わたしたちはこの世界の管理者。
わたしたちに魂というものはない。
わたしたちはこの世界を管理するために作られただけの存在。
わたしたちの役割は、この世界に生きているレプリカントたちを統括すること。わたしたちは、それだけのための道具であるからそれ以外のものは必要のない存在。
わたしたちは双子としてつくられた。
多分、何らかのアクシデントに備えるために双子に作られたのだろう、普段はそういう程度の認識しかしていない。それはとても合理的な判断だったと思う。この世界は幽かに光が差し込む薄暗いどんよりと淀んだ湖面の底のように平穏であるけれども、間違いがないとはいいきれないから。
わたしたちはたった独りではなく、双子として作られた。とても良く似た、けれども決して同じではない姿かたちで、優しい声音と歌を謡いながらレプリカントたちを慰め導く司祭として、作られた。当初よりも大分自我を持ってきてそれなりの秩序でもって一つの社会を形成するようになったレプリカントたちは、そうした歌や踊りという娯楽で心を慰めるという手段を得ていたから、そういう必要以上の要素も、あながち無意味でもなかった。
わたしの喉はもう一人のわたしと同じ歌を紡いで古の言葉を音に乗せることができる。けれど、わたしは歌うことが別に好きではなかった。勿論、気が乗れば歌わないこともない、けれども、姉のデボルは村の広場で歌を歌いながらレプリカントたちと戯れる事を愛していたし、姉の歌う声や姿は様になっていて、それはとても美しくこのどこか色あせた世界の中で全うな色彩を得ている唯一のものだというふうにわたしの目に映っていた。
そういう風に片割れを特別だと感じるのは、とても長い間、何度も何度もループするレプリカントたちの生、唯一つの目的のための特に意味のない生を淡々と眺め、管理しなくてはならないわたしたち司祭には、多分必要なもの。
だから、私たちは、双子としてつくられた。
たまに、わたしは戯れにデボルの肌にそっと触れてみることがある。それは、別に何かを考えてする行動ではない。ただふと、無意識にそうするのだ。
例えば、太陽の光がすうっと和らいで静かになり全体に影がしっとりと落ちてくるような、なんとなく茫漠とした侘しさが時間全体に漂うような時刻に、彼女が図書館に戻ってきた時に。
わたしが仕事を終える頃、彼女はふらりと帰って来る。
扉を開けて私を見て微笑んで、わたしが応じるとソファに座って、静かに歌を紡ぎだす。私はそのとても心地良い音を耳に閉じ込めながらその日の最後の仕事を終える。ペンを走らせる手を止めて、堅くなってしまった身体を少しほぐしてから息を落として立ち上がる。
彼女は相変わらず歌を紡いでいる。とても綺麗な声。わたしは立ち上がって、静かに彼女の隣に座る素振りを見せる。すると彼女は歌いながらわたしを見てこの村の水のようにとても澄んだ色の瞳をくるりと回して微笑む。その時にふわりと薫る彼女の甘い淡い香りにほんのりと眩暈を覚えるのと、彼女が声を途切れさせるのは、だいたいいつも同じタイミングだった。
デボルの肌はとてもとても綺麗。そのとても精巧で透明な作り物の肌はわたしの指先で直接に触れることを躊躇わせるには十分なのだけれども、それを含んでも尚、わたしはその肌に触れたいと思ってしまう。
それはどういう感情からくるものなのかを理解していない。そもそも、感情などというものが、わたしたちに存在していること自体がありえなくて、だからそれはどういう理屈から来るものなのかを理解していないという方が多分正しい。第一、この行動はわたしたちの使命とも無関係。
無意識に、それはもしかしたらレプリカントたちがゲシュタルトを駆逐するという意志を生まれながらにして持つように、最初から存在していて疑問に思わない類のものなのかも、しれない。この、違和感のなさや唐突さを考えると、そういう仮定は当然のようにも思えた。
けれども、そういう行動の理由たりえるものをはっきりと自覚しないまま、わたしはデボルの肌に指先を躊躇いがちに伸ばして、触れる。
わたしの指先から、わたしのものではないぬくもりと張りの良い感触が仄かに伝わってくる。
