ベテルギウス

 大聖堂でいつものお勤めを果たして、テメノスは帰ろうとしていた。今日は頑張りすぎてロイは先に帰っている。いつもならば二人で行動するから教皇イェルクも心配しないのだが、もうとっぷり日が暮れてしまっていたから、教皇イェルクは気を付けるように、と一つ余計に聖火を渡してくれた。聖火は旅行く信徒たちの護り火だ。麓の村、フレイムチャーチまでの街道も整備されて聖火が灯されているけれど、魔物も出る。だから、いつもはロイと共に還るのだが、今日はテメノスが張り切りすぎてしまい、ロイが焦れて先に帰ってしまったのだ。
 こうしてみると、たった一人で参道を帰るのはどこか心細い――特に途中にある洞穴が悪い。足場も悪いし、足音が鳴り響いて何かに追いかけられている気がするから。
 テメノスはそれでも気を張って帰ろうとしていた、その時だった。突然後ろから声を掛けられた。

「お、お前教会の坊主だな。一人きりか?麓の村まで送ってやろうか?」

 下卑た声だ。大方、野盗の類だろう。テメノスは声を無視して足早に去ろうとすると、ぐい、と腕を引っ張られる。そこにあったのは、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる男たちの姿だった。

「ヒュウ、やっぱりな。綺麗な顔してるほうだ、おい、当たりだぜ」
「おお、間近で見ると本当に女さながらに……いや、そんじょそこらの女より綺麗な顔してる……それに、この肌」
「っ、触るな!」

 ろくでもないことを考えているのが丸わかりの野盗から身を捩るが、そのはずみで手にしていた聖火がひとつ、落ちてしまった。聖火は地面に転がり、テメノスを下から映し出す。

「ほほう、本当に美人じゃねえか。これはヤりがいがあるってもんだ。おっと、魔法を唱えられちゃあ叶わないから、口は塞いでおこうか」

 そういうなり粗野な男がテメノスの口になにやら布切れを突っ込んだ。ロイのように鍛えていれば……と思うが、もう遅い。テメノスはその場に押し倒され、法衣をびりびりと乱暴に破かれる。夜の帳の降りた冷たい空気に触れた乳首がピンと立ち、悪目立ちしていた。聖火に照らされてそれがいやがおうにも目立ち、野盗たちはニヤリと笑うや否や、テメノスの乳首をべろりと舐める。

「ん、ん―――っ!!」

 気持ちが悪い、気持ちが悪い、気持ちが悪い!そんなところを舐められて、感じた悪寒は尋常ではなかった。だが男たちは容赦なくテメノスの白磁の肌に鬱血痕をつけてゆく。白い首筋に、鎖骨に、薄い胸板に……そして臍に、それから、太ももにも。
 テメノスの兆しはまったく萎えていて反応を示してはいない。当たり前だ。こんな行為は気持ちが悪いだけだからだ。尚も男たちはテメノスの腕や額、胸元に乱暴に触れては鬱血痕を残してゆく。特に一人の男が熟れた乳首に拘って、刺激に膨らんでしまった乳輪をやけに丁寧に舐めまわしていて気持ちが悪かった。しかもその触れ方がいかにも情動を煽り、テメノスは思わず太ももをすり合わせてしまう。もっと、触って欲しいところがあるのに、どうして触らないのか――そう思ってしまったことに、テメノスはぞっとした。この身体は、襲われているというのに快楽が勝ってしまうのかと。

「んん、んん―――っ!んっ、ん―――!!」

 声にならない声でロイを呼ぶ。ロイはとっくに家に帰っているはずなのに、きっと来てくれる、そう信じて呼びたかったのだが、口元を今度は汚い唇で押さえつけられた。

「へへ、こいつのおっぱい、いやらしいな……乳輪も腫れてるし、乳首なんかぽってりしていて、最高に旨そうだ」
「まだガキだってのに、腰を振って俺たちを誘ってるぜ」

 固く閉じたはずの唇に無理矢理舌を侵入させられて、口腔内をかき回される気持ち悪さといったらなかった。テメノスはボロボロと涙を零しながら抵抗するのだが、上背のある男三人には敵うわけもなく、されるがままだった。そして胸に執着していた男がいよいよ乳首に歯を立てると、強い刺激がテメノスを襲った。今までに感じたことのない刺激に、テメノスは細い身体をしならせて絶叫しようとしたが、口も塞がれていてままならない。

「お、乳首、やっぱり相当感じるな……スキモノじゃねえか、このガキ」
「大方教皇にも足を開いてとりいったんじゃねえですか?この顔だし、可愛がられているみてぇですし」

 テメノスの乳首を可愛がっていた男が、再び乳首を転がし、もう片方の乳首も強く抓る。真っ赤に腫れぼったくなった乳首は質量を増しているようで、ピンと立ち、刺激を待ち望んでいるかのようにふるふると震えている。

「んっ、んっ、ふはっ、あっ、あ―――っ!!」

 宵闇に、テメノスの悲壮な声が木霊した。下肢まで引き裂かれたローブは、テメノスの恥部も外気に晒していたが、いよいよテメノスの芯がゆるく持ちあがってきた。こんな状態で快楽を得ることに絶望して、涙を流し続けるテメノスと、ゆるく立ち上がっているテメノスの芯をよそに、男たちはテメノスの後孔に無粋にも指を突っ込んだ。

「やぁ、あ、痛い、痛い、痛い、痛い、……ロイ!教皇様!たすけ……」

「ばぁか、誰も助けなんて来やしねえよ。お前はここで俺たちに犯されて精液塗れになるんだよ……と、そろそろいいか」

 ぐちゅぐちゅと乱暴に後孔を犯していた男が、自らの下肢を寛げてグロテスクなほどにそびえたつ男根を取り出した。それを見てテメノスは蒼白になる。これから自分の身に起こることを、悟ったからだ。

「や、それ、は、やめ、て……おねがい……それ、は……」

 けれど、身体を押さえつけられて、手も足も出ない。男は容赦なくテメノスの後孔に男根を突き刺した。

「ぁあっ、あ――――っ!あっ、痛い痛い痛い痛い痛い、やめてっ、やめて!いやっ、やめて‼」
「ははっ、最高に気持ちがいいなあ……!やっぱガキだからか柔らかくてぬめって俺のコイツをぬるぬる受け止めてやがる。欲しがってるぜ、お前」

 男の言葉に、テメノスは絶望しながらも暴れた。だが、四肢をがっちりと抑えられ、頬や胸元をべろべろと無遠慮に舐められて、男の楔を打ち込まれ、ろくに動けやしない。男は容赦なく身体を打ち付けてきた。その都度内臓がせりあがってくるような悪寒を覚えて、吐きそうになる。テメノスが嗚咽を我慢していると、別の男の唇が重なった。気持ちが悪い。別の男はまだ胸に執着しているのか、テメノスの胸元はぱんぱんに晴れ上がり、幼女の乳房のようになっていた。気持ちが悪い。ロイ、教皇様、たすけて。こわい。こわい。こわい。

「よし、俺がたっぷり、お前のナカに種付けをしてやるからな……それっ!!」

 男の声と共に、灼熱のような精液がテメノスの胎内に吐き出される。びくびくと痙攣するテメノスの肢体に、男たちは興奮し、唇を貪っていた男も、乳首を愛撫していた男も、いつの間にか下半身を出してテメノスの肌に男根を押し付けていた。

