ハッピー(?)ハッピーデイズ2

 アグネアの摩訶不思議胃の舞で女性になってしまったテメノス。数日経てば治ると本人も楽観的に構えていたのだが、一向に治る気配がない。
 心当たりはただ一つ。女性になってしまった当日に、クリックとセックスしてしまったこと。しかも生で中出しまでしてしまった。あれが良くなかったのかもしれないと、今頃後悔したところで時すでに遅し。舞踏姫シルティージの祝福とでも思うしかない。
 本当に祝福なのかはさておき、だ。あれからクリックの機嫌もやたらいいし、そういうことにしておこう、とテメノスは思いやけくそ気味に祈りを紡いだ。
 そして今宵は、懐かしきフレイムチャーチの我が家に久しぶりの帰郷だ。久々の我が家はいつも通りテメノスを迎え入れてくれた。護衛すると張り切ったクリックと共に。

「テメノスさん、流石いつもきれいに片付いていますね」
「クリックくんがずぼらなだけでは?」
「はは、辛辣ですね。僕だって宿舎の自分の部屋位は綺麗にしていますよ」

 生真面目なこの青年のことだ、その通りなのだろう。彼の部屋を訪れたことはないが想像が出来て、テメノスはくすりと笑う。

「今日は羽を伸ばして来いと皆にも言われましたし、ゆっくりしましょうか、クリックくん」
「はい!テメノスさん。それにしても、お仲間の皆が僕たちの仲を知っていたのには驚きました」

 遠慮なく椅子に腰かけながら、意外だと青年騎士は言う。けれどテメノスにしてみればそれこそ当人が気づいていていないということの方が意外だった。
 あんなにあからさまに、「守ります」だの「僕がついています」だの、率先してテメノスを守る行動をし、テメノスがふらりとどこかへ行こうとすればついてゆく、そんな行動を見ていて察しない方がおかしい。それに何かあればテメノスの話題ばかりで、仲間たちが苦笑していたのをテメノスは思い出して小さく溜息を落とす。
 テメノスが女性になってから、その傾向はますます強くなっていた。これが、いわゆる騎士道精神というやつなのだろうか。
 けれども、この真っ直ぐな青年の未来を、自分が閉ざしても良いのかという迷いは、テメノスには常に付きまとっていた。
 今は女性の身体で、もしかすれば家庭も作れるかもしれない。
 けれどもこんな年増より、ずっと愛らしく魅力的な女性は沢山世の中にいる。
 何より、クリックは好青年だ。
 他の女性がクリックについて噂しているのを聞いたことは、二度や三度ではない。
 ただ、自分が傍にいるから彼女たちは取り巻くようにクリックを見ているだけで手を出してこないだけなのだ、とテメノスは思っていた。
 それは、良くないことだ、と思う。
 だからこの際、ハッキリさせた方がいいのかもしれない。
 テメノスとてクリックが嫌いなわけではない。むしろ逆だ。好意を抱いている――否、愛している。まっすぐで、一途で、この汚濁のような世界にもたらされた一筋の光のような青年を愛していないわけがない。命からがら情報を届けてくれた彼を助けたときのあの心境は、未だに忘れられない。必死だった。とにかく必死に吹雪の中で、冷たくなってゆく体温を取り戻そうと蘇生魔法を使い、テメノスがいないことに気づき駆け付けたキャスティの力も借りて、それで漸くクリックは命をとりとめたのだ。そこでテメノスは自分の気持ちに遅ればせながら気づいたのだ。彼がいない人生など、考えられない、と。
 けれどもそれは赦されぬ想いだ。
 まして自分は今は女性になっているが元々男性だ。彼の未来を、幸福を、奪うわけにはいかない。

「クリックくん。君は、好きな人とかいないんですか?」

 単刀直入に聞いてみる。するとクリックは聊か怒ったように口をぎゅっと結んでから、応えた。

「いますよ。目の前に」
「……そうではなくて。本当に、心から愛している人です。君には未来があります。幸福を選ぶ権利があります。私は元々男で、いつ戻るかもわからない。そんな私が君を縛りたくはないんですよ」
 そこまでを言うと、クリックの眉がみるみると吊り上がり、勢いよく立ち上がった。

「テメノスさん。本気で言ってるんですか」

 その声は、今までに聞いたことがない程、煮えたぎる怒りに震えていた。けれどもテメノスも引き下がらない。

「ええ。本気ですよ。若気の至り、という言葉があります。私と君は同胞として仕事をしている。だから、君は一時的に勘違いをしているのかもしれない。私に対する感情のそれを、恋情だ、とね」
「そんなことはありません!僕は、テメノスさんを愛してます!」

