一日は二十四時間。それは、この地球が一回転するのにかかる時間が二十四時間だから、という大昔からの決め事だ。
 昔は、地球が太陽の周囲を回るのに合わせて昼と夜があって、合計で二十四時間。昼と夜の区切りは太陽が空にあるか否か、太陽が空にあれば明るくて、沈めば暗くなる。そして夜には太陽のかわりに月が空にのぼる。そうして古来のひとびとは朝と夜の区別をつけて、それに合わせて生活していた。

 アンドロイドが生まれたころ、すでにそのルールは失われていたけれども。地軸が傾いてしまったために、この地球の自転バランスが崩れてしまったのだ。そして常時昼の場所と、常時夜の場所が地球上に存在するようになった。当然、それは生態系に影響を及ぼしたし、それとは別の理由で地上から人類はいなくなってしまった。

 その、太古の決め事をそのまま流用して時間を刻むことにしたアンドロイドたちは、やっぱり人類というものに憧れていて、人類という存在を尊重していて、いつまでも待っているんだろうな。たぶんよほど何かがない限りは、人類というものに焦がれ続ける、それがアンドロイドだし、ヨルハ機体だ。4S自身もなんの疑問もなくそう思っている。

「えっとさ、僕は夜っていうものを、結局は知らないんだけど、021はどう思う?」

 漠然とした質問を相棒になげかける。本来であれば自律思考することのない021が021でほんとうによかったな、と思う瞬間だ。もっとも改造はしたけれどそうした人工知能が「彼」にプログラムされていなければ、さすがにS型とはいえ専門家ではない4Sにそこまでできる技術も知識もない。だから、この随行支援ユニットの人工知能自体がそうした可能性を最初から持っていたのだろう、と4Sは思っている。

「そりゃあアレっすよ、夜っていや空に星が輝いて、ちょっと昼間とは雰囲気が違って、女子を口説くにはやっぱりそういう雰囲気作りが大事だからここは景色がいいところにちょっとつれていって」
「あ、ごめん、そういうんじゃない。どういうものなんだろうなあっていう、具体的な想像のこと」
「あ〜〜〜、暗いんじゃねえの。オマエラどう思うよ。bは」
「そりゃ暗いんじゃね。あと太陽がねえなら寒ィんじゃねえの」
「なるりょ:cは」
「bに同意:暗いよな、自分らいねぇとヨルハっこでも外、出歩けねえよな。特殊装備してる暗所対応型とかでもねー限り」
「ご意見感謝:総意、暗いんじゃね?」
「……まあ、それは、そうだね、暗いよね」

 三機会議、彼らいわくミーティングが開始されたが、題材が題材だっただけに即解決してしまった。というよりも、このポッド同士のやりとりは、ほぼ完全同意に至っている。そして今回もその例に漏れなかった。

「暗いっていうの、それって宇宙空間みたいな感じなのかな。地上だと地下とか、太陽の光が届かない状態。でも、地球の衛星である月が太陽の光を受けて反射して、地上を照らす満月の夜は、月明かりでも歩けたっていう伝承もたくさんあるよ」

 021にインストールした情報も、彼らが独自に学習・収集してきた情報もだいぶ多岐に渡るはずなのに、なぜか彼らは必ずといっていいほど、こういう風に「同じ結論」を出してくる。それが彼ら「随行支援ユニット021」の総意なのかもしれないのだが、なんというか、確かに個体差もあまり感じられないのもなんとなく、つまらない。  すると、4Sの内心を察したのか三機一体のはずの021のうちの一体がそれみたことかと他の二体を小突く真似をした。
「あ〜〜、a、おめえがふつうめの回答したから、4ちゃんすねてっぞ」
「ウッセ、cだって同意したべ。だいたい自分ら4ちゃんみたいに頭まわんねーから4ちゃんが期待するようなおもしれーこといえねーし」
「それな。自分らやっぱなんぼジャッカス先生の手によるパワーアップあっても、さすがに土台ちげえヨルハっこには適わねえ的な?」

 彼らはいつもこうなのだ。

「ちがうよ、君たちのおしゃべりを聞いてるのはすごく楽しいよ?ただ、なんでいつも同じ結論が出るのかな、って考えてて」

 4Sの答えに、鈍い黄色の筐体がそろって沈黙する。もっとも、沈黙している間もアームを小刻みに揺らしたり、筐体を傾けたり、ランプをわざと点滅させたりしているから、彼らは彼らなりに何か考えているのだろう。こういうとき、アームをよく動かすのが021a、筐体ごと揺らしだすといった大きめのリアクションをするのは021c、それ以外のことをしたり突然妙な発言をするのが021b。三機同時運用される彼らで確かにその思考は同一の人工知能がベースになっているが、彼らの行動や言動には微妙な差異があるのだ。それが、もともとの随行支援ユニットのつくりなのか、改造した結果人工知能が学習進化し個体差が生まれたのかはわからない。彼らのデータログは残されているから、それらを紐解くのも面白いかもしれなかった。なにせ時間は、ほとんど無限にあるのだ。

「無限、ていうか、僕自身の稼働時間プラス僕の能力の範囲内で修復したり補強したりできるレベルでの無限、てなると有限なのかな」
「ナニナニ4ちゃん、またなんか面白いこと思いついたの?」
「さすがッスわ、ヨルハっこは頭の回転はええのな〜」
「やっぱちげえなあ、人工知能の違いってヤツ?」
「あれ、聞いてたんだ。う〜ん、ちょっと君たちには面倒な話かな?でも現段階の理解力がどの程度か判断するにはいいかもね。実は」

 こうして4Sと021たちの特に意味のない議論にもなっていない議論は続いてゆく。

 敵地に潜入して三年弱。すっかり馴染んでしまい勝手知ったる敵地であれば、あるいは味方の基地よりも気楽なのかもしれない、と4Sは考えていた。