最初に見たときは本当に綺麗な人だな、と思った。それがクリックにとって、テメノスの第一印象だったから。
けれどもそれは即、覆された。異端審問官という職にありながらも時に冒涜的な言葉すら平気で吐くし、何故教皇が目にかけていたか最初はわからなかった。クリックの中は疑問でいっぱいだった。
しかし行動を共にするようになり、徐々にテメノスの人となりが分かるようになると、疑問は一つずつ解消していった。そして何よりも、彼は有能だったのだ――少し、抜けているところ除けば。
子供たちに向けた紙芝居ですらセリフを忘れるような異端審問官があるか、とそのことを考えるとクリックは思わず笑ってしまい、テメノスに不貞腐れられたこともあった。意外と子供っぽいんだな、とその時は思った。
それが今、こうして彼を目の前にしていると胸の鼓動が止まらなくなるとは、どういうことだろうか。
共に行動をして、暫く離れてから再会した彼は相変わらず綺麗で、ああ、やっぱり黙っていれば綺麗な人なのになと溜息を落としたのも覚えている。それが今ではこれだ。彼の事だけで頭がいっぱいになり任務がおろそかになりかねないとオルトにも怒られる始末だ。それくらい、クリックはテメノスの事を話していただろうか、いや、話していたのだろう。隙あらばテメノスの話題を口にしていた覚えはある。あの人はすごい、あの人の奇跡は本物だと絶賛し、時にはあんなに綺麗な人がこの世の中にいたとは知らなかったと酔いながらオルトに絡んだ覚えもある。そう、すべてクリックは記憶しているのだ。それくらい、テメノスのことを考えない日はなかったといっても過言ではない。それは果たして友情なのか、はたまた違う感情なのかもわからないまま、熱に浮かされたようにクリックはテメノスに参っていた。
参っていた、そうだ、参っていたのだ。あの流れるような銀糸、宝石のように美しい翡翠の目、そして男性にしては華奢で、クリックならば片手で運べそうなほどに細い腰。けれどもその手は奇跡を紡ぎ光をもたらす。その口からは静謐な言葉が述べられ、人々を癒す。彼はそういう人なのだ。
けれど、それでも。
この感情に名をつけることは危険だと、本能的にクリックは感じていた。けれども同時にどうしようもなく焦れて仕方なく、胸が締め付けられるような感覚を覚えて、それは痛みにすら似ていた。
「おや、子羊くん、久しぶりですね。今日は何かの任務ですか」
フレイムチャーチに寄ったのはテメノス本人に会いたかったからだとは口が裂けても言えず、任務を装いそのように答えた。オルトあたりが聞いたら怒りそうではあるが、口裏は合わせてもらっているのだ。それくらい、何故かクリックはテメノスに会いたくて仕方がなかった。
仕方がなかった筈なのに、いざその人を目の前にすると、ぼんやりとつったって見つめることしかできない。触れることもできない。触れたいと思うのに。もっと、傍らにいたいと思うのに。
「まあ、そんなところです、それよりもテメノスさん!」
勢いあまってつんのめってしまうところだった。おっとと、といいながら細身のテメノスが支えてくれる。その奇跡を紡ぐてのひらはあたたかくて――というよりも熱く感じられて、クリックはパッと身体を離した。傍から見ていれば転びかけたところを自力でなんとかもちなおしたようにしか見えない。ああ、テメノスさんに触れられるチャンスだったのに、と内心悔しく思いつつも、そんな邪な考えをするなんてとんでもない、と自戒する己もいる。テメノスへの恋心を自覚してから、クリックは本当に参っていた。
「なんですか、急に。そんなに急ぎの用事なのですか?」
「はい、いえ、いえ、なんというか……その、テ、テメノスさんの家にお邪魔したくて!」
ああ、言ってしまった。大聖堂に用事があったとか、教会に用事があったとかいくらでも嘘はつけたろうに、口は裏腹にクリックの本心を暴いてしまう。まるで、テメノスの翡翠の目の奥底の光が全てを暴くように――この人の前で、嘘は付けない。
「ふ、は、あははは……!!子羊くん、任務といいながら、それが私の家を訪ねることなのですか?」
「は、いえ、そ、そうですね……任務では、ないですね……」
「あははは……!!そんなに私に逢いたかったんですか?子羊くん?」
口角を上げながらテメノスはそれは笑う。まるで子供だ。けれども、クリックにとっては夕日に照らされたその笑みですら、美しく感じられた。動機がとまらない。この心臓の鼓動を聞かれたら、と思うと更に動機が早くなる。
「はいっ!!お会いしたかったです!」
「は、え、は……その、本当に?」
全力で答えるクリックに、だがテメノスは間の抜けた返事を返した。先ほどまではクリックをからかって遊んでいたのが嘘のように翡翠の目は見開かれ、口はポカンと空いている。ひどい間抜け面だが、それですら愛おしいとクリックは思った。