 怒号のような声でクリックは叫ぶ。テメノスが思わずお茶を飲もうとした手を止めるほどには、その勢いは凄かった。

「テメノスさん。どうしてそんなことを急に言うんですか?僕が嫌いになったんですか?あんなに、好きだと言ってくれたのに、嘘だったんですか?遊びだったんですか?」

 今度は涙声だ。というか、クリックの綺麗な碧の双眸からはぽろぽろと涙が零れて落ちていた。立ち上がったまま、呆然とするようにクリックは泣いていた。

「……いいえ、そんなつもりはないですよ。私は、君を愛しています。けれど、君は若い。先があるんです。それなのに私が縛り付けるのは……」
「僕の幸福を、勝手に決めつけないでください!!僕だってもう大人です、自分がどうすべきかくらいは判断できます!テメノスさんは、テメノスさんは僕にとって、本当に、尊敬すべき人で、愛すべき人で、大切な人なんです。どうしてわかってくれないんですか……」
「クリックくん……」

 彼の主張は本気なのだろう。
 けれど、いいのだろうか。  自分が彼に関わる度に、彼は不幸になる気がする。実際に危機的状況に陥ることが何度もあり、事実死にかけた。
 それでも、クリックはテメノスを選んだ。
 それが、答えなのだろうか。
 恋愛ごとに疎いテメノスには、常に切れる頭もよくまとまらず、戸惑いしか生み出さない。
「テメノスさん、僕に触れてくれたじゃないですか。幸せだって、言ってくれたじゃないですか。嬉しかったんですよ、産まれてから一番、本当に、僕は嬉しかった。ああ、この人とずっと一緒にいられるなら、もう何もいらない、それくらい僕はテメノスさんのことを愛しているんです。わからないなら、また、触れてみてください」

 クリックに言われる通り、テメノスは立ち上がり、涙にぬれている頬に触れる。自分が泣かせてしまったという罪悪感から、両の頬をゆっくりとさするように撫でてから、気が付いたら自分よりも一回り以上大きな身体を抱きしめていた。

「テ、テメノスさん?そこまでしなくても……」
「ごめんなさい、君を、泣かせてしまいましたね。私にもよくわからないのです。こういった経験がないから……。それでも君は、私がいいと言ってくれるの?」

 不安げに瞳を揺らし、見上げると真っ直ぐな光の蒼とかちりと視線が合う。そして立ち上がったクリックに、あっという間にぎゅうっと抱きしめ返されて、額に口づけが落ちてきた。

「当たり前です!テメノスさん以外、考えられません。僕の命はもう、テメノスさんのものなんですから」
「また、大袈裟な……」

 クリックの大袈裟な物言いに笑おうとしたが、笑えなかった。青年の目があまりにも真剣だったからだ。それは、テメノスの心臓を真っ直ぐに射抜いた。

「愛しています、テメノスさん。これからも、ずっとおそばにいさせてください」

 そして降りてきた唇を、テメノスは拒めなかった。



 そして、その夜。
 テメノスは覚悟をして迎えていた。あれだけ昼間に愛している、愛していると繰り返していたクリックとの夜だ。何も起きないわけがない。
 以前初めて女性になった時のセックスは勢いでしてしまったけれど、今回は違う。テメノスも、ある程度覚悟をしていた。本当に、子供が出来る可能性を、だ。
 そうなったらどうするかまで、テメノスは考えていた。今はまだクリックはストームヘイルの聖堂機関に在籍しているが、フレイムチャーチの大聖堂へ移籍をしてもらおうか。あるいは逆にテメノスが引っ越すか。
 いずれにせよ、一人暮らしで子供を産むという発想はなかった。というよりか、クリックがそれを赦さないだろう――あの真っ直ぐな青年のことだ、テメノスの世話を甲斐甲斐しく焼きたがるに違いない。それが目に見えるようで、テメノスは一人でくすりと笑った。

「テメノスさん?入りますよ」

 ノック音がした。クリックだ。風呂を済ませてきたのだろう。

「はい、どうぞ、鍵は開いてますから」
「テ、テメノスさん、またなんて格好を……」

 入ってきたクリックは、テメノスの格好を見て絶句する。

 テメノスはあの時と同じく、殆ど下着姿でクリックを待っていたからだ。半分透けている下着は淡い乳房も桜色の乳首も隠してはいない。下半身も、大事なところが殆ど隠れていない。以前のものとは少々違うが、殆ど同じ格好にクリックは絶句して、けれどもその下半身は正直だった。

「ふふ、クリックくん、もう興奮してる」
「テ、テメノスさん!揶揄わないでください!」
「さ、おいで。私を愛してくれるんでしょう?」

 昼間の様子はどこへやら、夜は娼婦ばりに豹変したテメノスに戸惑うクリックは扉の外から一歩も中へ入れない。

「おや?どうしたの?私を抱きたくはないの?」
「い、いえ、だ、だき……抱きたい、です、けど、その……昼間は……」
「私はね。決めたんです。君があそこまで言ってくれたのだから、私も素直になろうと。私も君を、愛しているんですよ、クリックくん。一途で、真っ直ぐで、どこまでもまばゆい君の事がね、大好きなんです。だから私は真実にたどり着けた。それくらい、君の事を想っているんですよ」