名をささやきながらじっとそのまま空を映し出しているような双眸をじっと見詰めると、いたずらっ子みたいにやっぱりくるりと瞳を回してデボルはわたしの名を呼ぶ。「ポポル」彼女のわたしに良く似た声に、わたしは彼女に触れる時に憶えたものをもう一度憶えて、そうすると身体の芯の部分からすうっと立ち上ってくるほんのりとした熱が吐息となって零れ落ちる。
声だとか、体温だとか、わたしのものではないけれどもわたしと同じ、とてもとても良く似ているものがわたし以外から発せられているということは、わたしの中に謎めいた熱と衝動を覚えさせる。
とても刹那的で、抗い難くて、胸の奥とこめかみが疼くように痛むそれは、魂のないわたしたちには無縁であろうものなのだけれど、確実に存在してわたしの意識をゆっくりと侵食してゆく。
どうして、誰にでもなくただ漠然と問う言葉を必ず口にするわたしに、デボルはびっくりするくらい柔らかく微笑んで、楽器をソファの端に立てかけて、わたしの頬にそうっとあたたかい手のひらを這わせてわたしの髪の毛に弦を爪弾くための美しくほっそりとした指先を絡ませてくすくす笑う。
「どうしてかなんて、誰にもわからないさ」
「わからない?」
何を私が問うたのか、まるで見透かすようにデボルはわたしの目を見て微笑む。
「わからない。けれど、別にあたしは気にしない。だから、それでいいだろう?なぁポポル」
彼女はわたしがいつだか口にしていた言葉を、憶えていた。だから応えたのだ。
「あるとかないとか、どうでもいい。だって、今、あたしは、ポポルとこうしていたい」
「わたしは……」
「いいんだよ、ポポル」
繰り返されるわたしの名前は、まるで魔法の言葉のようだった。彼女が繰り返しわたしの名の音を紡ぐと、わたしの中の不思議な感覚は彼女の言葉に従って消失してゆく。こんな風にも魔法というものは使えたのだろうか、と少しだけわたしは考えたけれど、きっとそれは違うような気がする。デボルの言葉だからだ。彼女の声だからだ。わたしと良く似ているけれど、秘められているものが違う声。
消失してゆく感覚の代わりに、身体の芯の部分からほんのりと蓄積されていた熱が少しずつ具体的なものになり、頬と髪に触れているデボルの手のひらの優しげな感触にうっとりと眩暈を憶えながらわたしはそのとても可愛らしく小さな唇に指先で触れる。
さっきまでずっと古い歌を紡いでいた唇はしっとりと濡れている。つるりとした、とても綺麗で、とても可愛らしい、わたしに瓜二つの唇のえもいわれぬ感触はわたしの指先に熱を伝えて、身体の芯がちくりと疼く。
デボルの指先がデボルとは違う緩やかなクセのわたしの髪の毛を慈しむようにもてあそぶ。
彼女は無垢な眼差し、わたしを見詰めている澄んだ空の色。
わたしは小さくその名をささやきながら、少し眼を細めて顔を近づける。わたしに良く似た、わたしのものではない、とてもきれいな顔。間近で見れば見る程そこにはわたし以外のわたしではないわたしがいるのだという事実を確かめることができるから、わたしは決して瞼を閉じることはなく、温い熱を保っている唇にそうっと近づいて、互いの熱をほんのりと分け合う。
最初はとても軽く。吐息が互いにかかってくすぐったい。
まるで、小鳥がエサを啄ばむように小さく。草原の草が光る風にゆれて囁き合うように小さな音を立てながら、私の唇はデボルの唇に触れて、デボルの唇はわたしの唇を啄ばむ。小刻みに、確かに、二つの良く似た感触を分け合う。ささやかな吐息が繰り返し触れて、わたしはデボルの頬を撫でる。オルゴールの音色みたいに淡い音が唇の端から漏れると、デボルの指先はわたしの耳朶を掻き分けて後頭部に回される。
何かを求めるように。互いに、見えないものを掴もうとするように。それは、等しく同時に緩やかに行われる一つの儀式のようだった。
