重油の染み付いた黒い土はどんなに耕しても、どんなに種を蒔いても、作物を成長させてはくれなかった。根こそぎW石を採掘しきった鉱山に、価値などは無い。それが、この国フェンデルの大W石による恩恵であると知ったのは、カーツが十になった時だった。
フェンデル南部は北部に比べて雪こそ少ないものの、元々土地は痩せていた。代わりに豊富だった地下資源――火のW石の存在があればこそ、かつてこのベラニックという街は有数の鉱山を擁する鉱山地帯だったのだ。
大W石の存在がして極寒の地となったフェンデルで火のW石は貴重な燃料であり、軍部でも多量のW石を必要としていた。その為、一時は鉱夫や商人、亀車で溢れかえったこのベラニックも、今では痩せた土地を抱え極々稀に見つかるW石を細々と燃料に回すのが関の山であった。そんな状態ではあったが、硬くて痩せた土を長年かけて開墾するよりも、僅かのW石の欠片を探す方が余程効率がよい。かつての賑わいの残滓のように聳える古い旅籠だけが、未だに唯一遠くからの旅人や商人らを歓迎するも、そうではない町の住人はひたすら地面を見ている。なかんずく腕に覚えの在る男ならばストラテイム狩りなどもするものだが、生憎と今ではそのような気概を持つ男は、皆祖国のためと嘯き出稼ぎに出るのだった。そうなれば残された女子供と老いたるは、W石の欠片のあるなしにその日の糧を託すしか手段がない。ウィンドル王国と国境を接する寒冷地の寂れたベラニックという町は、そういう場所だった。
さてそんな町に生を受けたカーツという少年であるが、土地を耕すでもなく鉱山に稼ぎにゆくでもないような、まして子供がすることなどせいぜい地面に時折落ちているW石の欠片探し、そんな事をするよりはと家にある書物を読みつくし、更には旅籠を手伝うという口実で客人の話を聞きせがむような子供であった。
そうして集めた知識から、少年は少年なりに一つの結論、或いは疑問を導き出していた。
フェンデル北部に鉱物資源が集中していること、ベラニックと首都ザヴェートとの間に聳える険しい山を越えると景色そのものが一変すること、白い粉雪の中にW石の欠片が混じっていること、氷海と言われる流氷に囲まれた湾内に存在する油田、旅人から聞いた、或いはかき集めた書物で知ったことは全て、一つの事を表している。
即ち、他二カ国に存在する大輝石――フェンデルにも存在するであろうそれは、恐らく、フェンデル北部首都ザヴェートの近郊に存在するのではないか、ということを。
大W石、原素を生み出す力の源。その恵みがなければ生き物は生きてゆくことはできない。大W石が原素を世界に巡らせ、そして動植物が生まれ人が生まれたという話は神話ではあったが常識でもある。旅人に聞けば南の隣国ウィンドルの風を生み水と森を育む大翠緑W石や、潤沢な水で熱砂の国土を潤すストラタの大蒼海石、その何れも生き物を――殊更に人を生かす為に大W石はなくてはならない存在だ。大W石なくして人の存在はなく、世界に文明が栄えることすらなかった。博識な旅人は子供向けの創世神話をそう締めくくった。
だが生憎と、この国の大W石の居場所だけは誰に聞いても芳しい言葉は返ってはこなかった。それは、カーツがたかだかこんな村の少年だからと見くびっての事ではない。
そもそも、その所在を隠す必要性を感じないし、言葉を濁しているという素振りも誰にも見受けられない――それこそこんな村の少年一人に嘘をついたところで、意味はない。
