白の約定を手にして、9Sは二人の想いを知った。
 それは、とてもあたたかくて、やさしくて、そして、重かった。
 ただ一人残された自分に、何が出来るのだろう。
 生きることが、出来るのだろうか。
 まだ、わからなかった。けれど、生きなければならない、という気持ちだけは心の中にぽつんと芽吹き、それは光と水を受けてやがて育つだろう。そう、今は思えた。
 自分にはまだ、何か、出来ることがあるのかもしれない。空を見上げれば、どこまでも澄んでいて蒼くて、思わず手を伸ばしていた。何かを、つかみ取ろうとするように。


「9S、それは……」
「ふたりの、形見です。これを手にして、僕は二人の想いを知りました。だから、僕はもう迷いません。アネモネさん、僕を、レジスタンスに加えてください。これでもヨルハ機体です、役に立つと、思います」
「あ、ああ……それは、勿論……だが、いいのか?」

 アネモネの懸念がわからないわけではない。彼女も、以前何かと助けてくれていたのだが、そんな彼女にすらろくに感謝もしていなかったのだから。

「それから、ごめんなさい。僕は憎しみにとらわれすぎて……何も、見えていませんでした。結果的に、A2を、殺してしまった。それは、僕が背負うべき罪で」

 そこまでを言った9Sに、アネモネは首を振った。

「それは違う、9S。二号は、望んで命を君に授けたんだ。元々彼女は死に場所を探していた……その命が、君の中に宿った、そう考えれば……少しは……救われる」

 絞り出すような彼女の声に、9Sは唇を噛みしめる。アネモネが何も思わないわけがないのだ。それを知ってて、自分はなんて軽率なことを言ってしまったのだろう。

「……すみません。僕は……」
「ああいや、いいさ。お前が悪いわけじゃない。それに、背負わされたものってのは、重いものだからな……。ゆっくりつきあっていけばいい。とりあえずは、休むか?あまり物資も人も揃ってはいないが……」
「はい。再起動から暫く休んでなくて……」
「そうだろうな。まあ、手狭だが休めるところはある。メンテナンスは悪いが……自分でしてくれ。とはいえ、片腕じゃ難しいか……確かメンテナンスがある程度できる奴がいたはずだ、メンテナンス用のテントにいるだろうから、頼んでおくよ」

 言うが早いかアネモネはメンテナンステントに向かっていった。
 デボルもポポルももういないが、それでも彼女たちは戦っていかなければならない。その為には、自分ももっと役に立てるようにならなければいけないだろう。それが、きっと、生きるということだから。