わたしがソファに腰を下ろすのと、デボルがわたしの唇を舐めるのも、同時だった。ちゅるり、小さな水の音。くち、濡れて粘るような音。緩い粘膜の感触が唇に触れるからわたしは応じるように熱っぽい舌先を絡めてしまう。デボルの、細い指先がどこか急くようにわたしの後頭部をはっきりと掴んで、けれどもとても優しくわたしの髪の毛に触れる。だからわたしもデボルのほんのり染まってきた頬をするすると撫でて、形良い顎に指先を這わせる。熱と熱、吐息と吐息が混ざって、もどかしさと共にお互いに角度を変えて、儀式を繰り返す。
布が少しこすれあう音。
肌と肌が触れる音。
不規則な、熱っぽい呼吸音。控え目だけれどもせわしない水の音。繰り返される、名を囁く代わりの行為。
わたしは唇を重ねて舌を絡めて吸う度にデボル、と囁く。
荒い息。デボルはわたしの口の中を舐めて唇を内側から吸って歯列をなぞる度にわたしの名を囁く。漏れる吐息と小さな水音にかき消されてしまう名の中に、はっきりとした熱を自覚するころ、わたしの指先はデボルの喉元をなぞって鎖骨付近を戒めている布の結び目を解き、外套を外してゆく。
わたしの後頭部をやさしげに撫でながら、デボルはもう片方のてのひらでわたしの肩をさらさらと愛撫する。そうするデボルの手のひらは、一枚の布を隔てていてもわかるくらいに熱っぽかった。だからきっと、一枚の布の下に隠された彼女の鎖骨をなぞるわたしの指先も、同じように熱っぽい。
そうしているうちに、なんとなく二人で同時に味わい尽くした唇を離す。唇と唇の間にすうっと伸びる銀の糸がたらりと落ちた。そして、お互いの眼を覗き込むとほんのりと上気した目元が映っている。
「デボル…ねえ」囁く。
「どうして、なんて言うなよ、ポポル」甘い溜息。
砂糖菓子というよりは果実酒の甘味が、互いの間にわだかまっている。その香りをかげばくらりと脳髄が刺激される。お互いに、言葉を紡ぐのもやっと、というように息がどこか弾んでいる。
けれども、甘味と酩酊のうちのそうした僅かなやりとりはいつものことだった。
わたしは頷いて、もう一度小さく滑らかな頬に唇を落とす。ふわりと薫るのは、甘くて味覚を刺激するような香り。デボルが嗜んでいる杏の酒のにおい。甘ったるくてかわいらしい香り。そう感じることに、少しの戸惑いは未だに覚えるけれども、そう感じる相手がデボルであることで私はその思惑を遮断した。デボルのにおいだ。思わずこくりと喉を鳴らしてしまう。唇を離してから、またわたしはわたしとそっくりな顔をじっと見詰める。
「言わないわ」
わたしが囁くように言えば、デボルは満足したかのようにわたしの素肌に触れてくる。熱っぽい指先、少し汗ばんだてのひら。さらさらととても細やかな砂のような繊細な感触で、デボルはわたしの肌にゆっくりと、触れてくる。触れたところから感じる体温に少し意識を委ねながら、わたしは唇を曝け出した鎖骨に伸ばして、唇だけで触れることを、繰り返す。
「ん、ポポル……」
とてもとても甘い声は可愛らしく音を奏でる。その甘さを含んだ声をもっとわたしは聞きたくて触れる箇所をゆっくりと下降させる。てのひらを、細い腰へとおろしてゆく。「ぅん」デボルの身体が少し、揺れる。声が切なげになっている。
わたしはそのまま唇をあたたかなふくらみへと伝わせてゆく、時々悪戯するように舌先で触れると、その都度デボルは甘く小さく囁いた。そんな風にして、布の上から、口付けを繰り返す。背後にまわした指先で背中をそうっと撫でてる。
デボルの熱っぽい指先はわたしの肩から二の腕へと移動していて、肌蹴ている内側から優しげな愛撫を繰り返す。お互いに、お互いの熱をまるで交換しているような感覚。そういった感じ方は身体の芯につくつくと根付く熱をふわりと花開かせる為には大事なことなのだ。
「デボル、……少し熱いのね」
「んー…ぁあ…」
剥き出しになっているふくらみに唇で触れることを繰り返しながらそこに向かって囁くと、頭の上から言葉とも呻き声ともつかないようなはっきりしないデボルの答えが降ってきた。「…ポポルも、少し…熱っぽい」くすっと小さく笑う声がして、彼女の指先はわたしの二の腕から脇の下へと入り込んでいた。「きゃっ、デボル…!」ぞくりと走り抜けるくすぐったい感覚に、今度は抗議の意味も含めて彼女を睨み上げると、相変わらずいたずら小僧みたいな笑顔でデボルは笑っている。