大W石が存在しないわけはなかった。神話の伝説が示す通り、そもそも、国が成り立ったのはそこに大W石が確かに存在していたからであり、そうでなければこの地に命が生まれそれらが生態系を構築し人々が社会を形成するわけがない。大W石が生み出す恩恵こそ国がそこにある理由であり、生き物が存在しているのであればそこには必ず所以たる大W石が存在しうる。だから人々は大W石に祈り、崇め、敬うのだ。それがそこに存在する限り、人は生きてゆける。存在しなければならない。
不可欠な存在だからこそ秘せられるのだという理屈もあるのだが、ストラタにせよウィンドルにせよその神々しき輝きを隠すという気はないらしい。ウィンドルに関してはそもそも大W石を中心として城下を形成し町をつくり発展した国だ。ストラタにしても、かつてはウィンドルと同様であったという話も耳にした。では、この国はどうなのか。
奪うことしか知らない祖国は、大W石ですら奪われると危惧し秘匿しているのだろうか。とすれば実に恥ずべき、情けないことではないか。そう言うと空腹を紛らわせる為にとカーツが差し出した果実酒を薄めた水の対価として大W石と国の由来を語った吟遊詩人は笑ったが、眉の奥に潜む密やかな光は、まだ幼さの残る痩せた頬や見上げる眼差しへとひたと向けられていたのだ。
ベラニックという町の存在とその理不尽さを、寂たる佇まいが如何にして出来上がったかということを、カーツは商人や旅人ら、そして遠征の帰途にある軍人らから聞き出し知っていた。
元々この町の寂とした空気を忌々しく思っている少年である、考えてもみろよ坊主、俺たちは国の名前を背負っている、そういう事を正義と信じてストラタの海賊と戦っても、迎えてくれる最初の門構えが腐って倒れかけた代物じゃ、一体全体俺たちは何をしてきたんだ、そういう気になったって仕方なかろう。宵の口に祖国の酒を引っ掛ける兵隊がいい気になり子供に漏らした本音に、少年はいちいち頷き真剣に聞き入っていた。
だったら総統様に伝えておくれよ、土台この村の土は枯れてるし、W石なんて欠片も残っちゃあいない。軍隊に行かなかった男どもはストラテイムを追いかけて手足を失くす。ストラタ海賊をいくら捕えて船を奪ったって、あたしらの食卓にウィンドル野菜が出てくるなんてことはないんだ。不満げに鼻を鳴らしながらも、旅籠の女将は帰還兵には倉庫に熟成させておいた上物の干し肉にたっぷりの香辛料を付け込んだものを出すし必ず酒樽を開けてやる。この国にとって軍人は手足であり、手足は獲物即ち他国からの略奪――W石すら稀少なフェンデルという国が自活する見込みは殆どなく、唯一の資源たる地下資源を切り売りしたところで十分な麦を確保も保管も出来ないのが現状だ――奪うための手段に他ならない。なれば、こうして出来る限りのもてなしをしてやらねばならない。それはこの村唯一の旅籠であり収入源たりえる「財産」の持ち主という自負と、そこから来る最低限の見栄、そして軍部相手にW石や食料の横流しを暗に強請るという、彼女なりに編み出した知恵から来る行動だ。
そういう女将はけれど身寄りがなくなったカーツを引き取り育ててくれているし、軍人や旅人と言葉を交わすことは楽しかった。少なくとも、村の老人達の世話をしながら彼らの愚痴を聞くより、余程有意義だ。
けれどそういった村以外の人間と交われば交わるほどに、カーツの中での鬱屈と疑問、そして空洞は育ち行く。こんな所に居るべきなのか。こうして、貧しさという泥濘に身を浸したまま、緩やかに思考を締め付けられながらやがて逼塞してゆくことが、本当に正しいのか。
知識を得るのは楽しい、だから好きなのだ。どんどんと自分の中にそれが蓄積される。自分のものになる、そういうことはひどく少年を興奮させた。けれどそのお陰で、今自分がいるべき場所はわからなくなる。自分がしていることの虚しさが時折寒い夜の闇にまぎれて怪物のように膨れ上がり、増徴した不安と共に少年に襲い掛かってくる。それを防ぐ手立ては生憎とカーツにはなくて、闇雲に逃げた所で結局は捕えられて叫ぶ声で夜中に目が覚めるのだ。冬場はすっかりと音を失うベラニックの夜に、がばと上半身を起こして嫌な汗がじっとりと全身に滴っているという事は両手で数えてもまだ足りない。