「はははっ、いい顔だ……清楚で可憐な神官様が精液塗れになって……なんて厭らしいんだ」
「乳首も最高に気持ちがいいぜっ、女のおっぱいみたいに膨らんで、俺を誘ってやがる……!!」
「あ、や……やめ、……て……もっ、これ以上……や、……やめ……たすけ……」
「何をしているんだっ!!」

 そこに、聞き覚えのある声がした。男たちの精液に塗れた顔をゆっくりと動かすと、般若の形相をしたロイが、断罪の杖を持って立っていたのだ。

「テメノス、帰りが遅いから気がかりで迎えに来たら、……お前たち、覚悟はいいんだろうな」
「ひっ……」

 ロイの余りの迫力に、男たちは一瞬で萎えてしまったのか、テメノスを投げ出して逃げ出そうとする。だが、それを赦すロイではなかった。

「聖なる光よ……っ!」
「ぎゃあっ!」

 男の一人が、ロイの魔法で焼かれて悲鳴を上げた。もう一人はロイが振り上げた断罪の杖で足元をすくわれ、崖から落ちていった。そしてもう一人——テメノスを犯していた男は。

「ひ、ひぃ……、ゆ、ゆるしてくれよ……孕むもんじゃねえだろ?な?お前だって、こいつと楽しんでるんだろ?な?」
「……下衆が」

 テメノスが聞いたことがないような、ロイの低い声に、テメノス自身が恐ろしい、と思った。ロイは本気で怒っている。そしてロイが振り上げた断罪の杖は、容赦なく男の頭蓋めがけて振り下ろされたのだった。


「ロイ、ロイ……ロイ……怖かった……ロイ……私、怖かった……」
「テメノス、ごめんよ、僕が遅くなったばかりに、君を傷つけてしまった……さあ、うちに帰ろう。うちに帰って、風呂にはいって、温まろう?」
 ロイがマントをテメノスにまとわせようとすると、テメノスはビクリと怯えたように体を震わせてからロイをじっと見て、それが本当にロイだと分かってからほっとしたように身を任せてきた。その様があまりに哀れで、抱きしめて落ち着かせるようにしていると、テメノスの双眸からぼろぼろと涙が零れ落ちてくる。ロイはテメノスを安心させるように、「テメノス、大丈夫だから」と声を掛けながらその背をゆっくりとさすっていた。

「うん、ロイ……でも、私、犯されちゃった……ロイ、私は、汚い?」
「汚くなんてない。汚いなんて、思うわけがないだろう?君は綺麗だよ、テメノス」

 そういってロイはテメノスの唇に、己のそれを重ねた。その温かさに、テメノスの双眸からは更に涙があふれ出し、零れてくる。かたかたと震えるテメノスを横抱きにして、ロイは九十九折りの山道を下って行った。その間中、テメノスは「私は汚い?ねえ、ロイ、私、あの男たちに犯されて……穢されちゃって……」と繰り返し問うてきた。まるで、それしか言えなくなった子供のように。  だからロイはその都度「汚くなんてないよ。綺麗だよ」とテメノスをなだめ、そしてキスを繰り返してやった。
 それでもテメノスは怯えたまま、家にたどり着いたのだった。



 テメノスがロイに肌を見られることも躊躇するようになったのは、それからだ。それまでは一緒に風呂も入っていたし、水浴びだってしていた。けれども、男たちに犯されてから、テメノスは極端に肌を出すことを嫌うようようになった。ロイがいくらそんなことはないと言っても、頑なに首を横に振り、かたかたと震え出してしまうのだ。だから、ロイは無理を言うことをやめた。ただ、テメノスが怯えだした時は優しく抱きしめて眠るようにした。

「テメノス。君は綺麗だよ。汚くなんてない。大丈夫、僕がついているから」

 それが、テメノスが安堵して眠りにつくまでの決まり文句になっていた。

 その言葉を繰り返して、やっとテメノスは眠りにつけるのだ。ロイは、テメノスをもう他の誰にも触れさせない、とその時に誓った。決して誰にも触れさせない。触れさせやしない。テメノスはもう、僕と一生一緒に暮らす、それが彼の幸せで、彼が幸せに暮らすには僕が傍についていなければならない。本気でそう思っていた。一生この子は結婚なんてしなくていいし、一生僕の傍にいればいい。
 それが、テメノスの為にもなると、信じていた。すべてが崩れ去るあの日までは。



「教皇様、どうしても行かなければならないんですか?」
「うむ、ロイ……そなたでなければこの任務は務まらん。すまんが、頼まれてはくれまいか」
「ですが、僕にはテメノスが……」
「……テメノスか……。そうじゃな、あんな目に遭って未だにどこか精神的にも不安定じゃろうし、そなたが不在の間は、大聖堂に住まわせるか?」

 教皇イェルクの言葉に、ロイはけれども完全には安堵できなかった。テメノスは、一人では眠れない。自分がついていなければ。

「ですが教皇様、テメノスは……眠りにつくまで僕がついていないと安心して眠れないのです。僕が、傍で抱いていてやらないと」

「ロイよ、そなた幾つになった?」
「もう、三十ですが」
「テメノスももう二十五じゃ。大丈夫、大丈夫じゃよ。テメノスとてそこまで弱くはない。信じてやれ」
「ですが!」
「……ロイよ、言いたくはないが……そなた、少々過保護すぎやしないか?テメノスはあれはあれでなかなか強かに育ったぞ?」
「……それは、知っています。テメノスは芯の強い子です……でも……」
「ロイ、そなたの懸念は十分わかる。だが、これは良い機会ではないか?少し離れてみれば、意外とどうってことはない、そんなこともあるものじゃ」
「……はい。どうしても、僕じゃなければいけない任務なんですね……」
「すまんのう、ロイ。そなたにも心配をかけてしまって」
「いえ。異端審問官として、他所に懸念を持っていては、仕事は務まりませんから」
「よく言ってくれた……すまんのう」

 最後に付け加えられた謝罪の言葉の意味を飲み込んで、ロイは首を横に振る。

「言わないでください、教皇様」
「そうじゃの。ここまで強硬しておいて、言わぬ約束じゃな」

 教皇イェルクも頷くと、ロイは顔を上げ、旅立つ決意をした。何、少々の間だ、大丈夫だろう――元来の楽天家の性格が、この時は悪い方に出てしまった。



 ロイが行方不明になった――それは、教皇イェルクにとっても寝耳に水だった。さて、テメノスにどう伝えたらいいのか。彼が取り乱すだろうことは目に見えていた。兄弟のように身を寄せ合い育った二人なのだ、ましてやあんな事件もあった、取り乱さないわけがない。自分が代わりになれるとは思わなかったが、せめて抱きしめてやることくらいならばできるだろうか。過度の男性恐怖症に陥っているテメノスが、抱きしめさせて、くれるのだろうか――恐怖症と言っても、フレイムチャーチの見知った顔の人間にならば触れられても大丈夫なくらいには回復してきてはいた。見知らぬ男性は未だ駄目だが、自分ならば大丈夫だろう、教皇イェルクはそう思いなおして、重い足取りでテメノスの待つ部屋へと赴いた。



     果たして、知らせを聞いたテメノスは恐慌状態に陥ってしまい、教皇イェルクが宥め、抱きしめて、頭を撫で、その存在を知らしめることで漸く落ち着いた。それでもその美しい双眸からは涙が溢れて止まらず、ロイの名を繰り返し呼んでいる。教皇イェルクは心が痛んだ。いっそ自分が変わってやれればよいとさえ思った。だが、現実に起きてしまったことは変えられない。