「本当です!任務の最中もテメノスさんの事を想っては溜息をついている始末でオルトには何度も叱られました!」
「君……本当に……」
そこから先は続かなかった。テメノスがクリックの手を取り(その手はひんやりとしていたが、クリックにとっては熱くて仕方なかった)導き出したのだ。
「私の家に用事なのでしょう。行きましょう、我が家へ」
「は、はい!」
背筋をぴしりと伸ばすクリックにくすくすと小さく笑うテメノスは、一回り以上大きな手を握り導きながら我が家への道筋を歩き出した。
「フレイムチャーチの紅葉はいつ見ても綺麗ですね」
(テメノスさん程ではないけれども……)そう心の中で付け足しながら、クリックは道すがら辺りをきょろきょろと眺めていた。何度来てもここの景色は壮観だ。山並みも美しく、そして遠く聳える大聖堂もまた煌びやかで美しい。こと夕刻となるとこの街は朱に染まり、美しさを増す。それを知っていたから、クリックはこの時間に間に合うように到着しようと急いだのだった。
「今日はシチューを煮込んでありますから、たっぷり食べてくださいね」
にこにこと世間話を喋るテメノスの機嫌は良さそうだった。彼もまた、旧友と逢えてうれしいのだろうか。そうだったらよいのだが。否、友人、それ以上の存在として見ていてもらえたならばもっと嬉しいのだが――それは聊か望みすぎだろうか。
それにしても、鼻歌を歌いながら料理をしているテメノスは、それはそれで様になっていた。まるで新婚夫婦の様だ、とクリックは考えてしまい、再びふるふると頭を振ってその考えを否定する。違う、違うんだ、これは僕が勝手にテメノスさんの家におしかけて、テメノスさんはたまたま料理を作ってくれていただけなんだ。そう自分で否定して哀しくなるが、耳にすっかりなじんだ鼻歌が優しく、クリックを包み込むようだった。
「フレイムチャーチの紅葉は、それだけでも観光名所にもなってますからね。今度とっておきの場所に案内しますよ、クリックくん。君と私だけの、特別の場所、ですね」
ふふ、と笑いながら振り向いてテメノスさんは笑う。その笑みははしゃいでいる子供のようで、クリックはどこか違和感を感じた。
いつもの毅然とした、異端審問官としてのテメノスはここにはいない。ここにいるのは、ただのクリックの友人のテメノスなのだ。友人。そう、友人——そこまで再び考えて、クリックは溜息を落とす。
「クリックくん、溜息をすると幸せが逃げちゃいますよ?ましてこんな時に溜息なんてなおさらです」
何故かテメノスは怒ったようにクリックに告げてきた。シチューを煮込んでいるはずのお玉をつきつけてきてまで。ああ、怒ったテメノスさんも可愛いな。綺麗だし。ぼんやりとそんなことを考えていると、目の前にその綺麗で可愛い顔があった。
「クリックくん?何を考えているんです?」
「ひえっ、な、なにも!」
本当に何も考えていなかった。テメノスが目の前にいたことすら気づかなかった。
「それよりも、お鍋、大丈夫ですか?」
「もう仕上がってますよ。まったくもう。ぼんやりとしたどこぞの子羊くんは晩御飯はお預けですかね?」
「そ、そんなぁ……」
哀れにも聞こえるクリックの悲鳴に、テメノスはくすりと笑い、ぽんぽん、とその頭を優しく叩いた。
「冗談です。二人で食べるために張り切ってこしらえたんですから、たくさん食べて貰わないと困りますよ」
二人で?張り切って?これは、勘違いしてもいいのだろうか。テメノスさんも、僕に逢いたいと想ってくれていたのだろうか?でも、僕がフレイムチャーチを訪れることをテメノスさんは知らないはずで……
「ふふ、キツネにつままれたような顔をしていますね。君のお節介な友人が知らせてくれたんですよ」
ふわりと微笑むテメノスは本当に綺麗だった。思わず魅入ってしまい、お節介な友人・オルトに感謝することもクリックは忘れてしまってその笑みに何時までも見入っていると、テメノスがさっと顔を逸らす。
「そんなに情熱的に見つめられると、照れてしまいますね。さあ、ご飯にしましょう」
そううそぶくテメノスの顔が赤かったのは、気のせいだろうか。白い肌に差した朱は、フレイムチャーチの紅葉よりもずっと美しく、艶やかだった。
「先にお風呂いただいちゃってすみません、テメノスさん」
ラフな格好で風呂場から出てきたクリックを見て、テメノスが目をぱちぱちと瞬かせる。
「テメノスさん?」
「君っ……なんて格好で……」
「え?でも、最低限隠してますし、大丈夫でしょう?」
「これだから男所帯は……」
ぽつりと落とされた不平は、クリックには届かなかったらしい。逞しい上半身を惜しげもなく晒して、クリックはテメノスの傍らに座った。
「ふう、秋口とはいえ、風呂上りは暑いですね」
「そう思って、麦酒を用意しておきましたよ。ワインという気分でもないでしょうから」
「本当ですか?!いやあ、有難いなあ!嬉しいです、さっそくいただきますね!」