「そういう顔をするなよ、ポポル」続く声も弾んでいるから、やっぱり楽しんでいるのだ。だからわたしは仕返しとばかりに、背中に回していた指先で布越しに背筋を下からなぞりあげた。
「…ぁっ、ポポ…」
抗議する声はけれども途切れて、白い喉元が仰け反る。わたしは胸元を啄ばんでいた唇を一度離すと、くいと突き出された喉元目掛けて舐め上げた。「ひぃぁっ!くすぐった…!」そのまま、喉の周りや鎖骨に唇を落として、吸う。うなじまで到達した指先も首筋にあてがい、ゆるやかに撫でてゆく。首筋から、顎のラインを辿って耳朶の裏を指と爪ですうっと触れる。唇で鎖骨の中央部分を音を立てるように吸うと、ほんのりと色づきが白い素肌に落ちた。デボルの手のひらはわたしの二の腕や肩のあたりを彷徨っていたのだけれども、わたしが唇を離した瞬間に、今度は脇から胸元へと滑り込んで来た。
「ゃ…!」
「仕返し、だ…」
意地悪な囁きときらりと光った目元にわたしが一瞬射竦められている隙に、デボルは布と肌の隙間に指先を侵入させて、直接わたしの乳房に触れていた。指先だけで、ゆっくりと、明確な意図を持って、デボルは触れてくる。
「あ…デボ…」
「熱い、汗、少し、かいてるな…ふふ、柔らかい…」
デボルは指先だけで、乳房の上の部分ばかりやわやわと触れる。けれども、その繊細な刺激だけでわたしの身体の芯の熱は反応してしまう。熱はゆるやかに上昇して、肌の内側から膨張してくる。
とくとくと規則的な内側からの熱の胎動は、特に意味もなく人間を模倣して作られた身体の一部を侵食して熱に変えて、思考を苛んでくる。
意味などはない。意味はない、けれどもわたしはもっとデボルに触れてほしい。
もっとデボルに触れたい。触れて、熱を感じていたい。
ずっとこうして、ゆっくりと互いの熱を舐めて貪りたい。
その、結局なにが理由かわからないものに流されてわたしはデボルの衣服に手をかけた。胸元を半分以上覆う衣服を、素早く背中に回した両手の指先でもって少しばかり悪戯に引き下げた。「ポポル……」乳房を半分ほど覆う布は、ふくらみの頂の一歩手前で留まる。布越しに淡く形を露にする果実を認識しているのはお互いで、デボルの声は切れ切れに中途半端なわたしの行動を責めているように聞こえたから、わたしは舌で鎖骨から乳房をゆっくりと音を立てて舐めるように移動させた。柔らかくて温かな乳房の、少しだけ張りの違う薄く色づく箇所に舌先を止めて、小さく口付けをする。
「ぁっ、…そ、…ん!」
デボルの囁きがいっそう甘くなった。背中への緩やかな愛撫と、胸元への口付けにデボルの腰が少しばかり浮ついた動きをしている。ふと目線を上げれば柳眉が顰められて、目元はほんのり染まり双眸は潤みきっている。わたしと同じわたしのものではない表情に、わたしの鼓動が早まる。だから、わたしはてのひらで木目細かな肌を玩びながら、舌先では少しばかり感触の違う色付きを執拗に刺激し続けた。
「ポポ、ル…ぁ、ふぁ…!」
じれったい刺激にデボルがむずむずと私の腕の中で体を動かしながらも、私の乳房を下から手のひらで包み込んで、五指を使って控え目に揉んでいる。
「んっ、…いいわよ…デボル…もっと、もっと、ね…?」
「ちがっ…!」ちゅ、っと小さく唇で乳房の肌に口付けをすると、何かを否定するようにデボルは少しばかり声を荒げた。「なぁに?」意地悪く問いながら背筋をつうっと指先でなぞる。するとすっかり拗ねたような顔をしているデボルが口をへの字に曲げて、乳房を揉む指先に力を込めだした。衣服の下にもぐりこんだデボルの指先は躊躇がない。人差し指と中指が、少しばかり凝り固まった頂へと、触れてきた。
「あんっ!」
「ほら、もう、固くなってるな…」
そのまま二本の指先が、頂を弄ったりその周囲にぐるぐると触れたりして、私自身の熱もどんどんと飽和してきていた。いろいろなものがどんどんと曖昧になって、一つの感覚に集束してゆく。気持ちいい。そう、何も考えなくていい。いろいろなこと、村のこと、レプリカント、わたしたち、機関、目的、マモノ、脈々と息衝き長い時を経て集束に向かう世界のこと、常にわたしの中に在ってデボルの中にも在って考えていなければならないことも、どうでもよかった。彼女にこうして与えられる快楽、わたしがこうして彼女にあたえる快楽、それは多分やはり、ひつようなこと。
