「あ、ニーアさん!もう行くんですか?」ニーアの姿を認めるやふわふわと寄ってくるエミールに、ちらと一瞥をよこして立ち上がろうとするカイネに「いや、話があってな」ニーアはそう言っておしとどめる。エミールはニーアの側に留まり、カイネは一瞬顔を顰めながら再び座り込んだ。
「実は、な」

   ニーアの話に興味津々という風なエミールと、どうでもいい素振りを見せながらもなんとなく聞いているカイネ。態度は正反対だが、どちらもそれなりに喜んでいるようだとニーアは思った。

「…子供の祭り、か」
「へええ、それならぼくやカイネさんが村に入ってもいいって、そういうことなんですか?」
「ああ」
「ほんとに!ほんとに、いいんですか!」
「大丈夫だ、仮装をしてだがな」付け加えればエミールは歓声をあげて喜び、対照的にカイネは鼻白んだ。「私もするのか?!」
「まあ、…その方が、よいだろうな」カイネのあまりの剣幕に思わずニーアがたじろいでいると、エミールが横から「まあまあカイネさん」と割って入ってきた。
「ぼく、そのお祭りの話は知ってるんです。ハロウィーンっていう…小さな子たちが仮装して、それからお菓子を貰って!そういえばあのお化けは、今の僕とちょっと似てたかもしれないです。カイネさんは…帽子を被って、黒いローブを着て、魔女なんかどうです?」
「ま…魔女だと!」
「魔法を使う女の人ですよ。えっと、すっごくつばの広い帽子と、それからだぼっとしたローブ。どっちも色は黒で、あとあと、魔法の杖はぼくのやつをかしてあげます!」エミールが妙な博識ぶりを披露しながらカイネの腕をとりながらはしゃぐ。カイネは些か迷惑そうではあるものの、まんざらでもないようだ。その証拠に、口では手厳しいのだが表情が柔らかい――元々彼女はエミールの押しには、弱いのだが。
「誰が、やると言った」
「やらないんですか?だって、ぼくひとりじゃ楽しくないですよ、カイネさんを残してひとりで楽しむなんて、ぜーったいに、いやです!」
「………だがな……」
「……その下着姿よりは余程常識的な格好ではないか。ん?」
「なんだと、この便所紙」
「あーっ、シロさんもカイネさんもやめてください!とにかく、それじゃあ、準備しなきゃですね、ニーアさん」

 危うく白の書の余計な一言でカイネがヘソを曲げるところだったが、エミールの機転で結局カイネも不承不承ではあるが参加することになった――かなり、不機嫌そうではあるが。

「そうだな…かぼちゃは畑にあるが、エミールがかぶれるようなものとなると…」
「仮面の街に行けば、あるんじゃないでしょうか?あそこなら、きっと仮装の道具なんかもありますよ」「うむ、だが祭りは明日だぞ」
「大丈夫ですよ!いざとなったら、イノシシに乗ってぴゅん、っと行けますし、ね、カイネさん!それにぼくの屋敷の中にも、もしかしたら何かあるかもしれないです!探してきましょう!」
「こ、こら、エミール!私はまだやるとは……」

 思いつけば即行動。流石のカイネにも断る余裕もなく、なし崩し的にエミールと共に行ってしまった。
 カイネと再会してからというもの、なにやらエミールは兎に角カイネと一緒に行動するのが楽しいのかよくカイネにまとわり付いている――白の書にいわせれば、ニーアにも同じくらいまとわりついているらしいのだが、カイネとエミールのじゃれあいと自分のそれとは少し違う気がしていた。
「ああ、行ってしまったが、よかったのか?」戸惑うような白の書に頷き、ニーアは村を振り返る。

「………さて、では俺たちも準備をしようか」