言うが早いか、用意されていた冷えた麦酒をクリックは一気に飲み干す。テメノスは普段は麦酒は嗜まない。クリックが来ると聞き、わざわざ準備していたのだった。
「いやあ、旨い!やっぱり風呂上りは麦酒に限りますね!テメノスさん、ありがとうございます!」
「いいえ、君が満足できたのなら、何よりですよ」
そう言って笑う友人は、満足げだ。だがやはりどこか顔が赤い。
「テメノスさん。具合でも悪いんですか?顔が赤いですよ?それとも、もう麦酒を先に飲まれていたのですか?」
「い、いえっ、違います……その、……とにかく、次は私が風呂に入ってきますから。君は、適当に寛いでてください!」
慌てた様子でばたばたと寝室に向かうテメノスを、不思議なものを見るような気持でクリックは眺めていた。
それにしても。先ほどの様子と言い、テメノスはやはりクリックを意識しているのではないだろうか。風呂からあがるときに、下肢だけを隠したのは実はわざとだった。テメノスが時折ふざけてクリックくんは逞しい、男らしいと溜息をつくように褒めたたえるから、見せつけてやったのだ。すると案の定テメノスは顔を赤らめて照れていたように思う。これは、ひょっとすれば脈があるのではないだろうか。そもそも自ら料理を振舞ってくれる三十路男などどこにいるだろう。否、一人暮らしが慣れればそれくらいはするのかもしれないが、テメノスほど町人に好かれていれば差し入れだってあるだろう。それが、テメノスの料理は絶品だった。まるで、この日のために準備したかのように。或いは単純に得意料理だったのかもしれないが、それはそれで可愛らしいと思う。好きな人のために得意料理を振舞う小娘の如く顔を赤らめ、楽し気に語らう。そんな想像をしていると、風呂場からテメノスが出てきた。
知ってはいたが、テメノスは細身だ。クリックの腕で簡単に抱えてしまえるほどの細腰だし、同性とは思えないほどに白く滑らかな肌をしている。以前、一緒に旅をしている女性に肌のきめ細やかさを羨ましがられたのだと、なんだかつまらなそうに話していたテメノスの記憶が蘇った。湯上りのテメノスはその素肌に白いバスローブを一枚羽織っただけの格好をしていた。普段は隠れている細く綺麗に筋肉のついた素足も露わになっている。クリックは思わず赤面してしまった。
「おや、クリックくん。随分元気なようですね?」
「は、はい?」
「勃ってますよ」
「は、はい?!」
「まったく。こまった子羊くんだ。仕方ないですね」
テメノスの言葉にクリックは固まってしまった。たかだかバスローブ一枚の好きな人を見ただけで勃起してしまうほど、自分はテメノスに執着していただろうか――していた。確かに、夜な夜なテメノスの乱れる姿を夢想しては自らを慰めるほどには、テメノスに欲を抱いていた。それがまさか。こんな形でばれてしまうとは。
「う、うあ、や、こ、これはその、生理現象というか、その、あの……」
「ふふ、隠さなくてもいいですよ、子羊くん。その立派な雄羊を、治めてあげましょうね」
まるで娼婦の様に妖艶に笑うと、テメノスはクリックの下肢を隠しているタオルを取り払い、隆々と勃起しているクリックのペニスに触れた。
「ふぁっ!?」
「……熱い、ですね……それにとても立派です。流石騎士様、といったところかな?」
耳にかかる銀糸を指先でのけてから、ふふ、と小さく笑ってテメノスはクリックのペニスに口づけを落とした。
「テメノスさんっ?!」
「ん、ちゅっ……おいしい、……クリックくんの、味がします」
「あ、あ、あのっ……、その!」
「食べちゃいたいですね」
あーん、と口を開けると、テメノスはそのままクリックのペニスをぱくりと咥えてしまった。
「てててててててめのすさん………!!うあああぁぁ………!!」
「いいれすね、ろってもあるくれ、おいひいれすよ……」
「しゃ、しゃ、しゃべらないでください!!」
そのままクリックのペニスをしごくように顔を上下にしながら、たっぷりと子種のたまった陰嚢を白く細い指が揉み解す様は淫靡だった。あまりに目に毒だった――それはそれは、甘い毒。
「テメノスさんっ、やめ、やめて……あぁっ、で、でちゃいますから……ぁ!!」
陰嚢を激しく揉みしだかれたかと思えば、茎の裏筋を丁寧に舌で舐め上げられる。筋の一本一本まで愛おしいと言わんばかりにその舌は紅く這いずり回り、亀頭を薄い唇で挟まれ、鈴口を舌先で刺激される。繰り返される刺激に、クリックの昂りは質量を増し、解放を今か今かと待っていた。けれどもこれ以上刺激されてはテメノスの顔に、口に、自分の子種がかかってしまう。それだけは避けたいと思う一方で、見てみたいと思う自分自身がいた。それはとてつもなく美しくて、蠱惑的だろう。どんな表情をするのだろう。想像をするだけでクリックのペニスは更に膨らみ、テメノスの口を圧迫した。
「ふりっふふん、ひょっほ……」
「だから、喋らないでください!テメノスさん!」