その夜毎うなされる悪夢の、不安の理由を、聡明な少年は知っていた。この村だ。この、貧しさにのみ支配されている、みすぼらしい故郷そのものだ。
カーツは村で一番頭の良い少年だった。
もっとも、この侘しい村に学校などというものはない。子供は一定の年齢になれば働き手となり家計を助けなければ、この村で生きてゆくことは出来ないのだ。体力に恵まれている子供ならば必ず帝都ザヴェートを目指す。年に何度か、深緑色の軍服を着た集団が村を訪れ、彼らの帰還と共に村からは何人かの少年少女の姿が消えた。軍に行けばまずは給金を貰える、食うに困るということはないし、よしんば適正がなくとも帝都付近の工場で働ける。寒さに強いごく一部の作物以外には麦も米も実らないような痩せた土地で、作業量に見合わぬ細い収穫を対価として痩せ細った身体を酷使するよりは。そういう想いは何も子供達のものだけではない。この貧しい村に残っているのは幼子と老人だけだった。
そんな場所ではいつか自分は窒息して死んでしまうだろう。物心ついたときからカーツはそう信じていた。父親はストラテイム狩り専門の猟師だったが、カーツが五つの時、数頭のストラテイムに襲われて死んだ。母はその時から寝たきりで、何度も父の名を呼びながらカーツをまるで赤の他人のような目で見つめながらやせ細り、その三年後に消え入るように亡くなった。兄弟もいなければ身よりもなかった少年を引き取ったのは、村で一番大きな建物――旅籠の女将だった。
貧しい村で唯一金の音がする旅籠は、軍のウィンドル遠征の際などに使われたりもするからそれなりに実入りはあったようだった。そしてカーツが引き取られた理由は単純に「働き手」として、である。
ザヴェート軍人と接する機会も多く、旅人の話も良く耳に入る。あくせくと働かなければ女将の張り手が飛ぶのだが、黙々と言われたことをこなすカーツにその制裁は一度も下されることはなかった。幽かな元素しか存在しないW石から見事に火を熾したり、軍人共の財布の紐を緩ませて旅籠を潤すことにかけてはこと天下一品で、一つ季節を巡る頃にはすっかりと女将のお気に入りだった。
が、その頃にはカーツはさらに確信を深めていた。この村に逼塞していても、何も変わらないのだと。そして、軍人や旅人から聞く首都ザヴェートという場所にこそ、自分を生かせる場所がある。
そうしてベラニックのかさついた土が雪の下から漸く顔を覗かせる頃。いつもの軍服姿と亀車がベラニックを訪れ、カーツは旅立ちを決めた。
「フェンデルの男はW術銃を扱えるようになれば一人前さ。いっつも北ばっかり見てる、特にあんたはそうだった。あんたがいなくなるのは痛手だけど、どうにもならないわけじゃない。男の出世を阻むほど、野暮じゃないからね」女将は疲れた顔にめいっぱいの笑顔をたたえ、カーツを抱擁した。ぬくもりを感じられなくなった母よりも、寡黙で子供を省みようともせず一人で死んだ父よりも、短くともカーツに住む場所と食べ物を与えてくれたこの女将こそが、余程自分の親のように思えた瞬間だった。
亀車はトータスの力強さと独自のW術が在って初めて運用可能な乗り物だ。
少なくとも、旅人はこの峻険な山並みを越えるには一年のうちの三ヶ月しかない夏を待たねば不可能だった。山の険しさもさることながら、足元から吹き上げる吹雪は視界をまるきり閉ざし歩行を阻むのだ。軍人は軍事用に訓練を施したトータスを先頭に隊伍を組み、この山を越えるのだと言う男はフレック伍長と名乗った。