デボルの指先が、もぞりと動く。爪先が乳首の頂に埋め込まれる。「ぁあんっ、ん!」そこから甘い感覚が一瞬にして広がり、喉から鼻に空気が抜けるように快楽が私に襲い掛かってきた。思わず顔を仰け反らせ、呻くように声が漏れる。仰け反った喉に生温いものが僅かに触れて、くすくすと小さな笑いが耳に届く。
「かわいいな、ポポルは」
悪戯な笑み。愉しんでいる。先を越された悔しさに、私は彼女を見ることもしないで、背中に廻していたてのひらをすっと腰のあたりに移動さえて布越しに細まったくびれを掴んだ。そのまま、指の腹でやわらかく上へ、下へとなぞることを繰り返す。
「ちょ、あ、」
切れ切れの声を上げながらデボルはそれでも私の胸への愛撫をやめない。
「ふぅ…んっ…!」
自分の口から時折漏れてしまう甘い声にうんざりしながらも、両手で腰を愛撫しているてのひらを徐々に太ももの方へと、ちらちらと垣間見えている素肌へと向けた。外套をすっかりと外してしまったデボルの腰元を戒めている紐をすっと引く。わたしが何を目的にしているかわからないデボルではないのだけれど、彼女は抗議するでなく、ただふっと小さく笑みを浮かべてわたしの外套を外した。それでも熱っぽくなった身体は熱くて、わたしの手もどこか急くように動く。
甘く深い口付けが欲しくなったわたしは、手を動かしながらも唐突にデボルの唇に食いついた。応じる唇はやはり熱っぽくて、先ほどよりももっと濃厚で、貪るように熱を交わす。くちゅくちゅと水音が漏れる。わたしの唾液をデボルの中に垂らして、かわりにデボルのトロリとした唾液を受け取って、お互いの口の中で絡めて、熱っぽくなった舌先を互いに絡めて、奪い合うように舐め取る。まるで獣のような荒い息遣いの口付けを交わしながら、ふるりと外気の冷たさを上半身に感じた。わたしの上半身は今やすっかりデボルの手によって暴かれて、逆にデボルの白くて艶かしい太ももは膝の部分まであらわになっている。
「ふふっ…あいかわらず、綺麗だなぁ…」
蕩けた表情のまま、デボルは私の乳首にちゅっと口付けをした。甘くて疼く刺激がぞくりと乳房からまた奔る。ふるりと胸が震えて、デボルは愉しそうに笑った。わたしは腰にすえてあったてのひらをそのまま太ももへと移動させて、緩やかに肉のついた白い肌をゆっくりと愛撫する。外側から内側へ、内側を丹念に愛撫しているとデボルは鼻先から甘い声を漏らした。
「ぁ…」
もどかしげに、太ももが動かされる。
「もう少し、まだよ」
デボルの顔はもうすっかり蕩けていて、物欲げに半ば開かれた唇の端からは、口付けの名残の唾液がたらりと垂れている。ひどく可愛らしくて、とても淫靡な、わたしと同じ顔。きっとわたしも同じような顔をしてじっとデボルを見ている。汗でしっとりとした太ももはまるでてのひらに吸い付いてくるような感触だった。やがて内側に、もっと熱っぽくなっているその足の付け根ぎりぎりのところに人差し指を這わせると、デボルの体がびくんとあからさまに動く。
「デボル…?」
煽るように、少し微笑んで彼女を見ると、切なげに表情を歪めた顔の、細められた空色の眼差しを覆う瞼がふるりと震えた。声にならない声が唇の端から漏れる。
「ポ…ポ、ル……」
名を呼ばれて、疼く熱が背筋をぞくぞくと這い上がる感覚が心地いい。下腹部、もっと奥がじくじくと痛みに似た熱を憶えている。
欲しい。ただ、欲しい、とだけ私は思っていた。彼女が、目の前にいる自分の片割れ、良く似ている同じではないけれども殆ど同じ存在。触れている指先だってじんじんと痺れるみたいに熱で疼いている。本当は触れたくて触れたくて性急になっているのはわたしで、けれどもなんとなくあっさりとそうするのは勿体ないような気がしているからしないだけ。それに、彼女はこうして焦らすととても可愛らしい反応を見せてくれるから、わたしはいつだって彼女をこうして焦らして愉しんでいるのだ。けれど、なんだか今回は勝手が違う。やはり余計なことを、考えすぎているからかもしれない。