「テメノス。これからは私しかいないが、そなたを守ろう……せめて、そなただけでも、守らねばならぬ」
「教皇様……」
「テメノスや。そなたは穢れてなどおらぬぞ。ロイもよく言っていたであろう。そなたは聖火に祝福された御子じゃ。清らかな魂の持ち主じゃ。その心に炎を持つ子じゃ。よく覚えておくとよい」

 そう言って銀糸を撫でてゆくと、緊張の糸がほぐれてしまったのか、テメノスは寝台に横になると寝入ってしまった。その頬に残る涙の痕が痛々しく、教皇イェルクは老いた指先でそっと白磁の肌に触れ、その痕をたどった。

「すまぬな、テメノス……そなたには、辛い思いばかりをさせてしまって……。せめて、これからの人生、幸多く生きてくれ」



 最初に会った時の印象は、少し頼りないかな、程度だった。それでも自分を守ろうという言葉が嬉しくて、ついロイを重ねてしまったのは秘密だ。彼にはロイに似た包容力がある、と直感的に感じたのだ。だから、第一印象の少し頼りないけれど、はすぐさま変わった。魔物との戦いでも、果敢に剣を振るい、自分を守ってくれる。彼は、ロイのように自分を守ってくれる存在なのではないかと勘違いするには十分だった。何より、彼の性格はロイに非常によく似ていて、正義感が強く、何よりテメノスに対して紳士的だった――失礼な言葉も時々吐かれたが、それは若さゆえのものだろうとも思えた。
 聖堂機関の騎士、クリック・ウェルズリーに関してテメノスの印象はそんなところだった。決して悪くはない、どころか最初から良かった。ロイほど心を許せる相手ではないかもしれないが、最初から大分心を許していたと思う。まして過去の経験から極度の男性恐怖症があるテメノスにしては、珍しく好感の持てる青年だと思えた。相手がどう思っているかはともかく、テメノスはクリックに対して共に行動する時間が経てば経つほど好意のようなものを寄せる様になっていた。それは、彼が徹底してテメノスに対し敬意を払い、事実守ってくれていたからだろう。剣の腕はまだ未熟と言いながらも、それなりに戦えているし、何より頼れた。こんな思いを抱くのは、ロイと共に居た時以来だった。そんなにあっさりと心を開けたのも、ひとえにクリックの素直さのお陰だろう。彼はいつだって真っ直ぐにテメノスに対してくれた。まるで無垢な少年の相手をしているように思えるときもあったかと思えば、頼れる男性としての姿勢も見せる。そんなクリックに、好意を寄せるのにそんなに時間はかからなかった。
 それでも、触れ合いたい、とはまだ思えなかった。それは根っこにある恐怖心と自らが穢れているという意識からだ。自分はあの男たちに穢されてしまった――それは一生ついて回る疵だ。その疵を気取られたくなくて余裕のある大人を演じていたけれど、その実いつ彼に愛想をつかされるかと恐怖心で一杯だった。
 そんな彼がいたから、教皇が殺害されても冷静でいられたのだろうと思う。そうでなければ、自分がどうなっていたかテメノスは想像できない。心を一生閉ざして生きていたかもしれないし、誰かを好きになることなども一生なかっただろう。そう、もうその時点でテメノスはクリックに対して恋情のようなものを抱いていたのだ。
 けれど、これは気取られてはいけない感情。男性恐怖症の自分が同性を恋愛対象に見ることが出来たということにも驚きだったのだが、何よりクリックは若くて好青年だった。見た目だって魅力的だ。自分のような疵物が彼の人生に暗い影を落とすことだけは何より避けたかった。

「テメノスさん、少し歩きませんか」

 二度目の事件が終わってから、クリックはテメノスにそう声をかけてきた。どこか上の空で緊張している様子だ。

「いいですよ、別段急ぐ用事もありませんし。仲間たちにはクリック君とお散歩にいってきます、と言ってきますね」
「はい、ありがとうござます。それじゃあ、僕はここで待ってますから」

 カナルブラインの大河にかかる橋の上で、クリックは満面の笑みでそう告げてきた。ああ、眩しいな、とテメノスはその笑みを見て思った。きっと彼は穢れというものとは無縁に育ってきたのだろうと思わせるほどに、その笑みは眩しくて、テメノスは直視できなかった。



 二人きりで散策している最中も、クリックはテメノスの気を引こうと何から何までエスコートしてくれた。

「あ、この指輪……テメノスさんの瞳の色みたいで、綺麗だな」
「クリックくん、指輪を送りたい女性でもいるのですか?」
「あ、いえ、その……た、たまたま目についただけです!つい、テメノスさんの瞳の色に似ていたから……」

 これでは意識していると言っているようなものではないか。テメノスは思わずクスリと笑う。同時に自分が高揚しているのがわかった。彼と共にいるのは楽しい。彼ともっと共に居たい。そんな欲求が次から次へと湧いてくる。彼ならば、触れられるだろうか。
 彼は戦闘中も何やら気づいていたのか、テメノスを庇うことはあっても触れるということは殆どなかった。もちろんとっさの場合や手段を選んでいられないときは別だ――その程度の分別はテメノスにもあったし、実際触れられても平気だった。それはフレイムチャーチの人々や教皇、ロイに触れられるのは平気なのと同じだと思っていた。無意識に、彼は無害な人間だと――それよりも好意を抱いている人間だから平気だと思えていたのかもしれない。

「ふふ、そんなことを言うと、期待しちゃいますよ?」

 揶揄うように言えば、クリックは顔を真っ赤にしてしどろもどろになる。これはもう確定だろう、と踏んで、テメノスはそっと彼の逞しい手に触れた。大丈夫、怖くなんてない。

「て、テメノスさん!?」
「……クリックくん、私は、君が、……好きです」

 思わず言ってしまってから、しまったと思うが、もう遅い。
 突然の告白に、クリックは驚いた顔をしてテメノスを覗き込む。

「それは、どういう……」

 口に出してしまったからには、取り消せるはずもなく――何時ものように、冗談だと言えばよかったのに、この時は冗談だと言えなかった。もう、心の底からクリックのことを愛していたからだと思う。
 だからだろう、ああもう、そこでどうして気づいてくれないのか。これ以上私にどうしろというのか。テメノスは心の中で焦れた。厄介な恐怖症がなければこれ以上の事だってできるのに、したいのに、心の奥底で未だに燻っている恐怖心がこれ以上のことをテメノスにさせてはくれない。手が出ないのだ。

「ですから……君の事が……」
「テメノスさん!!」

 急に、抱きすくめられた。
 心臓が、止まるかと思った。ぎゅっと苦しくなり、息が止まりそうだった。ひゅーひゅーと呼吸をする音だけがする。身体が、カタカタと震えてきた。駄目、駄目、これ以上はここではいけない。クリックを無理矢理引きはがそうとするのだが、クリックの膂力に叶うはずもなく、テメノスはクリックの腕の中に閉じ込められたまま、真っ青な顔をしてなんとか呼吸を繰り返していた。

「テメノスさん!?大丈夫ですか?!顔色が……」
「ぁ、だ、……は、離して……、離して……」
「テメノスさん……!?」
「はなして……私は……汚いから……」
「テメノスさん、何を言っているんですか?」
「おい、兄ちゃん、離してやれよ、その美人さん、今にも死にそうだぞ!」