亀車の中にはカーツとフレック伍長の二人だけだった。トータスのどっしりとした歩行に合わせて亀車が揺れ、ところどころ軋む音がする。「この時期の雪は真冬よりも重いから山越えは難儀でな、雪崩に巻き込まれちまったら帝都に着く前におだぶつだ。だから皆、この時期は避けるのさ」伍長は言いながら、カーツに担いでいたW術銃を差し出した。「どうだ、持ってみたいか」旅籠で銃剣の仕組みに興味を持っていたことを、覚えていたらしい。雪焼けした肌に人好きのする笑顔を浮かべていた。とてもではないが「人買い」の顔ではないように思えたが、自分が亀車にこうして揺られている代償に、旅籠の女将は重たい麻袋を受け取っていた。自ら志願したのだから、売られたわけではない。そうは思っても、自分は一握の金銭と引き換えにされたのだ。それは、事実だった。女将の笑顔を疑うわけではないし、言葉を否定する気もない。貧しいということの意味するところを、カーツは知っていた。そして、少なくともあの村にいる限りは、自分もまたその貧しさと餓えと死の構造に組み込まれ、やがて死ぬだろう。そこに、何ら魅力的な未来の確固たる実像を、少年は描けなかった。
だが、差し出されたこのW術銃はどうだ。ザヴェートの工場で生産され、W術を組み込むことで弾の飛距離を圧倒的に伸ばした「新型」は重々しく鈍い光でカーツを魅了していた。銃身に嵌めこまれた火の原素からなるW石装置は、W術の心得がない兵でも簡易に扱えるようにグリップの引き金と連動して発動するようになっている。刃の部分にせよ濡れたように輝く鋼を加工し、女性兵が扱うことも想定しているらしく実際に持ってみると拍子抜けするほどに軽かった。
「すごい、こんなにまでも火の原素を引き出す装置が、あるんですね」
漸くまともに口をついて出た言葉が、それだった。フレック伍長は厳つい眉の下にひっそり存在する碧眼を丸くして少年を見つめている。けれどカーツの言葉は止まらなかった。「そうか、火と水のW石を組み合わせ力のバランスを拮抗させることで、瞬間的に貫通弾並みの威力を発揮するんだ。けど、それを応用して回路に組み込むことが出来るなんて……理論上は可能でも、実際には何度やったって駄目だったのに」そうしてきらきらと輝く目を向ければ、伍長はいよいよ呻くような声で口髭を揺らした。たかだか十の子供に、一ヶ月前支給された「新型」の構造を見抜かれたという信じがたい状況なのだ。けれど彼は次の瞬間には笑みを浮かべていた。とんだ拾い物だ。時に表情は言葉より雄弁だ。軍人の会心の笑みを認めて、今度こそカーツは表情の薄い顔に、微笑を見せた。
亀車に揺られて三日目。一定間隔の揺れが収まるや、フレック伍長が「着いたぞ」と中腰で立ち上がる。ごう、という音と共に風雪が亀車の中に舞い込んで来る。窮屈な車内の中でそれでもぶらぶらと脚を動かし、山を越え麓に差し掛かった昨日は雪の中で簡易テントの設営までしていたから脚は動く。「軍人になるなら、これも訓練のうちだと思え」雪上での行軍或いは戦闘を想定するのは、このフェンデルでは当たり前の事だった。
暗い車内に差し込んでくる白い雪とつめたい風、蒸気音、鉄と嗅いだ事もないねっとりとした臭いにまぎれ、潮の匂いもする。ここはもう、貧しいあのベラニックの村ではないことを確認するように、カーツは顔だけを入り口からまず、覗かせた。とたんに耳を叩くような蒸気音と鉄のぶつかり合う音。鉄と重油、蒸気に彩られた灰色の街ザヴェート。カーツが初めて認識したフェンデル首都は、蒸気と鉄が喧嘩するかのように互いに鳴り響き不協和音を奏でる騒がしさだった。