「本当ですか?!」

 クリックが、一気に部屋の中に入ってくるとテメノスを抱きしめる。その行動は早かった。

「全く……もう。本当です。皆が……ロイが、教皇が、私の大切な人が周りからいなくなっても……君はいなくならなかった。生き残ってくれた。生きてくれた。君は、いつだって、大切な時に私の傍にいてくれた。それがどれ程心強かったか。きっと君は理解してないんでしょうね」
「そんなことはないです!むしろ、僕がテメノスさんのお役に立てていたってわかって、嬉しいです!」
「そう、ありがとう。でもね、それだけじゃない。私は君の真っ直ぐな心根を、本当に愛しているんです。私が忘れてしまった何かを思い出させてくれるようで……羨ましくて、眩しくて。私の信じるべき真実は、君自身なのかもね」
「そ、そんな!恐れ多いですよ!」
「ふふ、それで、どうするの?私を抱いてくれる?」
「はい!」

 青年の返事は大きく、テメノスは思わず苦笑してしまった。けれどもその勢いとは裏腹に、優しくベッドに押し倒されて、唇を重ねてくる様子は異様に様になっていて、何か悔しかった。

「ん……あ……」

 二人の唇が重なり、テメノスはクリックの舌の侵入をあっさりと赦す。元々抱かれるつもりだったから、抵抗するつもりなど毛頭ない。そのまま舌を絡め合い、求め合う。ぴちゃぴちゃと淫らな水音が辺りに響き渡るが、どちらも求めることをやめなかった。熱と熱が絡み合って、どちらの物かもわからなくなった唾液がこくり、とテメノスの喉を通っていった。
 やがてクリックのごつごつとしたてのひらが、テメノスの淡い乳房に覆いかぶさるように触れてくる。

「やぁ……ぁ……っ」

 ふにふにと柔肉を揉まれ、テメノスは淡い快楽を拾い出した。
 テメノスの反応を楽しむ様に、クリックは両の手で乳房を揉みしだき、時折乳首を刺激する。口づけをしたままで声をうまく出せないテメノスは、じれったい快楽に両足をもぞもぞと動かすのだが、クリックはなかなか口づけをやめようとはしなかった。

「ぷ、は……あ……っ!」

 やがて漸く口づけが終わると、二人の唇の間から銀糸がどちらのものとなく垂れ落ちる。そしてテメノスの下着に染みを作り、それがやたらといやらしかった。

「テメノスさん、ちょっとおっぱい揉んだだけでもうこんなに乳首が立っちゃってますね。やっぱりおっぱい、弱くなってる気がします」
「やめて……クリックくん、これ以上は……」
「これ以上は、って。これからこれ以上の事をするんですよ?今日のテメノスさん、なんだか可愛いなあ」
「可愛いだなんて、君、本当にそう思ってるの?」
「思ってますよ。こないだの時も可愛かったけど、今回はいっそう可愛いです。いつもそうならどんなにいいか」
「こら、調子に乗らない。それで?続きはしてくれるの?」

 乳房をやわやわと揉みながらもそれ以上の行為をしてこないクリックに焦れて、テメノスは思わず強い口調で言ってしまう。

「あ、ごめんなさい。でも、僕テメノスさんのおっぱいが好きなんですよ」
「この間は大きい方がいいとか言ってたくせに?」

「あ、あれは……!元々の話です!今の僕は、テメノスさん以外とこういうことはしようだなんて、思いませんよ!」

 とってつけたような言い方に、テメノスはわざとらしく拗ねてみせる。

「それならいいけど……アグネアくんやソローネくんみたいな方が、元々好みだと思ってたから……」
「そ、そりゃああのお二人は魅力的ですけど……って、テメノスさん、もう、続けますからね!」

 言うが早いか、論より証拠と言いたいのか、クリックはテメノスの乳房に下着ごとかぶりついた。

「あぁんっ!もうっ、君はいつだって急なんだから……!」

 唇で乳首を食み、もう片方は指先で転がしながら緩急をつけて刺激してくる。その都度テメノスは淡い快楽を与えられて、下肢が反射的に動いてしまう。秘所はとっくに濡れており、下着は役に立たなくなっていた――最も、最初から殆ど意味のない下着だったのだけれども。

「あ、乳首……もっと……」

 返事の代わりに、かりり、と乳首を淡く噛まれる。同時にもう片方もきつく抓られて、テメノスはじゅん、と秘所が濡れるのを感じた。

「あぁぁっ、いいっ、ちくび、もっと……して……!!」

 腰を跳ねさせてねだる様に胸元を動かすテメノスに、クリックは応じる様に今度はじゅうっと音が鳴る程に強く乳首を吸ってきた。勿論もう片方の乳首に刺激を与えるのも馬鹿正直に忘れてはいない。ころころと転がすように指先でこねくり回した後に、その先端部分を強く刺激してくる。

