うちに秘めた猛々しいばかりの炎は、やがて力強く闇を照らす命の光となる。
【炎の戦士 ユックユック】
カズスの貧しい一家にうまれる。6番目の子供だった彼に、父は名前以外のものはあたえてはくれなかった。
紅に燃える瞳は災いの子だと、炎を扱いながらも心の中では怖れていた鉱山の人々はかわるがわる口にした。
だから村の司祭は忌み子に祝福はあたえてはくれなかった。
それでも不憫な息子を愛した母親。だが彼女もいっとう冷たい山颪が吹く晩、たくさんの血を吐いて倒れた。
幼い子供は、母と、そして帰る家を失った。
一体どうしたらよいのだろう。ぼろの布をやっとまとって、せめても風を避けようと村の崩れかけた門のそばにうずくまったけれど。
風の声が痛い。
冷たくて、哀しくなって、どうしてこんなことになってしまったのか理解していた幼子は、凍える唇を噛みしめて吹きつもる粉雪をにらみつけていた。
何かきこえる。
あれは、氷の女王かもしれない。
女王は無慈悲でその魂すら喰らってしまうというけれど、かわりに身も心も凍るまでだきしめてくれる。
だったら女王さま、はやくむかえにきてください。
ぼくは生きていても仕方ない。だったら、その冷たい腕で、思いきりだきしめてください。
涙すらも凍る夜、ユックユックは村はずれの森に捨てられた。
冷たく温かく恐ろしく優しい夢にまどろむ幼子を、常世の淵より連れ戻したのは、すでにその頃から外をかけまわってばかりいた、トオヤ、ラーズ、ククルの三人だった。
運がよかった。
それはまるで奇蹟に近かった。
猫でも犬でもなく、子供を拾ってきた三人を、トパパもニーナも叱りはしなかった。ただ、あたたかいスープとかたいパンをひとかけ、それと粗末だけれども沢山の藁をしいた寝床をくれた。
勿論、いくら吹雪がやんだとはいえ太陽が姿を見せないうちに谷の外に駆け出した三人は、トパパのゲンコツをしっかりと頂いていたけれど。
虚勢をはらなければ生きてゆけなかった小さなユックユックを、三人の兄たちはいいとも悪いともいわなかった。
とんでもない大喧嘩をしたかとおもえば、次の瞬間には謝って一緒に肩を組んで笑っているトオヤ、放っておけば取り留めのない奇妙な話をそれは楽しそうにするククル、しょうがないやつだな、といつも子供扱いばかりをするけれど、何かにつけて頼りになるラーズ。
嘘をつけばげんこつがとぶし、悪い事をすればおこられた。トパパは恐かったけれど、その目はやさしかった。ニーナの腕はあたたかかった。
みんなが好きだった。
素直になるには、まだちょっとの時間が必用だったけれど、本当は大好きで仕方がなかった。
だからクリスタルの啓示をうけたとき、ユックユックは皆を守るちからを選んだ。そう、こっそりと貯えた薬草の知識だってきっと役にたつ。
谷を離れるのはつらかった。
もうかえってこれないんじゃないか、そんなことを思って。
わけもなくかなしくなって、ユックユックはこみあげてくるそれを、けれど必死に我慢した。
今は泣く時じゃないから。
泣いて旅立つなんて、まるで子供じゃないか。
ユックユックは胸をそらして、ぎゅっと唇を真一文字にひきしめて、前を向いた。
大丈夫、おれだって、クリスタルにえらばれたんだ。皆と、一緒なんだ。