「起動チェック、オールグリーン。おはようございます、4S」

 それが、この世界ではじめに聞いた声だった。
 視界は、くらい。けれども、うすい人工皮膚の膜を通した向こう側にある光が、透けて見える。それから、静かな駆動音。決して不快ではないその音を、もう少し聞いていたいなあ、と思った。

「おはようございます、4S。気分は、どうですか」

 気分。気分、だって。なんだろう。僕は、今、「目が覚めたばかりだ」。
 できるだけ正確な言葉を捜したほうがいいんだろうか。正確な、言葉。よくもない、わるくもない。どちらでもないし、どちらでもあるような気もするけど、両方だ、というのもなんだか乱暴な気がした。

「悪くないよ、たぶん。でも、いいっていうには、もう少しこのままでいたいかなあ」
「回答:その答えは適切ではなく、ヨルハ機体4Sは単に面倒だから起き上がりたくはないだけである」

 慇懃な口調が一変してどこか見透かしたような、傲慢にきこえるそれに変わるものだから、4Sは思わず上半身を起こしてしまう。ああ、せっかく気分がよかったのになあ。

「ちょっとそれは訂正。確かに面倒だなって思ったけど、別にだからって起き上がりたくないわけじゃなくて。あれ、君、誰」
「回答:誰、は適切ではない。個体ナンバー021、随行支援ユニット021。ヨルハ機体4Sの任務遂行および戦闘行動等のサポートのため随行する」

 「彼」の自己紹介のとおり、この鈍い黄色の筐体が、4Sのサポートをする支援ユニットだ、ということは知っている。

「あ、そうか、君が僕のポッドなんだね。よろしく、021」
「我々随行支援ユニットのナンバリングは、ヨルハ機体のそれとは意味合いが違う」
「そうなんだ。でも、君は僕の、これからの相棒なんだろ?」
「否定:我々は、独立思考型のA.I.を持たない。よって」
「でも、君は今021って僕に自己紹介をしたよね」
「肯定:および訂正。そのナンバリングは、便宜上のものである。区別をつけるため」
「じゃあやっぱり、君は021。これから君の事は、021って呼ぶよ」

 言って4Sは手を差し出した。021は困惑したように、少しだけ大小四つのアームを動かす。4Sの行動の意味は、わかるのだろう。

「ほら、これは親愛の挨拶。これからよろしくっていう意味」

 相棒には、挨拶をしないとね。4Sの言動にだいぶ困惑していたらしい021だが、結局は根負けしたのか、アームのひとつを、応じるようにぎこちなく動かした。