「はぁん……あ、あ……」

 すっかりと快楽でのぼせ上ったテメノスは、はぁはぁと荒い息をしながらクリックの太い首に細い腕を回して胸元を押し付ける様に無意識に動かしていた。

「もっと……もっと……吸って……い、いからぁ……!」

 言われるがままに、今度は反対側の乳首を、下着を脱がせて直接吸うと、一層甲高い声がテメノスの口から洩れた。

「や、直接は……ああんっ!」

 薄い布にこすれる淡い刺激もよかったのだが、直接触られるという刺激は更に快楽をテメノスに与え、テメノスの秘所は愛液でたっぷりと濡れてしまっていた。そして、ぐちぐちと音を鳴らしながらこすれる下肢を、クリックが意識しないわけがなかった。
 けれども青年騎士は無理強いはしない。テメノスが良いというまでは手出しをしないつもりなのだろう。乳房の刺激だけでも十分に快楽を拾える身体のテメノスは、もっともっととクリックにねだる。そしてクリックは乳房を吸い、こねくり回し、揉みしだき、時に乳首を強く抓り、食み、強く吸い、あらゆる方法で刺激を与えてきた。

「あ、……は……くりっくくん……っ!!」

 びく、とテメノスの肢体が痙攣して、トロリと愛液が秘所から流れ落ちる。胸への刺激だけで達してしまったのだ。

「テメノスさん……僕、そろそろ、我慢が限界で……」

 はぁはぁと、こちらも荒く獣のような呼気と瞳で見つめてくるクリックを、テメノスは初めて怖いと思った。だがそれは一瞬で、蕩けた笑顔でこくりと頷く。

「いいですよ、きて、クリックくん……私の胎内に、早く、……ね?」
「テメノスさんっ!!」

 がばりと強く抱きしめられてから、もう一度胸元をべろりと舐められる。

「あんっ、おっぱいは、もう、いいからっ」

 とろとろに蕩けた秘所に、クリックのごつごつとした指が触れると、それだけでも達してしまいそうになるのを抑えて、テメノスは必死に唇を噛んだ。

「テメノスさん……触りますね……」
「はい、いいですよ……」
「んっ……はあ……熱い……指が、持っていかれそうだ……」

 本当ならばもう前戯など必要がない程に蕩けているのだが、クリックがテメノスを傷つけたくないのだろう。陰唇を愛撫して、秘所をくちゅくちゅとかき混ぜる。

「やぁ……ん、もどかし……っ、も、いれて……ぇ」

 ゆらゆらと無意識に腰を動かすテメノスの誘いを無視して、クリックは陰唇の頂点、すっかりと熟れた花芽にそっと指で触れた。

「やっ!!そこ!あぁあ!!」

 その瞬間、いっそう甲高い嬌声がテメノスの薄い唇から洩れる。まだ皮がむききれてないそこを優しく刺激しながら皮をむいてゆくと、テメノスの肢体が跳ね、甘い声が天から降ってきた。

「ここも、たっぷり愛してあげますね、テメノスさん……」
「や、なに、す……あぁああ!!」

 じゅううっと音を立てて、クリックはテメノスの花芽に吸い付いた。そのまま舌で転がしてゆくと熱を持った花芽は膨張し、もっともっと、と主張してくる。

「やだっ、怖い、そこっ、やめ……くりっくくん、そこ、だめぇ……っ!」
「ぷは……っ……。これでもう、十分濡れたかな」

 断末魔のような嬌声がテメノスの細い喉から発せられるのと、クリックがテメノスの又坐から顔をあげるのは同時だった。
そして、ゆっくりと、優しく、クリックはテメノスの膣内へと指を侵入させてきた。そのゆっくりさがもどかしくて、テメノスは腰を捩る。

「ね、クリックくん、指じゃなくて、クリックくんの大きなおちんちんが、私は、欲しい……」
「でも、テメノスさん、慣らさないと……」
「大丈夫だから……さっき、私、おっぱいだけでイッちゃってるし、今もイッちゃったから、心配しないで」
「ですが……」
「いいから、はやく、……して……もどかしくて、仕方がないんです……」
「わかりました……挿れ、ますね……」

 言うなりクリックは下履きを下着ごと乱暴に脱ぎ去り、ぱんぱんに膨らんだペニスを取り出す。グロテスクともいえるほどに屹立したそれは、今か今かと刺激を待っているかのようで、テメノスは期待に胸を膨らませていた。今からこの凶悪ともいえるペニスに貫かれるのかと思うと、再び愛液がジワリと滲み、秘唇はひくひくと蠢いて早く早くとせがむ。
 役に立たなくなった下着をはぎ取られ、ぴたり、と秘所にペニスの亀頭を宛がわれただけで、軽く達してしまいそうなほどに、熱い。

「ん、早く、クリックくんの、おちんちんが、欲しい……」
「わかりました……テメノスさん、いきますよ……っ」

 言葉と共にぐい、と一気にねじ込まれたペニスの質量に、テメノスは声にならない声を上げた。
 白い身体が弓なりに反り、薄い唇からは涎が零れ落ち、ふるる、と淡い乳房が揺れる。
 あまりの勢いに息が止まるかと思ったが、クリックが背中を支えてくれてなんとか呼気を取り戻した。何か言いたかったが、それよりも動いて欲しくて、ゆるゆると自然に腰が動いてしまう。