じっと彼女を見詰めたまま、内股に指先を這わせたまま動かないわたしをせかすように、デボルは甘い溜息と共に剥き出しになっているわたしの乳房にまた舌を這わせてきた。
「あ、いい…いいわ…そう…」
甘やかな疼きと飽和する熱と快楽が再びわたしの中で勢いを取り戻すから、わたしも負けじと未だ下着に覆われているデボルのそこに――しっとりとした熱を持つ彼女の秘められた場所へと指先を這わせた。
「うぁっ、ポ、ポポル…!」
甘えるような、どこか責めるような口調だけれども、本当は彼女はわたしの行動を嫌がっているわけじゃない。そんなことはわかっているから、睨みつけるような視線を視界の端に収めつつ、下着越しにもハッキリと濡れそぼったそこを指の腹で撫でるように刺激してやった。
「ん、や…あ…ぁ……」
くねくねとゆるやかな動きをするデボルの太ももに、屈む体勢になって小さな口付けを落としながら、熱っぽくて湿った感触をたっぷりに愉しむ。鼻先をくすぐる汗と、熱と、浅ましい欲望の臭いにこめかみがくらくらした。「ポポル、ポ…あっ!」わたしのむきだしの背中にあてがわれたデボルのてのひらも汗ばんで、どこか縋るように掴まれると爪がきゅっと肌に食い込む。わたしは、下着越しにぷっくりと存在を主張している肉芯を爪弾く。「ぁああんっ!そこっ…!」いっそう甘くて鋭い声がデボルの唇からほとばしる。人差し指でそのままこねるように刺激すると、デボルは堪え切れないという風に身体をくねらせて、もっと快楽をと強請るように甘やかな艶声を漏らす。わたしの視界で、デボルの張りの良い乳房が不規則に揺れている――彼女の無秩序な体の動きに、豊かな乳房も桜貝みたいな乳首も露になっていて、わたしの中の熱をいっそう煽る。下腹部にわだかまったままの熱が、じんじんと脳髄を侵してゆく。欲しかった。もう、我慢はできなかった。
わたしは改めてデボルの身体をソファの背に預けるようにして、寛げた袴をすっかりと取り払い、脚を開くような姿勢で座らせた―片足はソファにあげて、もう片方は膝から下をソファの外に投げ出すように。わたしに、彼女のすべてが見えるように。「ポポル…も…ゃ…」恥ずかしそうに唇を尖らせ、指先を咥えながら少しばかり俯くデボルは本当に愛らしい。愛らしい、もっとそういう彼女の表情が見たい。次々に思いつく考えはすべてデボルに直結していて、とてもわかりやすい。
「かわいい、…かわいいわよ、デボル」
だからわたしは自分が思ったとおりのことを呟き、彼女の肢体を被う最後の一枚を取り払うべく、手をかけた。
「ぅん……はぁぁ…っ」
片手ではたっぷりの乳房を愛撫したり、乳首に口付けを落としたりしながら、下着を脱がせる。デボルはわたしの行動を阻むわけでもなく、素直に脚をあげ、下着を脱いだ。
「うふふ、たっぷり濡れているわね…イイ、匂い…」
うっとりと、ぬれそぼる秘所に、口付ける。
「ぁはっ!」
跳ねる声と身体。じわり、と奥から溢れてくる熱い愛液を舌ですくいながら、唇と、舌先を使って花びらを一つ一つほぐす様に丁寧に愛撫してゆく。
卑猥な水音がひっきりなしに届く。
「やん、あん、ぁん!」
同じようにひっきりなしに届く、デボルの可愛らしい甘ったるい声。わたしは、彼女の太ももや柔らかな尻を指先で掴み、やわらかな愛撫を加えながらも、淫らに濡れそぼってわたしを誘う蜜壷へと繰り返し刺激を加えた。
音を立ててたっぷりの愛液を吸い尽くしても、どんどんとソレは奥から溢れてくる。
「あぁっんん!ソコっ!」
一際熱をもつ陰核を唇でついばんで、舌先でちろちろと嬲ってやると、たまらない、という風にデボルがふるりと身体を震わせて鳴いた。直接触れた肉芽はとても熱くてしこっていて、唇や舌だけでは飽き足らなくなったわたしはいよいよ小さく歯を立てる。
「ひゃああああんっ!」
デボルの身体が、今までになく跳ねて、快楽から逃れようとする。それでも、わたしはデボルの臀部をしっかりと拘束して離さなかった。なおも熱を帯びてきた肉豆から歯を離して、改めてねっとりと舌で舐る。