 露店で宝石を扱っている商人からの声で漸くクリックは自分の行いでテメノスの具合が悪化したことを悟った。恐る恐る離すと、テメノスはその場に崩れ落ちてなんとか呼吸をしているといった状態だった。

「テメノスさん……ごめんなさい、僕、その、嬉しくて、……テメノスさんも、僕の事を想ってくれていただなんて、……それで……嬉しくて、思わず調子に乗っちゃいました……まさか、そんな風になっちゃうなんて、思わなくて」

 クリックは泣きそうになりながら謝罪を繰り返す。そうじゃない。テメノスは嬉しかったのだ。けれど、身体が反応してしまった。この身体はやはりロイや教皇以外に抱かれることに拒絶反応を起こしてしまうようになってしまっているのだ。

「クリックくん、謝るのは私の方です、ごめんなさい……。私、仲間のところに戻りますね……。せっかく誘ってくれたのに、すみません」

 その場を去ろうとするテメノスの手を、けれどもクリックは放さない。きっとここでこの手を放してしまったら、二度と触れられないだろうから、そう直感的に思ったのだろう。

「テメノスさん、せめてこれを貰ってください。きっとあなたに似合いますから」
「クリックくん……?」
「おう、兄ちゃんありがとな。そいつぁ旅のお守りに役立つ精霊の守護がついている特別品だが、特別安くしといてやる。そっちの美人さんにぴったりだしな!」

 商人の男はそういうと気前の良い額で指輪を売ってくれた。それからしばらく、二人は伴って歩いていた。

「テメノスさん……先ほどは本当にすみませんでした。僕、考えなしにあんな行動をとっちゃって……きっと、嫌われちゃいましたよね……」
「クリックくん、そうではないんです。私は、君の事が好きだと言いました。それは本心です。本当に、君の事が大好きなんです。信頼とか友情とかではありません。愛しています」

 小声ではあるが、テメノスはそう言い切った。するとクリックの顔が再び真っ赤になる。

「テメノスさん、本当ですか?」
「冗談でこんなこと、言えますか?ただ、私は……過去の経験から、男性に触れられるのが極端に苦手なんです。訳は……」
「テメノスさん、わかりました。僕もあなたの事が好きです。だけど、無理矢理は抱いたり触れたりしません。だって、あなたを大切にしたいから」

 テメノスに全てを言わせない優しさが、愛おしかった。テメノスは俯いてしまい、きゅっと唇を噛む。こうでもしていないと、泣いてしまいそうになったからだ。こんなに心をかき乱される相手に出逢えるだなんて、思ってもいなかった。

「クリックくん……ありがとう……」

 本当はクリックの胸に縋って泣きたかった。けれどもこんな往来で、しかもまだ身体は震えている。ともかく仲間が待ってる酒場へ向かおう、とクリックが言ったので、テメノスも頷いた。元々そのつもりだったからだ。

「でも、テメノスさん、指輪くらいはつけさせてくれませんか?これ、僕の給料の三か月分の値段だったんですよ。きっと本当はもっと高価なものの筈です。魔よけのお守りがついているくらいですから」
「クリックくん、……はい、それくらいなら、大丈夫のはずです」

 そう言って手を出すが、手もかたかたと震えていた。クリックは壊れ物を扱うようにそっと触れてくる。すると、どうだろう、震えが少しずつ収まってきたのだ。テメノス自身、驚いて目を見張る。その間にも、テメノスの左の薬指に指輪が嵌められていった。指輪は翡翠の輝きを放ち、いかにも魔法道具といった感じの誂えものだった。

「クリックくん……もう一度、私を、抱きしめてくれませんか?」
「え、でも、テメノスさん……大丈夫なんですか?」
「はい、……今、君に触れられて、少し、安心したんです。ほっとしたというか、よくわからないんですが、きっと君なら大丈夫だって」

 テメノスの声は小さく、表情は優れない。それでも、顔はきっちりとクリックを見上げて、その決意のほどが伺えた。

「わかりました。テメノスさん、……好きです。……本当は、離れたくはない……」

 恐る恐る、という風にクリックはテメノスを抱きしめてきた。テメノスは深呼吸をする。大丈夫、息が出来る。身体も震えてはいない。大丈夫。そう思って、テメノスはクリックの背に自分の腕を伸ばして、絡ませ自分の身に寄せる。逞しい騎士の体躯が感じられて、ふわりと温かくて、守られているような気分になった―—ロイや教皇に抱きしめられているときと、同じように。あまりの安堵感に、テメノスの瞼からぽろりと涙が零れ落ちてしまった。涙は一度溢れると止まらない。このままではクリックのサーコートを汚してしまうとわかりながら、涙は止まらなかった。

「クリックくん……愛してます……。君と一緒に居た時間はそんなに長くなかったけれど、……君の事を愛するには、十分な時間だったんです、きっと」
「テメノスさん……、大丈夫、ですか?」
「はい。……こんなですけど、どうやら私は落ち着いているようです。この言葉も嘘ではありません。だから、宿屋にいきましょう?」

 その言葉の意味を悟り、クリックは目を瞬かせる。

「でも、そんないきなりは」
「大丈夫、きっと、君なら……怖くない、怖くないんです。だって、こんなに心が高鳴ってるし、離れたくないと思うんです」
「わかりました。テメノスさん、手を繋いでいきましょう。僕が、お守りしますから」
「ふふ、まるでこれでは子供みたいですね」

 クリックの気遣いが嬉しくて、テメノスはほんのりと顔を赤らめながらも笑う。涙はもう引っ込んでいた。その笑顔を見て、クリックも笑顔を取り戻してくれた。そのことが、テメノスは何より嬉しいと気づいてしまった。そう、これははっきりとした恋情——テメノスはクリックに恋をしていた。



 クリックは浮足立っていた。何より想いが通じたからだ。思わず抱きしめた時にテメノスが蒼白になった時は驚いたが、なんとか元気になってくれてよかった。何より、指輪を渡せたし、今もこうして手を繋いで歩いている。たったそれだけの事で、クリックは幸せだった。
 宿屋へ行こうなんて大胆なことを突然言われて焦ったが、当人がそう望むのだからそうしたほうが良いのだろう。過去のトラウマから触れられることに抵抗があるようなそぶりは、共に行動していて何となくは察していた。勿論そのトラウマの内容は知らないし、知らなくても良いと思っている。勿論、テメノスの事ならばすべて知っていたいという欲はあるけれど、無理強いはさせたくなかった。
 何よりも、先ほど見せてくれた笑顔はあまりにもきれいだった――思わず見惚れてしまうくらいには。
 クリックはテメノスに対しては一目惚れに近い感情を持っていた。その後の態度を見ていても、芯が強く、意外と好戦的で、けれど賢くて理性的で、時々子供っぽいところがある、本当に魅力的な人だと思う。この手で守ってあげたいと思ってしまう。その力がまだまだ未熟で、テメノスに逆に守られてしまうこともままあるのが、悔しいけれど。
 カナルブラインの夕暮れ時、川風に吹かれながらテメノスと手を繋いで歩いていると、ふと、テメノスが腕を絡めてきた。その大胆な行動に驚いて隣にある顔を見ると、ほんのりと赤らんだ翆の瞳とぶつかる。その光は悪戯めいていて、可愛らしい。銀色の睫毛と髪の毛が夕日を受けて美しかった。何より近くに感じる体温が愛おしかった。テメノスが自分を受け入れようとしてくれていることに、より愛おしさが募った。今すぐ抱きしめてしまいたい、という衝動に駆られるが、先ほどと同じ失態はしたくはない。クリックは姿勢を正し、そっとテメノスの腰に腕を回した。びくりと一瞬驚いたように顔を上げて身体を震わせるテメノスだったが、じっとクリックを見つめてから破顔し、そっとクリックに寄り添ってくる。まるで恋人同士のようだが、事実先ほどそうなったのだから、クリックは内心でとても浮かれていた。ようやく恋が実ったのだ。
 好きな相手とこうしてひたと寄り添い歩くのは、クリックの夢だった。それもこんなに美人で愛おしい人ならば、尚更。見せつけるように堂々と歩くクリックに、テメノスは少し怯えている様子だったが、大丈夫、というように腰に回した手で抱き寄せると、クリックを見上げてはにかむ様に笑う。ああ。可愛いな、愛おしいな。こんな風に笑うひとだったんだ。クリックの胸の内はテメノスへの感情だけで一杯になった。