「クリックくん、いいから、私は大丈夫だから、たくさん、動いて……突いて、ちょうだい……!」
「は、はいっ」

 クリックは言われた通り、一度ペニスを抜きかけるほどに身体を引いてから一気に貫くように押し込む。

「はぁんっ!それ!いいっ!もっと!もっと……強く、ちょうだい……っ!!」

 刺激が強烈であればあるほど快楽は強く、テメノスは自らも腰を振り、クリックの動きを助長させた。パン、パン、と肉と肉がぶつかる音が木霊して、テメノスの細い身体は風に吹かれる小枝のように揺れていた。しかしクリックがしっかりとその背を支え、テメノスもまたクリックの太い首に腕を巻きつけ、足を腰に交差するようにしがみついて離さず、何度も何度も抽出を繰り返すうち、二人の間は愛液と精液で泡だらけになり、ぐちゅぐちゅといやらしい音を立てていた。

「くりっく、くん、もっと、もっと……せいえき……こどもの、たね、ちょうだい……!にんしん、するくらい、ちょうだい……っ!」
「はい、テメノスさん、僕たちの子供……妊娠して下さい……!大切に、しますから……!!」

 二人はいつしか唇も合わせ、舌を絡め、上下両方でつながり、二人で一つになるように蕩けていた。とっくに理性などはなくなっており、男と女となり、ただの獣となって、ひたすらに相手を求めていた。

「くりっくくんっ、くりっくくんっ、もっと、もっとっ、奥っ!」

 がつがつと、言われるがままクリックはテメノスの子宮口までペニスの先端を押し進めて、そして、そこで大量の精液を吐き出した。

「ああ――――っ!たっぷり、きてる、たくさんの、くりっくくんの、せいえきがっ、わたしのっ、ナカにっ!」

 テメノスは意識が真っ白になる瞬間を感じた。そして、意識はそこでぷっつりと途切れたのだった。



 次にテメノスが意識を取り戻したとき、目の前には穏やかに笑うクリックの顔があった。首の下にはクリックの逞しい腕が回されており、もう片方のクリックの手はテメノスの胸元を優しく愛撫していた。

「クリックくん……まだ、おっぱい、飲みたいの?」
「テメノスさん……違いますよ。でも、テメノスさんのおっぱいが、可愛いなって、思って。すみません。テメノスさんが眠っている間も、触ってました」
「ふふ、仕方のない子羊くんですね。でもいいですよ、私のおっぱいに触っていいのは、君だけですから」

 ふう、と息を落としてテメノスはクリックの頬に口づけを落とす。

「テメノスさん?」
「なんだか、キス、したくなったんです。君が愛おしくて」

 するとクリックはやんわりと頬を紅潮させて恥じ入る様に目をぱしぱしと瞬かせる。

「テメノスさん……」
「んっ、ぁん……やだ、また、乳首、感じてきちゃってるし、……濡れちゃってきました」
「テメノスさん?」
「ね?もう一回、しない?」

 ことりと首を傾げて誘うと、クリックは乳房を愛撫していた手で自分の顔面を覆い、小さな声で「反則ですよ……」と呟いた。



「あんっ、あんっ、くりっくくんっ、激しっ……!」

 実はテメノスはこの体勢はあまり好きではなかった。何故ならクリックの顔が見えないからだ。だからいつもは顔の見える体位でセックスをするのだが、何故だか二度目は滅茶苦茶にして欲しいという欲が勝ち、今に至る。後ろから貫かれて、テメノスの淡い乳房がその都度ふるふると揺れる様は、どうやらやたらとクリックを興奮させているらしく、先ほどとは比べ物にならないほどに荒々しい突きがテメノスを襲っていた。

「テメノスさんの小さなおっぱい、ゆれると、とってもっ、えっちで……なんだか、悪いことしてるみたいです……っ!」
「いちいち小さいとかっ、いわないでっ」
「でもっ、可愛いんですよっ、それに、乳首が強調されて、ほんとうにっ、えっちでっ!!」

 確かに、小さな膨らみだからこそなのか、四つん這いのこの態勢だからなのか、乳房の先端の乳首がやたらと強調されている、とは自分でも思う。それが汗と共に揺れるのだから、ひどくいやらしく映るのかもしれない。

「ごめんなさいっ、またっ、ナカに、出しますっ!」
「いいですよ……っ、君の、子供、欲しいから……っ!!」

 そう応えると、一層激しい突きがテメノスを襲った。細い腰はがっしりと押さえつけられて逃れられない。だからこそ奥までクリックのペニスが届き、先ほどよりも強烈な快楽がテメノスを襲う。そして、あっという間にクリックは射精し、テメノスの子宮にたっぷりの精液が吐き出されたのだった。



