光の四戦士 トオヤ(FF3)

光にえらばれた戦士でありながらも、闇を恐れる事を知らない。
常に己の才や在り方から逃げ続けた魔道士は、やがてすべてを見据え、そこにある悠久の声をきく。
その時、光も闇も宿したその心は世界に小さな希望を運ぶのだ。

【風の戦士 トオヤ】

 昔の記憶はない。物心ついたころには、隣にラーズがいて、目の前にはトパパとニーナがいた。
 サスーン地方では珍しい浅黒い肌も、皆が持ってる小さな頃の思い出がないことも、トオヤは気にしてなかった。
 それがトパパやニーナ、三人の兄弟のお陰だということも、身にしみてわかっていた。
 よく笑い、よく食べて、よく寝れば朝が来る。そんなちっぽけな平和な大切さ。けれどそれよりも、どこか遠くを見つめて物思いにふけること、そんなことが大好きだった。
 大切なものと、やりたいことと。どちらかを選ぶなんてことは、15の少年にはまだはやすぎた。
 この世界はきっと広い。この空はもっとでかい。
 トオヤはひたすらに村の外に憧れていた。

 風の啓示を受けたとき、その力にふれたとき、トオヤははじめて自分自身について考えた。
 あるがままに、思うがままに生きてきた、それでよかったいままでと。
 もしかしたら手をのばせば、望む世界がみえるかもしれない、これからと。
 風は、答はくれない。
 その純粋な暗黒を駆使する力、魅入られるようにトオヤは選んだ。その選択を後悔したことは数えきれない。
 己の力量不足に、悔し涙したのだって何度かしれない。それでもトオヤは、黒魔法にこだわった。
 これだけは逃げる事が出来ないんだと、力量の限界を感じながらも、それでも力を駆使することをやめない。

 答を求めたくなんかはないのかもしれなかった。
 そんなことは、知らない方がいいのかもしれなかった。ほんとうは、知りたくはなかった。


 口先は達者、顔に出ているから無駄とわかりながらもうそをつき、平気ではったりをかます。
 あまりに考えなしの、単純な発想。いつでも下らない事を思いついては実行する。やれ鍋にひきがえるを入れてみたら一体シチューはどんな味になるだとか、祭壇のお供物をミミズといれかえてみたらさぞかし愉快だとか、鍛冶屋の煙突を中からのぼってみようだとか。
 そのトオヤのしりぬぐいをしなければならないラーズは、ボヤきながら、それでもそんな相棒を憎みはしない。
 切り換えの早さや順応性は、四人のなかでも目に見えて抜きん出ている。
 楽しければ笑う。頭にくれば怒る。嬉しい事を人にしてもらえば感謝はするし、自分が悪ければ面白くはないけれど、素直に謝った。面倒がきらいだった。
 確かにどうしようもないうそをついたり悪戯だって日常茶飯事のトオヤが、それでも村の人々に可愛がられている理由は、結局のところはその性根の素直さなのだろう。
 それでも彼にだって暗い影がおちないわけはない。
 人は皆、誰もがもってしかるべき心の闇。けれどそれは決して、忌避すべきものではないんだとトオヤは幼い頃から思っていた。
 なぜなら、失った記憶はそっくり闇のようにそこにぽつんと、いつだって隣にあったのだから。
 正体はわからなくとも、恐れるべきものではないんだと、トオヤはしっていた。


 朝の光が好きだ。
 夜が明けて、東から昇ってくる太陽はいよいよ光を増す。青に沈んだ大地が目をさます。
 そして目覚めを告げる鳥の声とやわらかい風がふく。

 振り向きはしない。
 前だけを向こう。だって、旅はこれからだ。この広い世界、おおきな空の下。
 一体どんなことが待ってるのか、それを考えただけで、いてもたってもいられない。
 トオヤは麓への道を、一気に駆け出していた。