 宿屋について二人で一部屋を取った。ベッドは二つあるが、クリックがベッドに腰掛けると、テメノスが横に座ってくる。そしてクリックの手を取り、握ってきた。

「て、テメノスさん……」
「うん、怖くない。君の事は、怖くないです」

 そう言って、満面の笑みを浮かべている。本当に嬉しそうで、クリックのつられてへらりと笑ってしまった。それくらい、綺麗な、心の底からの笑顔だった。

  「ねえ、クリックくん。キスして?」

 そう言ってクリックの手に口づけを落とすと、ふう、と吐息がクリックの手にかかる。その温かさに、クリックは逆に緊張してしまい、ガチガチになった。

「キ、キス、して、よいので……?」
「私がして、と言っているの。お願い」

 上目遣いに、しかも潤んだ瞳でお願いされてしまっては、断れない――愛する人にこんな顔をされて断れる男がいるだろうか。クリックは意を決して、手を握ったまま、テメノスの数秒見つめ合う。

「クリックくん……?」
「テメノスさん、いいんですね?」
「だから、いいといっているじゃないですか」
「でも、先ほどの怖がり方は尋常じゃありませんでした。本当に、大丈夫なんですか?」
「……多分。君なら、君の顔を見ながらなら」

 どこか自信なさげに、けれども手はしっかりと握ってテメノスは言う。そこまで言われては、しない方が失礼だろう。クリックはそう思って、そっと唇をテメノスのそれに重ねた。

「んっ……」

 どちらからともなく声が漏れて、温もり同士が触れ合う。触れ合った箇所から熱が生じて、クリックの舌がテメノスの唇を割って入り、テメノスはそれを受け入れた。握り合っている手がカタカタと少し震えているのが気になって、クリックは侵入させた舌を戻すと、一度頬に口付けを落として、テメノスの顔をじっと見る。テメノスはどこか申し訳なさそうな表情で、しかしクリックの方をしっかりと見ていた。翆の瞳には、自分自身が映っている。クリックはもう一度唇を重ねた。そして、舌を入り込ませる。するとテメノスも応じる様に、恐る恐るクリックの舌を捕らえた。その熱があまりにも愛おしくて、銀糸の頭を抱きかかえ、口づけをより深くした。それでも片方の手は握ったままだったが、今回は震えてはいない。事を急いては、きっとテメノスを怯えさせてしまうだろうということは、先ほどの経験からわかっていたから。クリックはゆっくりと舌を口腔内で混ぜ合わせた。くちゅくちゅと水音が辺りに響き渡り、耳を犯す。甘い毒が回って来たのか、テメノスの翆の瞳がぼうっとなっているのがわかった。歯列の裏をなぞり、舌を絡め合って、どちらのものともない唾液をテメノスが飲み込む。こくり、と白い喉が動いた。その様だけでも扇情的で、早く手を出したいという乱暴な熱がクリックを襲うが、そこは理性でギリギリ耐えた。
 そのままテメノスを寝台に押し倒すと、クリックは鎧を順番に脱いでゆく。その行為に、事態を理解したのだろう。テメノスもまた、自分の法衣に手を掛けていた。

「テメノスさん。待って。僕が、脱がせたいです」
「……君が?でも」
「大丈夫です。僕が、優しくしますから」

 そういうと、先ほどのように美しい笑みを浮かべて、「はい」と頷く。普段の言動からは考えられないような驚くほどの素直さが愛おしかった。鎧を全て脱ぎ捨てて、肌着一枚になってから、テメノスの身体に触れる。
 テメノスの身体は細くて繊細で、法衣を取り払うと半透明の下着姿になった。その姿は異様に扇情的で、クリックの熱が一気に燃え上がる。
 だけれども。無理強いはしてはだめだ。無理強いをしたくはない。
 脳裏でそう唱えながら、クリックはそのまま肌着ごとテメノスの皮膚に触れた。

「んっ……」

 甘い声が降って来る。これなら大丈夫かな、とクリックはテメノスの鎖骨に口づけを落とした。

「クリック、くん……」

 テメノスの声はもどかしげだ。大丈夫、なのだろうか。クリックは経験はあるが、男との経験はない。これでいいのだろうか、恐怖症をもっているという相手に対して、これで大丈夫なのだろうかと手探り状態だ。テメノスは、潤んだ瞳でこちらを見てくる。その様はあまりにも扇情的で、クリックの下腹部が一気に熱くなり、クリックは口をぎゅっとつぐんで何とか欲を抑え込んだ。  テメノスの肌は肌着越しにも美しく、宵の光を浴びて薄く光を浴びているようだった。外気に触れてツンと立った乳首がやたらと存在を主張している。乳首に合わせて乳輪もぷっくりとふくれあがり、まるで幼女の乳房のように見える。クリックはごくり、と唾を飲み込んだ。
 触れてよいのだろうか。逡巡する。逡巡して、クリックはテメノスの目を見た。テメノスはこくり、と頷く。

「テメノスさん、優しく、しますから」

 そう言うと、クリックはテメノスの乳輪に下着越しに丁寧に触れた。

「あぁんっ」

 その瞬間、テメノスから甘い悲鳴があがる。そんなに感じやすいのかと驚く一方で、クリックが触れた瞬間にぷくりと盛り上がった乳首にも驚いた。もうそこは、完全に性感帯になっているのだ。

「だ、大丈夫ですから続けてください」

 クリックの動きが止まったのを、躊躇していると勘違いしたのだろう。テメノスの慌てたような声が降ってきて、クリックはふふ、と小さく笑う。

「違いますよ、感じているテメノスさんが可愛くて、堪能したかったんです」

 そういうと、君って子は、と小さくもごもごと反論が返ってきた。その表情は拗ねていて、どこか子供じみていて愛おしい。今すぐ抱きしめたくなる衝動を抑えながら、クリックはテメノスの肌を再び愛することに没頭した。
 下着越しに触れた乳輪ですら熱いのだ、このぽってりと実った乳首に触れたらテメノスはどうなってしまうのだろう。古りと震える果実に指をそっと触れさせると、テメノスの腰がびくりと震えた。

「やん、乳首……」

 案の定だ。悩まし気な表情といい、テメノスは乳首が弱いのだろう。その証拠に、触れていない方の乳首もピンと立ち、下着越しに存在を主張している。まるで早く触れてくれ、といわんばかりに。その白い素肌に実果実は桃色で、非常に美味しそうにクリックの目には映った。だからクリックはぱくりと乳首を唇で食む。