「テメノス、大丈夫?顔色が悪いようだけど……」
「いいえ、気のせいですよキャスティ。大丈夫で……」
「テメノス!!」
「テメノス?!」
「あー……こりゃ、旅は、暫く、休憩だね」

 道端で倒れそうになるテメノスを、寸でのところで支えたのはオズバルドだった。その後ぽつりとソローネが意味深げにつぶやいた言葉に、オズバルドも頷く。
 その後も具合が悪そうに蹲るテメノスを見て、キャスティは薬師としての勘で気づいたのだろう。

「妊娠、したのね……」
「……そういうこと、ですかね、この吐き気……うっぷ……」

 とっさに吐き気を抑えるテメノスの背をさすりながらキャスティは急いで吐き気止めの薬をテメノスに飲ませる。

「とにかく、早くどこか街に行って安静にしないと。それからストームヘイルのクリックにも知らせないといけないわね」
「そうだな。その役割は俺が担おう。ソローネとキャスティはテメノスについていてくれ、その方が安心だろうからな」
「ありがとう、オズバルド」
「オズバルド、行先は……ストームヘイルではなく、フレイムチャーチです。クリックくんは、赴任先を変えてまで、私と一緒にいてくてくれるといったので……」
「ま、愛されてること、名探偵」
「そうか。わかった」

 茶化すように言うソローネの目は優しく、応えるオズバルドの声もまた、慈愛に満ちたものだった。

「キャスティ、ありがとうございます。大分吐き気も収まりましたから、行きましょう」
「無茶をしては駄目よ、テメノス」

 尚も心配そうにのぞき込んでくるキャスティに笑みを作って、テメノスは応えた。もしかすればこのお腹の中にもう一つの命が―—それもクリックとの愛の結晶が宿っているのかもしれないと思うと、駆けだしたい気持ちで一杯だったのを、極力表に出さないように。



 クレストランド地方はモンテワイズ。大陸一の図書館を要する街にたどり着いた一行は、とりあえず宿屋へと向かった。旅の足を止めるには適度な大きさの街だし、フレイムチャーチからもストームヘイルからも極端に遠くはないこの街は丁度良い休息場所かもしれなかった。

「やっぱり妊娠してるわね。とにかく滋養のつく食べ物を食べて、安静にして。旅は暫くお休みね」
「けれどそれでは皆さんに迷惑をかけるのでは……」
「あんた一人いないくらいじゃどうにかなるあたしらじゃないことくらい、わかってるだろ?それに、あんたはもうあんた一人の命じゃない、それくらいわかるだろ?」

 やや怒気を含んだソローネの声に、テメノスは黙るしかなかった。彼女が幼少時代をどう過ごしたかはなんとなくではあるが察している――同じ孤児であるテメノスには、保護者がいたが、彼女にはいなかった――否、いなかったというよりも、彼女はもっと境遇が過酷だったのだが。

「子供には親がついてやってなきゃいけない。どんな親でも、さ。ましてやあんたやクリックみたいな両親なら、尚更だ。あんたの真実を突き止める旅は、暫くお休みだよ」
「けれど……」
「ったく往生際が悪いね!子供のためを思ってあたしは言ってんの!」
「二人ともいい加減にしなさい。ソローネも、あまりムキにならないで。テメノスも同じよ。とにかくこれから生まれてくる子供の事だけを考えて」

 言い争いになるソローネとテメノスを、やんわりと遮るキャスティの声は、しかし有無を言わせなかった。

「ごめん。あたしもちょっと、ムキになってた。……その、ね。あんたとあんたの子には、幸せになってほしいんだよ……」
「そうですね。私も少し意地になっていました。すみません、ソローネくん」

 二人が互いに謝ると、パン、とキャスティが両手を合わせて笑みを作る。

「はい、これでよし、と。それじゃあ私は腕によりをかけて、滋養のつく料理でも作ろうかしら。ソローネも手伝ってくれる?」
「あたしは、アグネアたちに知らせてくるよ。名探偵が暫く抜けるってね。ちゃんと理由も話してくる」
「そうね、その方がいいかもしれないわね。なんだかんだ、私たちはテメノスの神聖魔法には随分と頼ってばかりだったから……」
「二人とも、本当にありがとうございます」

 素直に礼を言うと、キャスティとソローネは目を見合わせて、それから笑う。

「ふうん、妊娠すると、名探偵も素直になるもんなんだ。悪いことばっかりじゃないね」
「あら、悪いことなんかあったかしら?むしろおめでたいことじゃない?」
「それもそうか。それじゃあたしは行ってくるよ」
「あ、ソローネくん。ついでと言っては何ですが、大図書館から何か本を借りてきてはくれませんか。出来れば聖堂機関や教会についてわかりそうなものを」
「……ふ、まったく、お腹に子供がいても名探偵は名探偵だね。わかったよ、あたしがとっておきのを探してきてやるから待ってな」



