あれから随分経ったような気もする、…ってもよく覚えてるわけでもないし、ただなんとなく雪が降った数だとかそのへんで適当に数える程度。相変わらずユン坊の背は伸びてない。んなこというとはったおされるけどな。
あれだけ夢見てたとどかない空を飛んでみるとか、そうすると今度は地面がとどかないんだとか、ふわふわと空にういちまうとほんとのとこ、おっかなくて仕方ないんだとか。
そういうことも、俺は知って、そっちはすげーわくわくした。すごかった。もう、ぐんと空が近くなるってだけでおかしくて面白くてこられられなくなるくらい。
つってもそんな、愉快なことばっかでもなかった。ついでに思い通りにいかないことと、思い通りに思う通りにしなきゃなんないことと、歯を食いしばらなきゃならないこと、腹の底にのみこむのは何もメシとツバだけじゃあない、そういうこともいつの間にか知っていた。
ラーズはいつもしかめつらをする。
ククルは時折遠くを見つめる目がかわった。
ユン坊は下を向かないように歩いてる。おいおい、そんなじゃまたコケるぞ。
あーあ。やっぱりなあ。あいつらわかってないんだよなあ。
たしかに風のにおいはちょいちがうし、見える景色も馴染みが無いもんばっかだし、そうだよなあ、俺も流石にあほなこと言うのがちょいと気がひけたりも、した。
痛いのは身体に負った傷よりも心のそれで、ずうっと腹に響いて、しかもしつこい。最低だよな。正直ごめんだな。
けど、けどなぁ、たまに上見てみろよ。
空の色はちっとも変わっちゃいないじゃないか。
ラーズ、その小せぇ目ぇ開いて、しっかり見てみりゃあいいじゃねえか、お前があんなに好きだった夕日と、どこがちがうんだ。あったかい、見てるだけで腹が減ってくる色してないか。
ククル、お前とりあえずボーっとしすぎ。いや、前からだけどさ…そうじゃなく、そんな、な、落ち込んでるみてぇな、さみしそーな目はとりあえず似合わねぇ。つーか不気味。
ユン坊、は、…あーあーいいよ俺が何かいうと三十倍にかえてくるからな、……だからコケるって!前だけ見過ぎなんだよ、お前は。そんなことしても背はのびねえぞ。
ほんっと、なんもかわってないだろう。しょーもねーくらいデカい空、遠い空。
ウルに居た頃と、なんにも。
たしかに俺たちゃ空も飛んだけど。
やっぱり空は手が届かないんだ。
届いたと思ったら、実はもっともっと高い。果てってなほんとはないのかなあ。……でもな。
だったら、せめて届く夢を見たっていい。
だからな、おれは絶対に下なんか向かない。
遠くも見ない。目の前を見る。目の前の、ことを、見る。
ぐじゃぐじゃ面倒なことなんか考えない。
それは、俺の役割じゃあないしな。
一人くらい俺みたいな馬鹿がいたって、いいよなあ。
空の色はかわないんだ。
そういうことを、忘れないように、だから俺は空を見る。