「ひゃんっ、だめっ」

 生ぬるい感触に突然包まれて驚いたテメノスが腰を揺らす。ダメ、と言いながらもクリックに胸を押し付けるような形に腰を動かしてきた。もっと、刺激が欲しいのだといわんばかりに。
 クリックは食んだ乳首をそのまま唇と舌で転がすと、上から嬌声が漏れてくる。シーツをぎゅっと握り、テメノスの下肢の兆しはゆったりと上を向いていた。感じているのだろう、身体をくねらせ、呼気も甘くなっている。

「クリックくん、ちくび、もっと……愛して……私の乳首、もっと……」

 答える代わりに、腫れぼったくなった乳首に軽く歯を立てると、テメノスがカン高い嬌声を上げた。そして下肢の兆しからは透明な汁が染み出してくる。

「テメノスさん。乳首だけでイっちゃったんですんね……可愛いです」

 テメノスにそう告げると、泣きそうな表情で睨まれた。

「わ、悪かったですね……」
「悪くないですよ、可愛いです、愛してます」

 機嫌を損ねたような言い方があまりにもかわいくて、クリックはテメノスの唇に思わずキスをしていた。

「んっ……」

 今度はテメノスが唇を割り、舌をいれてきた。一瞬驚くも、クリックは嬉しくなり舌を絡めとって交互にすり合わせる様にし、唾液を流し込む。それに応じる様にこくり、とテメノスがクリックの唾液を飲み込んだ音がして、クリックの下肢は更に重さを増した。だが、人一倍大きい一物を持っているという自負があるクリックは、無理強いはするつもりはなかった。キスをして、触れられているだけでも十分幸せだった。欲は後で一人で発散すればよい。そう考えていた。

「ぷ、はあ……クリックくん……何か、考えてます?」

 唇を離すと、真っ直ぐな目で射抜かれる。どうせ嘘をついたところでばれるのだから、とクリックは開き直り、頷いた。腰を抱き寄せながら、ちゅ、と軽いキスを額に落とす。

「はい、あなたのことを考えてました」
「……どんなこと?」
「無理強いはしたくないから、今日は触るだけにしようと」

 そうすると、急にテメノスの表情が変わる。怒っているような、悲しんでいるような、感情が複雑に混じった何とも言えない表情だった。

「それは、私の恐怖症の所為ですね?」
「……それも、あります。でも、僕は、貴方を大事にしたいんです。だから、ゆっくりでいい。ゆっくり、あなたを愛させてください」

 そう言って、瘦身を抱きしめた。すると、細腕がクリックの背に回り、抱きしめ返される。そしてテメノスはクリックの胸に顔を埋めて、あろうことか泣き始めた。

「クリックくん……好きになったのが君で、私を愛してくれたのが君で、本当によかった……」
「テメノスさん?!大丈夫ですか?」

 突然の事に戸惑うクリックに、顔を上げてにこりとテメノスは笑う。その笑顔があまりに綺麗で、クリックは一瞬見惚れてしまった。しっとりとした白磁の頬と長い睫毛が涙に濡れ、翡翠の瞳は潤み、紅をさしたような唇は弧を描いていた。それだけでも美しいのに、その表情が蕩けそうに幸せな笑みを浮かべているのだ。これにはクリックもすっかり毒気を抜かれてしまい、ただただ愛おしいという感情だけが募り、もう一度ぎゅっと強く抱きしめる。ああ、なんて愛おしい人なんだろう。

「クリックくん、痛いです」
「ご、ごめんなさい!テメノスさんが愛おしすぎて、つい……」
「フフ、嬉しいことを言ってくれますね、私も君が、愛おしくてたまらない。だから……大丈夫です」
「テメノスさん」
「きっと、君なら大丈夫、怖くない。……私は綺麗な身体ではないけれど……穢されてしまった私だけれど、それでも……それでも愛してくれる?」

 最後はどこか不安そうで、見るに見て居られなくて、クリックはもう一度テメノスを抱きしめた。その愛情で全てを、恐怖ごと包み込めればよいというように、強く、そして温かく。

「テメノスさんは穢くなんてありません。僕の知っているテメノス・ミストラルという人はとても綺麗で、そして、強くて、優しくて……愛しいひとです」

 そう言って、もう一度、今度は唇にキスを落とす。

「クリックくん、ありがとう……ね?だから、大丈夫、だから、お願い。私を抱いて?」

 直接的な物言いに、クリックは顔じゅうに熱を感じた。今きっと自分は真っ赤な顔をしているのだろう。すべてわかっているようなテメノスの笑顔が、その証拠だ。

「でも、テメノスさん……」
「大丈夫……、君の顔を見ながらなら、怖く、ないから」

 それは精一杯の虚勢だったのかもしれない。けれども、テメノスはクリックと身体を離すとクリックのぱんぱんに膨らんだ下肢にそっと触れた。

「君だって、苦しいでしょう?私だけが気持ちよくなって、君がこんなじゃあ、不公平です」
「それは、そうですけど、……テメノスさんが気持ちよくなってくれれば、僕自身のことなんて、どうでもいいんです。あとから抜けばいいだけですから」
「ダメです!!」

 テメノスの余りの剣幕に、今度はクリックが驚く番だった。柳眉を吊り上げたかと思いきや、その白磁の指先がクリックの股間に伸びた。クリックが止める暇も許さず、クリックのズボンごと膨らみを揉みしだく。

「うぁっ、て、テメノスさん……っ!」

 性器への直接的な刺激に、クリックは暴発しないよう腹に力を込めて必死に抑えた。なんてことをしてくるんだ、と抗議の意味を込めてにらみつけると、にらみつけ返される。
「私だって君を愛してます。君を受け止める覚悟位、あります。私が大丈夫だと言っているんです。それなのに、どうして君はそうなの?優しさも行き過ぎると相手を傷つけることになるんですよ?」

 詰問口調でそう言い募るテメノスは涙目で、恐らくは本当に、心の底からの決意だったのだろう。男性恐怖症というものを背負いながらもクリックに抱かれたい、だから無理をしてでも自分から誘って、キスも受け入れて。それなのに最後の最後で拒まれてしまったら……そう考えると、テメノスの健気な想いを踏みにじっているのは自分だということにクリックは気づいた。>

「テメノスさん、ごめんなさい、僕、軽く考えてました……。テメノスさんがそこまで本気で僕と一緒になりたい、ひとつになりたいと想ってくれているなんて、思わなくて。ほんとうに、ごめんなさい」
「わかればよろしい。ね、それなら続きをして?」>

 しゅん、と項垂れるクリックの頭をくしゃくしゃと撫でると、クリックのそれに己の唇を重ねてから、テメノスは花が綻ぶように笑った。
 だが実際にそうなってみるとやはり怖いのか、かたかたと身体が震えている。先ほどのようにただ触れ合うだけではないのだ。今度は挿入が伴う。でも、覚悟はした。そういう不安定な顔をしているテメノスを安心させるために、クリックは笑みを作って唇を重ねる。