「なーなー、テメノスー、ニンゲンの赤ちゃんて、どんなんだ?」
「こらオーシュット、まだ生まれてくるわけじゃないんだから、そんなにお腹を触るな」

 興味深そうに、まだ膨らんでもいないテメノスのお腹をオーシュットがおっかなびっくりさする。あまりにも興味深々で何度もしつこくさするので、その様子を咎める様にヒカリがオーシュットを制すると、オーシュットはむくれて頬を膨らませた。

「あらま~、こったらことになるとはおもわねがったけっど、結果的にいがったのかや~」
「おめでたか!そしたら色々揃えてやらにゃあならねえな!それならこのパルテティオに任せろよ、な!」

 ソローネの報を受けて酒場から集まってきたメンバーは其々祝福の言葉やら感想やらをテメノスに告げて、テメノスを苦笑させた。同時に、彼らもまたテメノスを気遣っていたのだと気が付かされて、テメノスは不思議と心が温かくなっていた。

「クリックくんはフレイムチャーチにいるでしょうから、明日オズバルドと共に到着するでしょうかね。ふふ、あの子羊くんの顔が見ものです」
「あたしも楽しみだわ、どんな顔して驚くんだろ」
「別に驚くことはないと思いますよ。私が女性になってから、子供が欲しい子供が欲しいって、繰り返してばかりでしたから」
「あらあらまあまあ。それはまた」

 ぱたぱたと手のひらで空気をかき混ぜながらお熱いことで、とソローネは続けて、皆が苦笑した。

「しかし、名前はどうすんだ?」
「おばかティオ、男か女かもまだわからないのに何言ってんの」
「そりゃあ、おめえ、両方のパターン考えておくんじゃねか!」
「あー、そしたらわたしも考えたーい。マヒナってどうかなー」
『ちょっとオーシュット、それワタシの名前でしょ』
「だからマヒナなんだよー、わたしの相棒にするんだ!」
『生まれる前からオーシュットの相棒……ちょっと、かわいそう……』
「あらあら、それは流石に生まれてくる子が大変じゃない?いきなりケノモ村につれていくの?」

「そーそー、そんで狩りをわたしが教えるの。わたしが今度はししょーになるんだ」
「テメノスとクリックの子供なら、案外悪くねぇかもな」
「ででででも、流石にそれはかわいそうじゃない?生まれてすぐ両親から引き離すってのも……」
「アグネア、もうその前提で話を進めるな。育てるのはクリックがやるのか?」
「そうなるでしょうねえ。私はある程度子供が育ったら、旅を再開したいですから。この子には悪いけれど、いえ、この子がいるからこそ、いち早く真実を確かめなければならなくなりましたし」

 ヒカリに告げるテメノスの表情は真剣だった。一同は、無言になる。本来ならばテメノスにも旅はやめて欲しかった、子供がある程度の年齢になるまでは……と思っているのが丸わかりだ。

「皆さんの懸念はよくわかっていますし、この子の為を考えたら、本当ならば旅は辞めるべきなんでしょう。けれど、私は真実を突き止めたいのです、それが、教皇やロイに報いるためにもなるでしょうし……何より、私がじっとしていられる性質ではないことくらい、皆さんよくわかっているでしょう?」

 テメノスが苦笑しながら告げれば、溜息と共に全員が賛同する。幸いクリックは怪我の治りも順調だから子育てをするくらいならば良いリハビリになるかもしれない。

「本当は、クリックくんやこの子の傍に誰よりもいてやりたいのは私です。けれど……それでも、私は旅を続けたいんです」
「わかった。そのためにも俺たちも、全力を尽くそう」
「ヒカリくん、有難う」

 ヒカリに続き、全員が頷く。

「よぉ~し、なんだか気力湧いてきた!みんな!今晩はテメノスのおめでたに乾杯しよっ!」

 アグネアの一声に、皆が賛同する。アグネアの歌と踊りが始まり、そして一同が盛り上がっている最中に、どたばたとオズバルドと共に酒場に入ってきたクリックが目を丸くして、それからテメノスをきつく抱きしめてテメノスに怒られる様を、皆で笑って、酒の肴にしたのだった。



  「テメノスさ~ん……愛してますぅ………」
「はいはい、わかりましよ、子羊くん」

 仲間たちと別れて直後。酒場を出てべろんべろんに酔っぱらったクリックをテメノスが支え、宿に戻るところだった。

「まったく、私に運ばせるとは、とんだ旦那様だ」

 ぽつり、と落としたテメノスの言葉に、クリックは耳ざとく反応する。

「はっ、そうでした!テメノスさんのお腹には僕たちの……子供がいるんですよね!こんなだらしない父親では、ダメですよね!」

 先ほどまでの様子はどこへやら、急にしゃきっとしたクリックにテメノスは苦笑する。

「本当は君、酔っぱらってないでしょう?甘える口実でも欲しかったんですか?」
「……だって、テメノスさんが……」

 急に口ごもるクリックに、わざと上目遣いで覗き込むと更に顔を真っ赤にして視線を逸らされる。

「私が、どうしたの?」
「……皆さんと仲良くしてるのを見て、……僕は、なんだか、蚊帳の外みたいで……」
「何を馬鹿な事を言っているの、君は」
「いたっ!」

 ごつん、と派手な音と共に断罪の杖が振り下ろされる。

「テメノスさん、痛いです」
「痛くしたんです。バカな子羊くんが、あまりにも馬鹿なことをいうから」
「でも……」
「もう一回、食らいたいですか?」
「い、いいえ!!」