音を出す呼気の刺激ですら、今は辛かった。出さないためにはどうすべきか、回らない頭で考えるが、圧倒的に状況は不利だ。何せ急所を捕らえられているのだから。それにしても、まだしっとりと濡れている銀糸の頭が自らの股間でせっせと奉仕をするというこの状況は男として興奮しないわけがない。現に先ほどからクリックのペニスは猛りっぱなしだった。
「あ、あ、ぁ、あ、あ、出る……ーーーーーー!!!」
「んんっ…………」
そしてあっけなく、クリックはテメノスの口腔内へと子種をたっぷりと吐き出してしまったのだった。
「テ、テメノスさん!す、すみません、大丈夫ですか?!」
「ふふっ、大分濃いですね……たっぷり我慢していたのですか?」
心配するクリックをよそに、テメノスはにっこりと妖艶に笑い顔にかかった白濁を勿体なさそうにぺろりと舐めて飲み込む。
「ん、クリックくんの味がします」
「ててっててテメノスさん、や、やめてください、そういうことは……!!」
その表情の妖艶さとあまりの淫靡さに直視できず、クリックは思わず目をつぶる。だが、鼻先にぬるい感触が触れてそれを許してはくれなかった。
「んっ……ふふ、かわいい子羊くんですね。おいしかったですよ。とっても」
ぺろりと鼻先を舐められ、頬に細い指がたどたどしく触れたかと思うとテメノスの舌が徐々に下がってきてクリックの唇を捕らえる。
「んんんんっ!?」
「ふっ……んっ……」
カリ、と唇裏を噛まれ、舌先を絡められた。その舌はひどく熱っぽくて扇情的で、クリックも思わず反応してしまい、目を瞬かせながら舌を必死に動かす。そうするとテメノスはクリックの首に腕を回してきて、もっと舌を押し付けてきた。テメノスの舌は熱くて甘く、クリックの逃げを決して許さない。くちゅくちゅと淫らに水音を立てながら舌のせめぎ合いをしていると、テメノスの口端からは銀色のよだれがたらりと垂れ、白いバスローブに滴り落ちた。それを機にテメノスはクリックの膝の上にのし上がり、その反動で片方のバスローブがはだけ、桜色に熟した乳首がぷっくりと勃っているのが目にはいり、クリックはそこで口づけをやめてしまった。ぷっくりとした乳首は薄い胸板にしてはやたらと大きくて、それを取り囲む乳輪もふっくらとしている。まるで幼女の乳房のような乳首に、ごくりと唾を飲み込んだ。
「あれ?クリックくん、キスはもうおしまいですか?」
これからっていう時に……とつまらなそうに続けるテメノスの顔も見て居られなかった。クリックの視線はテメノスのいやらしく濡れている乳首に釘付けだったからだ。
「おや、君はこちらの方がお気に召したようだ。ふふ、これはね、生まれつきなんですよ、だから私が経験豊富だとか言うことはありません」
「え、ええっ?!嘘でしょう?!さっきのフェラだってとてもじゃないけど初めてだなんて……」
「失礼ですね。同じ男ですから、気持ちの良いところくらいわかります。それを、折角愛情たっぷりに愛撫してあげたというのに君はそんな失礼なことを言うのですか?」
「い、いえ!そ、そうじゃなくて!その!テメノスさんはすごくえっちで、魅力的で、その……僕は……」
言葉が続かない、というよりも思いつかない。だからままよとクリックははだけた胸元に噛みつくように吸い付いた。
「あんっ、ちょ、子羊くんっ!おいたが過ぎますよ!」
反動で胸を逸らすようになったテメノスの胸が目の前にある。まあるい乳首は思っていた以上に熟していて、熱っぽかった。それはクリックを夢中にさせるには十分で、クリックはぷっくらとした乳首に噛みつくように吸い続けた。
「んっ、はぁ……っ、乳首は……っ、あ……!」
「テメノスさん、こんなにいやらしい乳首を、いつも法衣の下に隠してたんですね?なんて異端審問官だ」
先ほどまでは上手だったテメノスは、乳首を舌で、唇で、歯で転がされてすっかりトロトロに蕩けてしまっている。クリックの首に回した腕にも力が入ってない。クリックはそのままペロリと乳首を舐め上げてからカリリと刺激を与える様に噛むと、テメノスはビクリと全身を震わせた。
「あっ、やっ、噛むのはっ、だめ、です……!」
「でも、まるでおっぱいが出てきそうなくらいに大きくなってますよ、テメノスさんの乳首。乳輪も盛り上がって、まるで本当のおっぱいみたいだ」
そこまで言ってからクリックは立ち上がると、テメノスを横抱きにして寝室へと連れてゆく。その間中クリックはテメノスの乳首を舐め、食み、蹂躙していたせいで、テメノスは寝台へ寝かされる前に一度気をやってしまっていた。
「テメノスさん、本当に処女なんですか?乳首だけでイっちゃったじゃないですか……」
「そ、それは……わ、私は生まれつき乳首が弱いんです!だから法衣も極力こすれないようにしてます……し……」
テメノスの言葉の途中でクリックの目の色が変わったのがわかったのか、テメノスの言葉は最後まで紡がれなかった。