眩暈がする。そう、感覚しているだけではなく実際にくらくらと目が回っていた。それでも颯爽と先を行くフレック伍長とはぐれてしまっては、自分に行き場などはないのだ。土の色が全く見えないほどに敷き詰められた石畳、そこに杭のように突き刺さり道を形成している鉄のパイプ、隙間なく灰色の地面から生えている同じ色のくすんだ建物は、住居なのだろうか。それにしては故郷ベラニックのそれよりも生活感は感じられない。建物も地面も何もかもがうっすらと雪化粧していても、白は黒と重力に押しつぶされて全体的に灰色に街は沈んでいるように見えた。故郷クとは装いは大分違う、ここの景色は、とても重たい。
それが、鉄の匂いに混じる油の臭いのせいなのだとカーツが気付いたのは、工場区画と書かれた看板の先に転がる大きな缶とその周囲に散らばる黒色タール状のものを目にしたからだった。ベラニックでは貴重品で、手に入れるにはストラテイムの角が三つほど必要だった。それが無造作にああして在るというだけでも、この場所がフェンデルの中心であるという実感を覚え、カーツは我知らず身震いをしていた。
いいか、兵隊と一口に言ったって色々ある。とはいっても、お前みたいな子供に選ぶ権利も選べる知識もない。だから、俺達先達がいわゆる適性検査っていうのをやる。簡単な試験だ、フェンデル軍の人間は皆受けている。そいつで、軍部での凡その将来が決まるって寸法だ。何、そう構えるこたぁない。偉大なる総統様のお力添えをしたいと願う少年兵には、十分な寝床も食い物も、工場勤めよりもよっぽど沢山の銀も宛がわれるんだ。お前くらいの年頃の子供だって大勢いる。
何でかって?そいつに関してはお前の方が良く知ってるだろう。ああ、そうだ、貧乏人は兵隊になるしかない。この国は戦をしなきゃ生きてはいけない国だ。そうじゃなけりゃ飢えて死ぬか凍えて死ぬか。どっちにしたってその先にあるのはドン詰まりの人生さ。ああ、そら、あれが政府塔だ。始めて見るだろう。どうだ、あのでっかい空を突き刺すような塔、あれこそこの国の機関部、総統閣下のおわす場所ジレーザ。まるで忌々しい灰色の空まで支配している、そういう有様に見えるだろう。
肌に容赦なく吹き付けてくる風雪で、眉毛や睫の先まで凍ってしまうようだった。だが、そんな思わず目を閉じたくなるような寒さの中で、伍長の独り言染みた長い解説を流しながらカーツは目の前の真っ黒い建物にじっと双眸を向けていた。ジレーザ。口の中で初めて聞く言葉を転がしながら、その高く聳える鉄塔を見上げる。どこまでも、薄灰色の雪空に突き刺さる一本の楔のように伸びる鋼鉄の建物――国の機関部、とフレックは言った。フェンデルという国の心臓だ。来るもの全てを睥睨するかのように聳える途方もなく高いそれの中に、ちっぽけな子供の自分がこれから組み込まれるのだ。
潤滑油となりフェンデルという国の回路を動かす。茫漠とした考えが少年の中に浮かんできて、その想像の非現実的さと実体のなさにぶるりと身震いをしていると、フレックが顎をしゃくる。怖気づいたわけでもあるまい、さあ、こっちだ。軍人の錆付いた声がカーツを現実に引き戻してくれた。これは、夢ではない。さっきから柔肌を叩く冷たい雪と風が現実のものである痛みを伴うように、目の前の巨大な鉄塔は幻ではない。ここは、緩やかな死を迎えるしかない故郷ではない。フェンデルという国の中心部、ザヴェートという鉄と重油と黒い煙が支配している巨大な箱舟だ。ここには、この国の全てがある――恐らくは、大W石も。少年は確信を深め、そしてその為の一歩を踏み出した。
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