 そんなことはされてたまるかと、クリックは急にテメノスの膝裏と背に手を添えて抱え上げた。

「大切なテメノスさんに、負担はかけられませんから!」
「そう言って誤魔化そうごしてもダメですよ。それに先に負担をかけるような甘え方をしてきたのは、どこのどなたでしたっけ?」
「あの、その……すみません……。でも、……やっぱり何だか僕だけ蚊帳の外みたいで」
「蚊帳の外なら、オズバルドがわざわざフレイムチャーチまで馬を飛ばしたりしません。彼は無駄なことは一切しない性質です。それに、パルテティオだって名前を考えることばかり話してましたし、オーシュットは生まれてくる子供を本気で狩人にしたいってはしゃいでました、ソローネなんか子供の事を考えて本気で私に怒ってくれたんですよ。ヒカリやアグネアも、わざわざ見せてくれた剣舞と踊り、歌は生まれてくる子供の幸せを願うものだと言ってました。キャスティは私に、たくさん薬草を持たせてくれてます。全部、君と私の子供の為を想っての行動です。それくらいわかるでしょう?」
「う、……その現場を見ていた僕には、反論の余地も、ありません……」
「だから、ね?そんなに拗ねないで。私の一番は、いつだって君なんだから」

 そう言ってうなだれて居るクリックの額にテメノスが口づけを落とすと、クリックは真っ赤になって反撃とばかりにテメノスの唇に己のそれを重ねた。

「ク、クリックくん、場所を考えて……!」
「仕返しです。テメノスさんの断罪の杖は、かなり痛いんですよ?それに、もう僕たちは二人だけじゃないんですし。どこで僕がテメノスさんにキスしようと、いいじゃないですか」
「君、一体いつからそんなに恥知らずになったんですか?聖堂騎士として、それはどうなの?」
「残念ながら、僕はもう聖堂騎士ではありません。テメノスさんの騎士です」

 断言するクリックに、テメノスははあ、と溜息を落とすしかなかった。これは何を言っても無駄だろう。時として頑固なこの子羊には、口では勝てても態度で負けてしまうことがある。今がまさにそのいい例だろう。

「テメノスさん。僕の身体は正直、まだ皆さんの戦に付いて行けるほど回復はしてません。ですが、僕はいつでもテメノスさんの神の剣でありたいんです。テメノスさん。一緒になってください。結婚しましょう、そして、幸せになりましょう」

 いつの間にか夜も更け、さらさらと風が吹いていた。遠く地下の闘技場から歓声が聞こえる。
 月明かりは明るく、二人を照らしていた。
 時折通り過ぎる酔っ払いが、二人を揶揄うように口笛を鳴らして去った。
 どれくらい、時間が経っただろう。
 どれくらい、思考していただろう、テメノスにはわからなかった。
 ただ、答えを要するのに、やたら時間がかかったということだけは、自覚している。
 セックスもして、子供も出来て、それなのに、こんな簡単なことに応えるのに、どうして時間がかかるのか、よくわからなかった。順番が、すべて逆だったからかもしれない。
 先にクリックから言葉を受け取っていれば、もっと素早く答えられたのかもしれない。
 けれど、現実には逆だった。だからだろうか。後ろめたさがあったからだろうか。クリックの外堀を埋めて、クリックからその言葉を吐き出させたのが自分だからだ、という、若干の後ろめたさが、テメノスの中に存在していたからだろうか。

「クリックくん……」
「はい」
「……幸せに、……なれますか?私と、君と、この子と、一緒に。君は、本当に、幸せに……なれますか?」

 怯えるような声でテメノスは言葉を小さく落とした。その声は震えていて、些細な風に流されてしまうほど、小さかった。
 けれどもクリックは一言一句、聞き逃してはいなかった。

「決まってるじゃないですか。幸せですよ、僕は。今も、これからも、テメノスさんがいてくれるのなら、それに、テメノスさんと僕の子供が一緒なら、こんなに幸せなことはありません」
「クリックくん……っ!」
 テメノスは思わずクリックの胸元に縋り、目をぎゅっと瞑った。そうしていないと、涙が零れ落ちそうだったから。けれどもその努力は無駄だった。涙が次々と溢れてきて、クリックの胸元を濡らしてゆく。そんなテメノスを、クリックは優しく抱きしめた。

「愛してます、テメノスさん。一緒に幸せに、なりましょう」
「はい……っ……はいっ……!!ありがとう、クリックくん……生きててくれて、本当に、ありがとう……」

 そして子供の様に泣きじゃくるテメノスをあやすように背を優しく撫でながら、クリックは宿へと向かったのだった。