「それは、どういうことですか?毎回意識していたってことなんですか?」
「……そうです、そうですよ!ああもう、こんな胸じゃなきゃ普通の法衣に袖を通せたのに、わざわざこすれても刺激を与えないような素材を探して作ったんですから!」
「そんなにえっちだったんですね……テメノスさん……これならもっと早く手を出すんだった」
ぽつりと落とされた言葉に、テメノスの眉間にしわが寄る。
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味ですよ。僕はずっと我慢してたんです。テメノスさんは高潔で威厳のある異端審問官で、年上で、だから、僕みたいな若造が劣情を抱くなんてとんでもない罰当たりな行為なんだって思って……」
「……はああ、そういうことですか。けれど、それは間違いですよ、クリックくん」
「間違い?」
「私も、君の事が好きでしたから」
「は、……?」
その瞬間、頭が真っ白になった。確かに好きでもない男のペニスを咥えたり、胸を舐められて嫌がらなかったのだから嫌われてはいないだろうとは思ったが、まさかテメノスその人から好きだと言われるなどクリックはついぞ考えていなかったからだ。一緒に居る時間が長くなれば長くなる程、そして離れている時間が長ければ長い程気持ちは募った。だから夜毎この綺麗な顔と身体を夢想しては汚していた。それは、ひどく罰当たりな行為だと後ろめたい気持ちもありつつも、やめられなかった。
「好きじゃなきゃ、こんなことはしませんしさせません。そもそも、君、私が風呂上りに香油を塗っていたのも気づかなかったでしょう。欲を増長させる香油を、ちょっとね」
「テメノスさんっ!!」
もう、我慢がきかなかった。がばりと細身を抱きしめ、ぎゅうぎゅうと力を籠める。確かにテメノスからはいい香りがした。しっとりと濡れた肌も、綺麗な銀糸の髪の毛からも、ほんのりとあまくそして蠱惑的な香りが漂っている。
「い、いたたった!痛いですよ、子羊くん!いきなり雄羊にならないでください!」
「だ、だって…だって、嬉しくて仕方ないんですもん!僕のテメノスさん……僕の、テメノスさん……ぐずっ」
「ああもう、いい歳して成人男性が泣かないでください。それより続きを、ね?」
涙を流しだしたクリックの涙袋にちゅ、と優しいキスを落とすと、テメノスはクリックの頬をさするように撫でてから、腕をほどくように促した。そしてその騎士らしいごつごつとした手をとると、自ら胸元にもう一度導く。
「さっきは上手でしたよ。思わずイっちゃうくらいに。とおっても、上手でした。また、してくれますか?」
「は、はいっ!僕、無我夢中だったんですけど、テメノスさんがそういってくれるなら、たくさんおっぱい吸いたいです!」
「あはは、まるで赤子みたいなことを言う。でも、私のおっぱいを吸っていいのは、君だけ……クリックくん、君だけ、ですからね?」
ことりと首を傾げてにこりと邪気もなく笑うテメノスは、愛らしかった――何時もの食わせ者の雰囲気などはどこにもない。ただそこには、睦み合う恋人同士だけがいた。
ごくり、と唾を飲み込んでクリックは再びテメノスの胸元と向き合う。自分でやっておいてなんだが、本当に少女の乳房の様に膨らんでいるかのようにすら見えるのだ。それほどに乳首も乳輪もぱんぱんに膨れていて、今か今かと吸われるのを待っているかのようだ。
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「あ、あの、もう片方も、その……」
「いいですよ、クリックくん」
「はいっ!」
待ってましたと言わんばかりにクリックはテメノスのバスローブのまだ肩にかかっていた方をずりおろすと、そちらは控えめに主張している乳首が存在していた。クリックはまずころころと乳首を指先でこねくり回す。
「んっ……そ、……いい、です……よ」
そうすると桜色だった乳首は少しずつ色を変え、大きくなってきた。ぷっくらと膨らんだ果実にむしゃぶりつきたい一心でクリックは乳首を転がし続ける。やがてテメノスがたまらないという風に腰を動かしだしたので、遠慮なくむしゃぶりついた。その味は、やはり甘かった。
「あんっ、急に……!!」
そのあとは、夢中だった。舌で、唇で、乳首を転がしてみたり乳輪を丁寧になぞってみたり、或いは時折刺激を与えるためにカリリと歯で噛んでみたり。その都度テメノスの甘い声があがり、もどかしくなったクリックはもう片方の乳首に手を伸ばし、そちらも弄り始めた。
「やだっ、両方はっ……はぁんっ!!」
テメノスの細身の身体がしなり、バスローブの下肢の部分に染みを作る。
「触れられただけで、イっちゃいました?」