「大丈夫、無理そうなら、次の機会もありますし」

 そういうクリックに、テメノスは頑なに首を横に振った。何故だろうか、テメノスは頑なに譲らず、兎に角身体を繋げたいのだという。何を焦っているのか、クリックにはわからなかった。わからなかったから問うてみると、テメノスは「今こうしておかないと、君はいなくなってしまう、そんな気がして」ととんでもないことを言い出した。
 そういうことを言うような人ではなかったから、初めての恋愛感情に不安に陥っているだけではないか、とクリックは思い、テメノスの頬に手を添わせて、再びキスをしてから続ける。

「大丈夫ですよ。僕はどこにも行きません。そりゃあ、常日頃テメノスさんの傍にいることはできませんけど……、テメノスさんに何かあったら駆け付けます。必ず、駆け付けます。僕は、聖堂機関の騎士である前にあなたの騎士でありたいから」

 そう言ってから、もう一度唇を重ねた。するとテメノスは安堵したのか、こくり、と頷く。そこには普段の飄々としている食わせ物の姿はどこにもなく、ただ一人の、恋をするテメノスという一人の人間がいるだけだった。そのテメノスがあまりにもいじらしく、愛おしくて、クリックはまたキスを落とす。何回だってキスをしたかった。それくらい、テメノスが可愛らしく、そしていじらしく見えていたのだ。

「テメノスさん、触れますね。今度は、直接」

 そういうと、クリックは半透明の下着を脱がして、テメノスは全裸になった。先ほど乳首への刺激で兆していたものは萎えてはいなくて、透明な汁がその先端からたらたらと零れ落ちている。そこにキスをしてから、クリックはテメノスのものを直接咥え込んだ。

「ク、クリックくん!そんなこと、しないでも……!」
「らいじょうぶれす」
「ぁん、そのまま喋らないでっ!」

 舌の動きが刺激になったのか、テメノスの腰が揺れる。クリックは裏筋から丁寧に舐めとってゆき、精嚢をゆっくりと揉みしだきながら舌を上に丁寧に這わせていった。触れられる度に上から甘い声が降ってきて、クリックの下腹部にも重たい熱が溜まってゆく。くびれ部分を重点的に舌先で丁寧に舐めまわすと、堪えきれない、というような声が上でして、細い腰が跳ねる。テメノスの細い指がクリックの頭を抱えて、ダメ、ダメ、と繰り返す。クリックは咥え込んだテメノスのものへの刺激を与えることだけを考えていた。クリックが与える刺激に膨張してきたテメノスのものは、やがて熱をクリックの口腔内へと迸らせ、テメノスは身体をしならせてイってしまった。
 そのままこちらにしなだれかかってくるテメノスを抱きとめながら、吐き出されたものをこくりと飲み込む。それをテメノスは信じられないものを見るような目で見てから、呆れたように溜息を落とした。

「まったく、とんでもないことをする子羊君ですね。私がしたかったのに」
「僕のは大きすぎて、きっとテメノスさんの小さな口には入り切りませんよ」
「それじゃあ私の下の口にはもっと入らないじゃないですか」
「あ、いえ、その。そういうことではなくて」

 自ら失言だと悟ったのか、しどろもどろになりながらクリックは誤魔化すようにテメノスの鎖骨にじゅっと鬱血痕を落とした。そのまま、胸元に、臍のわきに、そして内股に、鬱血痕を次々と落としてゆく。まるでこの人は自分の所有物だというように。

「ねえ、クリックくん、私、そろそろつながりたいのだけれど」

 意外と大胆だな、とクリックは思いながらも、香油もなにもないので自らの我慢汁と、唾液を混ぜ合わせ、テメノスのひくひくと蠢いている後孔に塗りたくりだした。

「や、……ん……っ、私のソコ、変じゃないですか?」
「変?変なところなんて、何もないですよ、綺麗なピンク色で、ひくひくしてて、僕を誘ってます。その、正直、早く挿れたいです……」
「まったく、そういうところだけ正直なんだから」

 そういいながらも、クリックの指を受け入る心の準備が出来ているのだ、といわんばかりに妖艶にテメノスは笑う。その笑みが余りにも甘くて、クリックは直視できなかった。はくはくと蠢いている後孔もいやらしい。けれど、それらの言葉を言うのは間違いなきがして、クリックは入り口を慣らすことに専念した。唾液と我慢汁の混ざった粘液を後孔の入り口に塗りたくり、指でゆっくりと少しずつ拡張してゆく。

「んっ、……ぁ、……なんだか、変な、かんじ……」

 テメノスはクリックに全てを委ねながら、自らは腫れぼったくなっている乳首を弄っていた。無意識の行動なのだろうが、だからこそとてもいやらしく、視界に入れていると無理矢理後孔に自らの猛る肉棒を突き入れてしまいそうで視界から外し、クリックは後孔に指を挿入した。

「はいって……る?クリックくんの、太い指……」
「はい、一本、入ってます……テメノスさんの胎内……あったかくて、すごく、吸い付いてきて……僕の指を、離しません」
「そう……なんだか、へんな、かんじ、です……野盗に襲われた時は……ただただ怖かったのに……」
「野盗?!テメノスさん、襲われたって……」
「今は、この話はやめましょう。ね?今は、私を愛して?愛することだけに、集中して?」

 どこか照れたように、そしてしまったというような顔をしながらテメノスが早口で言う。クリックは納得はしきれなかったが、自分自身そうしたい気持ちもあった、テメノスを気持ちよくさせてあげたいという気持ちが勝り、行為に没頭したのだった。
 最初は一本だった指を二本にする。それでもテメノスは大丈夫だと言い、自ら乳首を弄りながら腰を振り、痴態を晒していた。ぷっくりとふくれあがった乳輪や乳首はいやらしく形を変え、それをちらちらとやはり視界にいれてしまうのはどうしようもないとわかりながら、クリックはテメノスの胎内を堪能していた。コリ、と感触の違うところを押してやると、テメノスは身体を跳ねさせて嬌声をあげる。いわゆる前立腺だ。そこを重点的にいじりながら、指を三本に増やした。それでもテメノスの後孔は拒むことなくクリックを受け入れてくれる。勿論胎内は狭かったが、それでも熱い肉壁はクリックの指を逃すまいと絡みついてきて、いやらしく蠢き、クリックの下腹部の熱は最高潮に高まっていた。

「テメノスさん……そろそろ、挿れても、大丈夫ですか?」
 そう問えば、真っ赤な顔で涙目で頷かれた。
「はい……君の、大きくて熱いの、……挿れて?私を、貫いて?」

 ズシリ、と重い熱がその言葉でクリックの下腹部に走った。急いで下肢を覆うものを脱ぎ捨てると、赤黒くそして我慢汁で濡れた大きなペニスが聳え立っていた。クリックは雄の顔で、テメノスの両ひざの裏に手を入れて脚を割り開かせると、後孔に肉棒の先端を宛がう。乳首を弄っていたテメノスは、突然の体勢の変化に戸惑っていたが、ぴたりと後孔に宛がわれた熱に、一瞬怯えるようなそぶりを見せた。

「大丈夫です。僕が、ここに、います。今からあなたを抱くのは、僕です」

 テメノスの怯えるような目を覗き込んで、一言一言区切るように告げると、テメノスはこくこくと頷いた。その拍子に眦から涙がぽろりと零れ落ちて、クリックはそれを舌で掬うと、その場にキスをする。大丈夫、安心して、そういう意図を込めた口付けの意味を悟ったのか、テメノスの身体の緊張は解れたようだった。

