どんな事態にも動じない、何があっても迷わない。
リタにとっては、それが強さだった。だから、感情、人間関係だとかは、すべて不要と切り捨てるのが、リタの生き方だ。
そうすることで、相対的にリタは評価された。齢十五にして帝国魔導士の一員に名を連ね、魔導器の研究の最前線に立つことができた。それだけでリタには十分だった。
エステリーゼ、という存在と、出逢うまでは。
エステリーゼ−−エステルは、リタとは、たぶん正反対の存在で、リタにしてみれば不要なものをたくさん持っていて、時に苛立ちも覚えた。けれどもエステルは会って間もないリタを友人と言った。あまりにも嬉しそうに手をとる彼女の体温は温かくて、彼女の体温を、いやだ、とは感じなかった。
後から考えれば、それは無意識のうちに押し込めていたものが、リタの心の奥底にぎゅっと詰まっていたからなのだろう。
エステルは決して強い少女ではなかった、と初めは思っていた。リタが考えを改めたのはいつだったか。正確なきっかけはもうどうでもいい。彼女はリタとは違う種類の強さを持っていた。種類は違えど、けれども根っこの部分は、自分と似ているのかもしれないとリタは思う。
たとえば、諦めが悪い、とか。
試行錯誤しながらも、絶対に前に進むだとか。
ずっと目指していたものが、自分の望んでいたものではなくとも、受け入れることをためらわない、だとか。
違う。そうじゃない。その強さは、エステルの強さだ。あたしの強さじゃない。それは、エステルと一緒にいたから、だからあたしは受け止めることができた、というだけのこと。
そう頭の中で否定しながら、リタは考える。たぶん、昔のリタならば、フェローの下した残酷な結論に困惑することはなかったかもしれない。そういうものと、決め付けて、おそらくはフェローの決断を支持したかもしれない。感情も、人間も、別に必要ではないと考えていた頃の無知な少女ならば。
けれどもリタはエステルという人間を知ってしまっていた。
たおやかで、儚げな、ともすればぽきりと折れてしまいそうで、けれどもその足はしっかりと地に着き立っている少女と出会うことがなければ、リタはきっと、エステルを切り捨てていた。
その考えに、ぞっとする。
考えたくもない、と思う。魔導器を守りたい、そう思う心は変わらない。けれど今はそこに、エステルという少女も守りたいという思いが加わっている。だから事態はややこしくなっているし、リタの知識を最大限に活用してもなお、結論にたどり着くには時間がかかっている。
けれどもそれでいい。
エステルという少女は強いとリタは思う。そして彼女といれば、自分もまた強くあれると思う。そして、そうすることで自分はこの世界に立つことができると、生きているのだと実感できる。
今は、それでいい。そう思えることが、リタ・モルディオの生き方になっていた。
そして、そんな風に変わったことを、リタはとても誇らしく、思えるのだ。