少しだけ意地悪く告げると、ジト目で睨まれた。だが、うわ目遣いでしかも息も上がり、普段は新雪のように白い肌に朱がさした状態でそんな顔をされても困る。クリックは下腹部に重い熱をずしりと感じた。最も、先ほどから――テメノスを寝台に運んで来た時から、クリックのペニスは臨戦態勢だったのだが。
「もう、二回もイっちゃったんですね。胸だけで。本当にえっちなおっぱいしてますね」
「やめてください……これでも……気にしてるんですから……」
普段の覇気を微塵も感じさせない、どころかたおやかにすらかんじさせるテメノスの物言いに、クリックのペニスは更にずしりと質量を増した。我慢が、出来なかった。
「ごめんなさいっ、テメノスさん!!」
「へ、あっ?!」
突如豹変した雄羊は、テメノスの薄い胸板に自ら脈打つペニスをこすりつけだした。ぬるぬるとした感触と時折当たる硬い乳首の感触がたまらなくて、クリックはテメノスの細い腰を抑えながら律動を止められなかった。
「はぁっ……はぁっ……テメノス……さんっ……!!」
「やぁっ、おっぱいでっ、おちんちん、扱かないで……ください……んぁあぁ、きちゃう、きちゃう、わた、わたし……ああっ熱いっ!!」
「いいですよ、僕の熱いおちんちんで、おっぱいイッちゃってくださいっ!はぁっ……はぁっ……!!」
テメノスの勃起した乳首は中途半端に流れ出しているクリックの先走りで余計にてらてらの濡れていやらしく存在を主張していた。クリックはそこめがけてペニスを動かす。その度に熱にあてられ、くにくにとした硬い肉とぶつかり、ペニスは膨張した。さらにそこに我慢汁がかかり、余計にいやらしく乳首を、乳輪を彩る。
「はぁっ、はぁっ、で、出ますっ……テメノスさんっ……」
「や、あ、……あっ、おっぱいで、っ、いっちゃって、くだ、……さいっ、わたしの、いやらしい、おっぱいで、くりっくくんのっ、おちんちんっ、大きくなってっ……!!」
「本当にっ、出しますよっ、……うっ、あっ―――――!!」
二度目だというのに、大量の精液がテメノスの胸元を汚した。ねっとりとした白濁が赤く熟した乳首を彩り、官能的を通り越して蠱惑的で本当に目に毒だ。はぁはぁと薄い胸を上下させているテメノスも達したのだろう。荒い呼気をしながら、胡乱な目でクリックを見上げている。そして、細い両腕がクリックの首に回された。
「クリックくん、きて……」
そこに理性はもうないのだろう。翡翠の瞳はクリックだけを映し、そのままクリックが上体を重ねると口づけを求められた。ちゅ、と小さな音と共に淡いキスをすれば、甘い菓子を与えられた子供のように蕩けた笑みを返してきた。ああ、この人はこんな顔も出来るのか。そう考えていると、再び欲を持った熱がずしりと重くクリックの下肢を刺激した。半立ちになっているペニスに触れようとテメノスが指先を伸ばすが、クリックはそれを制止した。
「テメノスさん。僕はあなたとひとつになりたいです。一緒になりましょう。ひとつに、溶けて、しまいましょう」
そこにいるのは子羊ではなく立派な雄羊だ。テメノスがぱちぱちと瞬きをしてから、再び蕩けるような笑みを浮かべて「はい」と小さく呟く。こんなに順応なテメノスを見るのは初めてで、クリックも若干混乱していた。だが、彼はクリックを求めている。ならばこたえなければ。
けれどもひとつだけ、懸念があった。
「あの……テメノスさん、先ほど、処女だっていってましたけど……」
「あ、あのですね、僕は童貞ではないんです。経験済みなんです。ですからその……で、できるだけ!出来るだけ優しくしますから……!!」
「ふふ、そんなこと気にしてたんですか?君が経験済みでもそうでなくてもどちらでも構いませんよ、ね?私を抱いてくれるんでしょう?」
「は、はい!それはもちろん!」
こんな問答はばかげていると思ったが、確かめておきたかったのだ。それから徐に、サイドボードにある香油をクリックは手に取ると、己の指に垂らす。テメノスが準備しているかもしれないが、何せ初めてなのだ。怖がらせたくはないし、痛い思いもさせたくない。丁寧に、愛したい。
「で、では、その、テメノスさん……い、いいですか……?」
「はい、はやく、きてください……」
蕩ける眼差しで乞われると、たまらなかった。下半身の質量がさらに増す。けれどもそこはぐっと我慢をして、寝台に寝ているテメノスの身体を起こすと、奥まった蕾に香油に塗れた指で触れた。
「あぁん…っ、クリックくんの、指……とても、熱い……」
「テメノスさんのここも、とっても熱いですよ……」
フーッ、フーッと獣のような息をしながらクリックはテメノスの後孔に指をつぷりと入れてしまった。
「やあんっ、急すぎますっ!」
「ご、ごめんなさい、つ、つい」
「は、くは……あ、……くりっくくんの指は、りっぱ、ですね……」
「テメノスさんの胎内も、すごく……締め付けてきます……」
急すぎた己の行動を後悔しつつも、テメノスの後孔はそれほど抵抗なくクリックを受け入れた。つまり、慣らしていたということだろうか?