「いきますね、テメノスさん……」
「はいっ……きて、クリックくん……」

 つぷり。入れ込んだ先端部分はそれだけでも刺激だったようで、テメノスの身体がびくりと震える。

「あつ、熱い……っ!」
「テメノスさん……やっぱり、狭いですね……」

 ぐっと押し入れるが、肉壁に押し返されるような圧迫感だ。それでも蠢く媚肉は入ってきた熱棒を逃すまいと絡みついてくる。正反対の動きにクリックは若干戸惑いながらも腰を押し進めた。テメノスは必死に何かを堪えているようで、きつく口を結んでいる。その様子が余りに辛そうで、そして健気で、クリックは安堵させるために肉棒を押し進めながらも、体中にキスを落とした。

「テメノスさん、怖かったら、言ってくださいね、僕、できるだけゆっくりとやりますから」
「ぁ、は……ぁ、だ、だいじょうぶ、です、わたしの、ことは……きに、しないで……きみの、すきに、して……」
「そんなこと、出来ません。大事にしたいんです。愛したいんです」

 そう言って、ぷくりと立ち上がった乳首を食むと、テメノスの口から嬌声があがった。そのまま乳首を転がすように舌で味わいがなら腰を押し進める。ずぷり、ずぷりと進んでゆく肉棒は熱っぽい胎内をゆっくりと犯しながらも、同一化したかった。テメノスの胎内は蕩けるようで、極上の味だった。何より愛する人と一つに慣れているという幸福感から、クリックはそれだけでも十分だった。

「クリック、くん……がまん、しないで……?もっと、うごいて……?私は、へいき、だから……」
「テメノスさん……愛してます……」

 胸から顔を上げると、唇を寄せてキスをする。その間も腰を押し進めて、クリックのペニスはようやく三分の二ほどがテメノスの胎内に入った。これでいいだろう、とクリックは思っていたのだが、テメノスはクリックの全てが収まっていないことに気づいていたらしい。腰を動かして、より深いところで繋がろうと必死になっている。その姿があまりにいじらしく、そして愛おしくて、クリックは決意した。例え痛い思いをさせようと、最後までやりきろうと。

「テメノスさん、痛い思いをしてしまうかもしれません。でも……僕は、あなたが、欲しい。あなたが、欲しいんです」
「はい。わたしも、きみが、ほしい……わたしの、おくまで……あばいて、わたしの、こひつじくん……っ!」

 その言葉が契機だった。クリックは雄になり、今までの動きが嘘のように乱暴にテメノスの胎内に己の肉棒を突きこんだ。

「ぁあああっ!やぁっ、きてる……っ、くりっくくんが、おおきいのがっ!」

 ごちゅん!と奥で音がしたようだった。テメノスの薄い腹が盛り上がるほど奥に、クリックのペニスが入り込んだのだ。そこは最奥と言っても良い場所で、テメノスはその一瞬で意識を飛ばしてしまったらしい。くたりと身体から力がぬけてしまい、テメノスのものからは透明な汁がたらたらと零れ落ちてい――いわゆる中イキをしてしまったらしい。
 それでもクリックは止まれなかった。細腰を抱きかかえたまま、何度も何度もペニスを往復させて、これでもかといわんばかりに熱を叩きつけた。全身から汗が飛び散り、熱に塗れ揺り動かされて気を飛ばしたテメノスが戻って来るも、クリックは止まれなかった。

「あんっ、あんっ、くりっく、くんっ、すごいっ、あつい……やんっ、ああーーーーーっ!!」

 かくかくと振り子のように痩身をゆらしながらも、テメノスはクリックと共に淫らな踊りを踊る。そしてクリックはたっぷりの熱を、テメノスの最奥へと吐き出したのだった。



 とっぷりとした粘着質の白濁が、後孔からとろとろと止めどなく流れ落ちてくる。その光景のいやらしさときたらなかった。
 まだ萎えないクリックの肉棒を、ちろちろと紅い舌が舐めている。それだけでなく、細い白磁の指先は精嚢を揉みしだきながら裏筋を刺激し、舌先はくびれから亀頭部分へと移動して濡れている先端部分を悪戯するようにつついた。

「テ、テメノスさん、出ちゃいますからぁ……」

 クリックがテメノスの頭を押さえてその行為をやめさせようとしているのだが、テメノスは真剣な表情で行為に没頭しクリックの言葉を無視している。そのうちクリックも我慢ができなくなり、再び白濁を吐き出してしまった。
 それがテメノスの美しい顔と髪を穢し、たっぷりと流れ落ちてくる背徳的な光景と言ったらなくて、クリックは自らの欲深さに情けなくなって顔を覆ってしまった。

「フフ、子羊君のミルク、美味しかったですよ?」

「もう。テメノスさん、どこでそんな言葉、覚えてくるんですか……それに、さっき中に出したばかりなのに、すみません」
「いえいえ、君は若いですからね。でも私も何度も君のアレに耐えられる体力はないので、これで我慢してもらって、すみません」
「そ、そんなこと!とんでもないです!き、気持ちよかったです……それに、僕の精液がテメノスさんの顔にかかっちゃってるのが、なんか、その、悪い気はしないというか、い、いえ! 申し訳ないんですけど」

 慌てるクリックの様子にテメノスは笑いながら顔にかかった精液を舐めとってゆく。その光景も刺激的で、再びクリックのペニスは元気を取り戻しそうになっていた。

「おやおや、こっちは随分と元気ですねえ」
「も、もう!テメノスさんのせいですよ!煽るようなことを言うから……!」
「フフ、申し訳ないですね。でも、君のお陰で恐怖症が克服できて、良かったです。……というより、君だったから、かな?」

 そういうと、テメノスはクリックの裸の胸に顔を寄せた。
 しっとりと汗ばんだ胸板に頬を寄せてからうっとりとテメノスは目を閉じる。すっかり安堵しているのだろう。クリックはそのテメノスを包み込む様に腕で抱きしめて、髪を梳いた。開け放してあった窓から入って来る風が、気持ちよい。

「そういえば、お仲間の方には何か言ってこなかったので?戻らなくてはいけないのでは?」
「まあ、大丈夫でしょう。私が一晩位遊び歩いても、きっと少しのお説教で済みますよ。それよりも私は、少しでも君の傍にいたいです」

 甘い声でそう囁かれてしまっては、二の句が告げようがない。クリックは大人しく年上の愛しい人を腕の中に閉じ込めて、鼻先にキスを落とした。

「そういえば、君は行為の最中も沢山キスをしてくれましたよね」
「テメノスさんが、怖がらないようにと思って。ほら、夢中になったら、そんな余裕なんて、なかったでしょう?」
「確かに、最後の方は君も私も、もう何を考えていたのか、わからなかったですもんね。でも、気持ちよかったですよ。君は?」
「え、そ、それは、……その……もちろん、です。テメノスさんの胎内、すごくあったかくて、蕩けるようで……ああ、一つに慣れてるんだなって思って、幸せでした」
「ね?私もです。セックスは怖いものだと思ってたけど、君は違った。本当は、ずっと我慢してたんでしょう?それなのに私の事を考えて、優しく、ゆっくり愛してくれて。本当にありがとう、クリックくん」
「そ、そんな……僕は特別なことなんて、してないですよ。ただ、テメノスさんが愛おしかっただけです。だから、大事にしたかったんです」
「……ありがとう、クリックくん。愛してます……」

 胸元に唇が寄せられて、ちゅ、というリップ音が響く。控え目なキスに、クリックはこそばゆくなって、腕の中の大切な人を抱きしめた。