「ぁあんん!イイッ…あ、…も…ぁああ!」
「まだ、だめ」
ぷちゅ、淫らな音を立ててデボルの膣内から溢れてくる、トロリとした愛液を舐め取る。そのまま、肉芽から唇を離して、今度はすっかり解けてトロトロになった花弁の内側へと、舌先を向けた。鼻先にはデボルの濃密な匂いだけ。ぐらぐらと視界が揺れる。わたしのここも、きっと、同じようにドロドロになっている。じくじくと疼く熱は今更だった。自ずとデボルの柔肌をねぶっていた左手を自分の秘所へと運び、デボルと揃いの衣装を性急に剥ぎ取る。下着を脱ぐ暇すらも惜しくて隙間から指をすべりこませ、案の定たっぷりに濡れて熱にじくじくする秘所にくいっと指を這わせた。「んっ…」舌先は、デボルの膣中をぐちゃぐちゃと無造作に掻き分ける。熱くて蕩けそうで、ひくひくと痙攣して、わたしはたっぷりの甘い蜜を全部吸い尽くそうとする貪欲な蝶のように、彼女の膣内を舌先で蹂躙した。その度にひどく淫らな音が耳に届く。
「あぁんっ、んんっ、ひっ、あっ、ポッ、ポル…っ、ぁあ!」
デボルの甘ったるい声、舌と唇にまとわり付くべったりとした熱っぽい愛液、わだかまり続けている熱。
「ひぁあっ、あっ、んっ!」
中も外も浅ましく蠢いて、わたしを誘うデボル。くちゅくちゅと指と舌を動かして、わたしはわたしとデボルの内側を蹂躙する。
「デボル…とても甘くて…美味しい…」
じゅる、とはしたない音を立てながら彼女の内側から愛液を吸って、いったん唇を離す。
堪え切れなかったのか、自ら乳首を刺激していたデボルの表情は、すっかりと蕩けて淫らで、綺麗でかわいらしい。じっと見詰める私の意図を察したのか、デボルはこくりと頷いて、わたしを迎えるために体勢を変えた。ソファの背もたれに手をかけて、デボルに覆いかぶさるように移動する。すっかりと上向きになったデボルの乳房と、膝を立てながら彼女に覆いかぶさった私の乳首が軽く触れ合うだけでずきりと快楽が奔る。「あ、…んんっ…」どちらのものとも付かない、とても良く似た声が同時にあがった。
どちらともなく、乳房を動かして、火照って堅くなった乳首同士が触れ合うと、もっと鋭くずきりとした快楽が下腹部から奔る。
「いぁ…ああ…」
もっと、このやわらかな刺激を愉しんでもよかったのだけれど、わたしもデボルもどちらも、ほんとうに限界だった。デボルの脚に跨るようにして、デボルの秘所とわたしの秘所が重なり合う体勢をつくる。わたしの右手はデボルの左足を掴んだままで、デボルの両腕は私の肩にまわされている。じっと、お互いがお互いだけを熱っぽく潤んだ瞳で見詰めていた。
「ポポル……」
熱っぽく、デボルがささやく。改めて、断るまでもない、何度も繰り返している行為なのに、そうしてじっと見詰められて緩やかに笑みを作られると、どこかで断らなければわるいような気になり「デボル、いい…?」どこか舌足らずに、わたしは問う。デボルは、こくりと頷いた。
「ぁあ……」
どちらから漏れたものかやはりわからない溜息。ねっとりとした熱と熱、蕩けきってひくつく秘所と秘所が重なり、ぬるぬるとした感触が混ざり合って、わたしはデボルと、デボルはわたしとまるでひとつになったよう。
「んん…あぁ…あ……ポポル……ポポルッ…!」
「デボル、っ……デボル…!」
互いに甘くて切羽詰った声で名を呼んで、腰を滑らせると重なった秘所からはとめどなく熱い愛液が溢れてくる。デボルの、わたしの、重なった肉襞がしこり立った肉芽を掠めて、ひどくもどかしくて切ない快楽の海の中電流のように鋭いものが時折奔る。
「ぁああんっ!」
その都度、嬌声が上がって身体が竦む。腰を互いに無秩序に動かしながら、乳房を揺らしながら、お互いの肌を貪りながら、お互いのことしか考えられなくなりながら、ふわふわと漂うような意識はやがてもっともっと上へと、共に昇ろうと必死に秘所をこすり合わせ、その都度淫靡な水音を響かせながら欲を求めて、声をあげて、よがり狂う。
「もっとっ、あっ、デボルッ、もっ、っとっ、あぁあっ!」
「ポポル…あぁ、ソコッ、…もっと近くっ…!」
デボルの口から漏れる甘すぎる声にわたしの中で何かが弾けた。目の前で揺れる乳房に、唐突にむしゃぶりつく。