「もしかしてテメノスさん、お風呂で慣らして……」
「い、いわないで……」
普段の威厳はどこへやら、子供のようにいやいやと首を振りクリックの視線から逃れようとするテメノスの顔を片手で抑えて、じっとその翡翠を見つめる。熱っぽく理性の飛んでいるそれは、けれどもとても美しくて、欲に塗れていて、クリックは自分自身が抑えられなくなっていると自覚した。
「それなら指、もっと、入れますね……」
「はぁんっ、きもち……いいっ……くりっくくんの、大きな指……っ」
クリックの指がコリ、と前立腺を掠めると、テメノスは身体をびくりとしならせて嬌声をあげる。
「そこっ、や、怖いっ、何か、来る……や、やめ……」
「気持ちいいんですね、テメノスさん……」
重点的に前立腺を刺激してやると、テメノスのペニスも次第に上向きになり、透明な汁をたらたらと垂れ流していた。それを良いことに、しつこい程にクリックは前立腺を刺激する。
「や、やだ、そこばっかり……もっと、奥……奥……おく、もどかしい、です……わたしっ……どうなって……」
紅潮した顔、欲に塗れた翡翠の光、そして薄い唇からはとめどなく流れ落ちる透明な唾液。あまりに乱れたテメノスの表情に、クリックはゴクリと唾を飲み込んだ。
「わかりました、もっと、奥、……ですね」
ずぷ、と音がするほどに指先を後孔に入れると、再びテメノスは肢体を弓なりにしならせ、ぎゅっとシーツを握る。その表情は蕩けてはいるが不安そうで、クリックは思わず唇に口づけを落としていた。
「大丈夫です、テメノスさん、気持ちいいから、こうなっているんですよ。ほら、見てください。テメノスさんのおちんちんも、気持ちいいって言ってます」
「やぁ…わたしの、おちんちん、も……はぁんっ!」
クリックはテメノスの反応を見つつ、挿入する指を二本に増やした。テメノスは相変わらず蕩けっぱなしで、自ら乳首を弄りだす始末だ。
「んっ、おっぱい、きもちい……」
「テメノスさん、そんなにいやらしかったんですね……おっぱいと後ろでこんなに気持ちよくなるなんて……」
半立ちのテメノスのペニスからはたらたらと我慢汁が流れ落ちている。頃合いか、とクリックは自ら猛るペニスを持ち上げると、テメノスの後孔に宛がった。
「あ、……つい……!!」
「そうですよ、えっちなテメノスさんが悪いんです。僕のおちんちん、こんなに大きくなっちゃったんです。責任取ってくださいね」
「え、あ、や……ああぁ――――!!」
ずぷり、と今までとはくらべものにならないほどの質量が、テメノスの後孔を犯す。それは滾る熱を持ち、うねるテメノスの媚肉を掻き分けて入ってきた。その質量と刺激はテメノスにとっては初めての経験で、目がちかちかする程の異様な快楽を催した。
「や、やだっ、こわい、こわ、くりっくくん、わたし、……こわいっ、……」
怯えるように体を震わせながらも、蕩けた表情のテメノスを、クリックはなだめる様に抱きしめる。
「大丈夫です、大丈夫ですよ、それが、気持ちいいってことですから……」
「これ、が……やんっ、奥、おくにっ……」
抱きした拍子にクリックのペニスがテメノスの奥を穿ち、その刺激にテメノスは生理的に涙を流しだした。
「テ、テメノスさん?!」
「や、こわい……こわ、こわいけど……きもちい……くりっくくん……」
まるで子供のようにこわいこわいと繰り返しつつも、快楽も得られているのだろう。テメノスのペニスはたらたらと透明な汁を流しっぱなしだ。そして何よりテメノスはクリックの逞しい背中に手を回し、離そうとしない。
「もっと、……もっと……奥に、おく、……わたしの、奥に、くりっくくんの、せいし、ちょうだい……っ!」
「テメノスさん……テメノスさん……っ!!」
そこまで言われて我慢が出来る男がいるだろうか。
テメノスの言葉を皮切りに、クリックはがつがつと腰を動かしだした。
「やんっ、あぅっ、激しっ、くりっくっ、くんっ、やっ、もっとっ、おくっ、おくにっ、!!」
「はいっ、テメノスさんっ、もっともっと、奥に、僕の証を、刻みたいですっ!!」
もしかしたら二度とこんな機会はないかもしれないから。騎士という仕事をしていれば何時だってその身に危険が付きまとう。だから、愛する人の身体の奥底に自分を刻み込みたい。クリックはその一心で腰を動かしていた。パン、パン、と肉と肉がぶつかる音が木霊する。テメノスの姿態は都度揺られて、それでもクリックを離さないといわんばかりに必死に腕を回している。快楽に蕩けていても、決してクリックを離したくはないという意志がそうさせるのだろう。それは言葉ではなくとも十分に伝わってくる愛情で、クリックは思わず目頭が熱くなる思いだった。腰を動かしながら、媚肉の中で自ら質量を増しているペニスが、やがて解放を待っていることが分かった。
