拘束されたあげく、何故か中途半端に服を脱がされていた。インナーは胸元までたくし上げられており微妙に夜の空気が寒い。一方下半身はといえば、半端に反応しているカスパルのペニスだけはすっかり露わにされているものの、下着とズボンがずらされている程度で雑に放置されていた。そしてカスパルの鍛えられた太ももの上には、相変わらずドロテアが馬乗りになっておりとても良い香りがする――奇妙な話だが彼女の体温とこの香りだけで先ほどからカスパルのペニスはむくむくと大きくなってしまっているのが、自分でも情けないのだが仕方なかった。なにせドロテアの太ももは太いとはいえないものの歌姫として最前線にいただけあって適度に鍛えられているお陰かむっちりと肉感的でもあり、その柔らかさと体温だけでもたまらない。

「ふふっ……もう、期待しちゃって、かわいいんだから」

 にっこりと紅い唇が曲線を描くとドロテアは綺麗につま先まで手入れをしている右手でカスパルのペニスを掴んだ。

「ぅひッ?!」

 思わず、声が漏れる。彼女がそういうことをするのは特に珍しくもないのだが、彼女の行動を一切自分で妨害できない体制でかつ彼女のいいように衣服を乱されているので、要するにカスパルはまな板の上の鯉状態で何もできない上に突然急所に触れられて、声をあげるなという方が無理である。

「う~ん、イイ反応……でも、ちょっと今日は趣向変えようかと思っててね?」

 チロリ、と赤い舌を出してそのまま唇を濡らすと、ドロテアはペニスの竿部分をゆっくりと人差し指と中指で刺激しだした。それも微妙な力で、ゆっくり、である。

 ぞくぞくとするもどかしい感覚がカスパルを襲うのだが、それは決定打には明らかにかけているからひどくもどかしい。それでもカスパルにできること言えば情けなく声をあげるか両腕をバンザイするように挙げた上縛られたまま上半身をゆするか、下半身を動かしてドロテアの行動を妨害する程度しかできない。

「あらあら、だめよ……ゆっくり、今日はゆ~っくり遊んであげるんだから……」

 にこり、と笑うそれは、完全に悪魔の笑みだ……とカスパルは怖気を感じてごくりと唾を飲み込むのだった。

 ドロテアの与える刺激は決して決定打にならないように、けれども微妙にしつこく、ゆっくりと、カスパルの快楽を高めては抑え、再び高めては抑えを繰り返していつまでたっても終わらない拷問のようだった。竿部分を扱く力は相変わらず決して強くはなく、かと思えばくびれの部分をつま先で引っかかれたり、鈴口に指の腹を押し当ててきたかと思えば今度は根元を抑えられる。時折思い出したかのように陰嚢を揉みながら鈴口を刺激され、殆ど拷問だった。そうしている間にもドロテアは腰を動かして、カスパルの太ももにしなだれかかるように豊かな胸元を押し付けてきたりもする。夜着の隙間から覗くしろく豊満な乳房は零れ落ちんばかりで、それもまたひどく甘美な毒だ。

「うぅ……ぐっ、……う、……ドロテぁ……ア……!」
「う~ん、まだよねえ……もうちょっと、遊ばせてね??」

 言いながらふうっと耳元でドロテアは熱い息を落として、ちゅ、と耳たぶに口づけをおとす。それだけでゾクゾクと背筋を快楽が襲うのに、カスパルのペニスの根元は相変わらずドロテアの左手が強く握り込んでおり下半身によどむ熱を一向に解放できない。しかも彼女の繊細でしろい指先が赤黒くグロテスクに膨張したカスパルのペニスを時折ゆるやかに刺激する、その暴力的な光景も相まって、カスパルは自分が今快楽を感じているのが苦しんでいるのか、よくわからなくなってきていた。

「や、やめ、……おい……ァ……」

 カスパルが唇をわななかせて頬を震わせてもなお、ドロテアは首を傾げて「だあめ」と酷薄に告げ、根元を握ったまま今度は陰嚢を刺激しだす。快楽を放出できないのに刺激を与えられるという地獄のような拷問に、カスパルはもはや限界だった。気づけば眦からは悔しさなのか生理的なものなのかわからない涙が流れてきており、口の両端からは涎が止めどなく流れて下半身が自ずと動いてしまう。だがそのたびにドロテアは姿勢を変えてくるものだから、その肉と肉の接触がまた地獄のような快楽をあたえてくるのだ――熱を全く放出できないお陰で、まるでどこもかしこも快楽を拾うようになってしかったかのようで、カスパルは唇を強く噛みしめる。

「くっそ……あ、……ち、……くしょ……おま……」
「あらー。まだそんな目ができるなら、余裕かしら?」
「……っんっなわけねぇだろっ……ッ!」

 カスパルが叫ぼうとすると、突如ドロテアが根元を離す。
 当然、遮るものがなくなった熱く滾るものは決壊を起こした。
 たっぷりの、今の今まで散々焦らされた欲望はその熱を怒涛のように解放してゆく。ドロテアの両手どころか、彼女がまとったままの深紅の衣服までカスパルの白濁が汚していった。

「……ふふふふ、いっぱいでちゃったね、おにいちゃん?」

 肩を竦めてドロテアは笑い、自らの指についたカスパルの精液をぺろりと舐める。その悪魔のような妖艶な表情に、射精したばかりだというのにカスパルのペニスは再び熱を帯びてきた。

「でも、今日は手でしかしないってきめたの。いいわよね?」
「んなぁ……⁈」

 そのままふたたび指先でカスパルのペニスを握り込むドロテアは、非常に楽しそうな表情をしていた。