「やんっ、あっ!」
乱暴に唇を、舌を這わせて、充血して敏感になっている乳首に唐突に思い切り、歯を立ててやった。
「ぁああんっ、乳首、ぁ、ダメッ!」
電流が走ったみたいに身体を痙攣させたデボルは、貪欲に腰を動かしてくる。ドロドロに解けて融和した快楽の中、熱の芯と芯がこすれた。
「ひぁっ、あぁあああっ!」
上半身を仰け反らせるけれども、わたしはデボルの乳首から唇を離さなかった。口の中で転がす熱の蕾は熱くて、甘くて、いとおしい。
「あっ、あっ、あっ、ぁ!はっ、ぅ…ぁ!」
息も絶え絶え、というように、快楽に顔を歪めて涙すら浮かべているデボルも、デボルの熱に浮かされて鼓動が早まって夢中になって彼女をむさぼっている私も、共に限界が近かった。顔をあげて、再び秘所が触れ合う体勢をつくり、互いにそこを押し付けあうように動く。
「デボっ、ル……デボル……あっ、あっ、…んっ」
腰を前後左右に動かして、秘所同士をこすり合わせる。くちゅくちゅと音が漏れる。だるい刺激、ゆるやかな熱、お互いに重なりあり、解け合う感覚。
「ポポ、ル…もっと…ポポル……ポポル…ッ!」
デボルも切なげに腰をくねらせ、快楽に潤んだ瞳をわたしに向ける。
ゆるやかに、ゆるやかに…お互いがお互いしか感じない、そう、ここにはわたしとデボルだけ。世界には、わたしとデボルだけ――熱と、飽和した思考と、快楽と、ゆるやかなつながりと、潤んだ空色の瞳、にっこりとお互いに微笑み合い、交じり合う瞬間。部屋の景色も、ものの輪郭も、なにもかもが曖昧になる。快楽の熱に浮かされた頭から導き出される視界は、何枚ものガラスを重ねたようにぼやけていて、はっきりとしなくて、そんな中でデボルが快楽を貪るように不規則に体を揺らす様だけが、くっきりと、はっきりと、浮かび上がる。濡れた瞳はわたしをじっと見ている。
「ぁあああああぁああんっ」
「んんんっーぁああっ、あぁあああーっ!」
二つの甘やかな声は、揃って遥か彼方へと到達した。
とろとろに濡れたお互いの眼差しを絡めていると、やはりわたしたちは双子なのだ、と思う。理由などは、今は考えなかった。デボルはここにいるし、わたしはここにいる。お互いがお互いを感じることは、やっぱり必要なのだ。必要だと思うことに、理由はいらない。
「ねぇ、ポポル。あたしたちはさ…こうして、身体はある。何かを感じることもある。ポポルがどうしても欲しいと思う。けれど…」
そこまで、というようにわたしはデボルの唇に人差し指をあてがう。どこか不満げに、至近距離で唇を尖らせるデボルにわたしは目を瞑って首を左右に振って見せた。
「だってそれがわたしたちだもの。わたしたちの役目は、決まっているのだもの。いいじゃない、それだけでも」
あえて、言葉にしなくとも、デボルが何をいいたいのかくらいは知っているから。小さく耳元で囁いて、軽く耳朶に口付けをする。くすぐったそうにデボルは笑って「かなわないなぁ」と溜息混じりに呟いて、わたしの髪の毛をくしゃっと混ぜる。
魂がないなんて、そんなのはきっと嘘。デボルは何度も何度もそんなことをわたしに言う。本当のところは、わたしにだってわからない。けれど、もともとはなかったものが長いときを経て宿るということは、全くないわけではないという知識はわたしの中に在る。だから、たぶん、デボルが言うことは間違えてはいない。
密着した体勢で至近距離。それでも考え事をしているわたしに気遣って、デボルはわたしの髪をやさしく梳くだけで何も言わない。
「でも、わたしはあなたがいてくれて、よかったと思っている。だって、こんな世界、一人で生きてゆくには」
今度は、デボルが私の言葉を遮った。やわらかくて、あたたかくて、わたしがこの世界で一番馴染んでいる感覚。ただ、重ねられるだけの口づけ。
一人でいきてゆくには、きっと、寂しすぎるね。
デボルは微笑んで、わたしの髪の毛をいとおしげに撫でながら、小首を傾げて囁いた。
だからわたしたちは双子につくられた。
魂のない双子は、けれど、だからこそ存在しないものを求めるように、きっと、互いを求めるのだ。