「テメノスさん、中に……出し、ます……っ!!」
「は、はい、……わたしの……なかに……孕ませて、くりっく、くん……!!」
最早自分で何を言っているのかもわからないのだろう。男に孕む器官はないにも関わらず、テメノスはそんなことをうわごとのように呟いた。
「はいっ、僕の子を……孕んでください、テメノスさんっ、一緒になりましょうっ、そして、幸せになりましょうっ!!」
がつがつと肉をぶつけながら、逞しい上体から汗を滴らせながら、クリックはテメノスの最奥へとペニスを挿入する。
「あ、きて、る……おく、やだっ、きてっ、くりっくくんの、あついのがっ……!!」
「だし、ます……受け、止めてください……テメノスさんっ……!!」
どくどくどく、と自らのペニスからたっぷりの精液がテメノスの中に注ぎ込まれる感覚に、クリックは酔いそうになっていた。
「僕の……テメノスさん……」
つい口をついて出た言葉に、テメノスがふわりと笑う。
「はい、もう……君の、ものに、なりました……」
その声色は蕩けていてそれはそれは幸せそうで、クリックは再び強くその肢体を抱きしめたのだった。
「テメノスさん、大丈夫ですか?その、……優しくするといったのに、最後はもう、何が何だかわからなくて」
「あまり、大丈夫ではないかもしれません。これでは明日の仕事に支障が出てしまいますね」
先ほどの甘い空気はどこへやら、いつものテメノスに戻ってしまった彼は、憎まれ口を叩く。けれども表情は穏やかで、決して怒っている風ではない。
「でも、君が上手で気持ちよかったから帳消しにしてあげます」
「ほ、本当ですか?よかったぁ……」
「こら、調子にのらない」
クリックの腕枕でゆるりと時間を過ごしているテメノスから、ぺし、と叩かれる。
「テ、テメノスさん……」
「でも、気持ちよかったのは、本当です。初めてだから、もっと痛いかと思ってたんですけどね。準備した甲斐がありました」
「やっぱり準備してたんですね」
「そりゃそうですよ。せっかくの君との初夜を、失敗に終わらせたくなんてありませんでしたし……私は処女だから、失敗する確率の方が高かったですし……」
最後の方がごにょごにょと聞き取りづらかったのは、テメノスがクリックの胸板に顔を伏せてしまったからだ。そんな風に甘えてくれるのが嬉しくて、濡れた旋毛にクリックは口づけを落とす。
「ん、……クリックくん、キスをするなら、どうせならこっちに」
そう言いながら顔をあげて、唇を突き出して目をつむるテメノスに苦笑しながら、クリックは小さな口づけを落とした。
「僕、幸せです。ようやくこれでテメノスさんと恋人同士になれたんだなあって」
「私も幸せですよ。ねえ、でも君は、いつから私の事が好きだったの?」
「今それを聞きますか?」
「はい」
「容赦ないなあ……。……多分、最初から、です」
「その割には君の態度は冷たかったように思うけど」
「そ、それは……その……いろいろ、色々です!」
「まあ、子羊くんですからね、よしとしましょう」
ぽんぽん、とクリックの頭を軽く叩いてから細い指先が癖毛を撫でてくる。この感触が、クリックは好きだった。優しくて、甘くて、幸せな気持ちになれる。思えばテメノスは最初からよくこうやってクリックの頭を撫でたりしていたものだ。最初からテメノスに恋をしていたクリックには、聊か刺激が強すぎたけれども。
「ふふふ、クリックくんはやっぱり可愛いですね。さっきはあんなに格好よかったけど、こうしてみるとやっぱり子羊くんです」
「な、なんですかそれ!僕だって立派に……!」
「はいはい、わかってますよ。君が私の事を愛してくれていることも、ちゃんと守ろうとしてくれていることも。それで何度助けられた事か。感謝してもしきれません」
意外な告白に、クリックが目をぱちくりとしていると、年上の異端審問官はふふふと楽しそうに笑った。
「君は立派ですよ。公私ともに、ね」
「は、はい……ありがとう、ございます……?」
「ふあぁ……久しぶりに体力を消耗したので眠くなってきました。このまま寝ても?」
このまま、というとはクリックの腕枕のままということだろうか。それでもいいや、とクリックは思う。愛しいひとの体温は、いつだって幸せな気分を齎してくれるのだから。
「いいですよ、少し、無理させちゃった自覚もありますし、このまま眠ってください」
「はい……それでは……そうさせて……いただ、だき……ま……」
全てを言い終わらないうちに、テメノスはすやすやと寝息を立てて眠りに落ちていった。クリックはテメノスの額にかかっている前髪を指で梳いてから、その額に口づけを落とす。
「愛してます、テメノスさん。僕が、何があっても、あなたを守りますから……だからどうか、ずっと一緒に、いましょうね」