故郷 (DQ8)

 この肌をかさつかせる砂埃と、猥雑な空気と、お世辞にも清潔とは言い難い臭いは、やはり変わることのない故郷の象徴だとヤンガスは感じていた。
 馬姫ことミーティアを、なんとか無事に取り戻して最も喜んだのは、今や醜い魔物と化してしまった小さな老王だったが、表面上はともかくも、旅の一行に既に欠かすことの出来なくなっていた彼女の帰還に、皆素直に歓びを分かち合っている。
 ヤンガスが隣を常に歩く、彼自身が兄と慕う少年の表情も幾分ゆるみがちだった。
 そんな、些細なことが、こんなにも胸のうちを温かくするものだ、ということを、しみじみと感じいるようになったのも、そういえばこの旅を始めてからだったろうか。
 貧しく、その貧しさがゆえに「悪徳の町」の異名を持つパルミドも、ヤンガスにとってはただの故郷だった。
 町の入り口付近に設けられている物見台の上にどかりと座って、水筒のなかにこっそりとひそませた酒をあおるには、いささかこの宵の風は冷たいかもしれない。
 平和とは程遠いこの町のことだから、また見えぬところで些細な諍いから血が流れたり、誰知らぬところでくたばる人間もいるのだろう。だが、ここはそんな光あたらぬ影の側面も、すっかりそのまま抱擁している。
 つまりパルミドという町が存在している意義は、いってみれば必要悪なのだろう。世の中の理不尽さも、哀しみも苦しみも醜さも、すべてを受け入れる町は、人が生きてゆく上で時に必要だ。切実にそう感じるようになったのは、多分この故郷を離れたからこそ、なのであろう。
 冷えた酒はどうも今は良くはないらしい。この町をとりまく木々の木の葉は色付き、やがて枯れ落ちる季節まではまだ時はあるはずなのに、人の営みの上をただ通り過ぎてゆく山風は、やはり夏ではなく秋の空気を運んでいるようだ。物見櫓の四方に常に焚かれた篝火がありがたい。
 さらさらと身体をさらうような、涼というよりは冷ややかさを含んだ夜風に誘われてか、ぽつりぽつりと、忘れていたはずの記憶の断片が鮮明に思い出される。一体全体どうして自分はフラリとこんなところにきてしまったのか。何故仲間と共にベッドでくつろがなかったのか。
 考えたところで何も出ては来ないし、腹の足しになるわけもない。何よりヤンガスは考え事というものがひどく不得手だったが、久方ぶりに味わう故郷の夜風というものは、予想以上に感傷を呼ぶものらしい。
 ただぼんやりと酒を流し込みながら、闇に活気づく町を見下ろしていた。

 そして、隣にいつの間にやら座して、これもまた当然のようにこの猥雑な眺めを楽しんでいる少年にも、実はとっくに気がついていた。

 気がついてはいたけれども、だからといって、では何かを話さなければならないわけでもなく、ましてや彼と自分とは信頼という絆で結ばれてはいても、互いの素性も腹のうちも詮索をする必要を感じてはいなかった。

「ほらこれ」

 突然の言葉よりも先に、労るように肩に掛けられたものは、砂と埃にまみれた羽織りだった。なにやら紋様が折り込んであるのだが、古びている所為なのか判別は出来ない。が、かつては確かに値打ものであったろうことは、わかる。
 ちら、と視線を投げると、待ってましたといわんばかりの、にこりと笑う少年の目にぶつかる。楽しそうである。
 野犬の遠吠えが耳にとどく。いよいよ夜は本番だ。現に、眼下に広がる光景は徐々にその色合いを塗り替えていっている最中で、酒気が時折風に乗ってこの櫓の上にまでも届く。その日を精一杯に生きる人々の活気というものは、存外に力強い。

「うん、えーと、陛下がもってけってさ」

 いつものように、町の外で待つかの王に姫君に甲斐甲斐しくも一晩分の食料と毛布をもってゆき、そして今度は物見櫓の上でひとり久方ぶりの故郷との対話を楽しむ自分を捜していたということだ。
 お節介といえば、お節介なのだが、少なくともこの少年とヤンガスとは、そのお節介を、心遣いだと思うことができる間柄だった。

「ありがとうごぜぇます。兄貴にそんな気ィ使わせちまって、面目ねぇや」

「だから、オレじゃなくて、さ、ありがとうはあとで陛下に言ってよ」

 多分半分は本当なのだろう。姿は滑稽さすら漂う魔物になってしまってはいるが、あの王は確かに口とは裏腹に、時に驚く程細やかな気配りをしてみせる。
 『仕事』を終えたシラギの顔はじつに晴れ晴れとしていた。見事とはいいがたい、どちらかといえば薄汚れた町並を、楽しげに眺めては時折感嘆の声すらあげている。
 やっぱり兄貴は変わった人間だ、ヤンガスは心底思った。それは悪い気持ちではなかった。

「…こんな町でも、こうして上から見てみると、案外見れたもんだと思うのは、贔屓目でやしょうか」

 ごわごわとした羽織は決して柔らかくはないが、あたたかい。ぽつりともれた言葉に一番驚いたのはヤンガス自身だった。
 かつてこの町にいた時分は、己の生き方に誇りを持っていた。秩序というものとは無縁のこの貧しい町は、時に力を誇示してゆかねばまず生きてゆけず、幸いにヤンガスは力強さと強かさを顔も知らぬ両親から授けられていた。
 やがて町の北方にそびえる山に仲間とともに居を構えてからは、街道を通る商隊を襲うこともあった。同じ落ちぶれた者同士、なわばりを争うこともあった。
 食料は奪うものだった。人の善意は利用して、笑ったものだった。そうしてゆかねば生きてはこれなかった。
 だが、そんな生き方にどこか息苦しさを感じ、しゃにむに飛び出して何年経っただろう。この故郷を忌わしいと思うことはあっても、なつかしいと感じたことなど最近まではついぞなかった。
 ヤンガスにとって故郷とは、ただ生まれ育った町というだけの、それだけだった。

「ここはヤンガスの故郷ってかんじがする。きっと、オレここ好きだよ」

 シラギの言葉はたまに理解しがたい。だが、珍しく簡潔な言葉だった。
 だから胸を突き抜けて頭の中にぐいと直接干渉してきた。
 隣に立つ、まだ少年といっても差し障りのない顔は赤々と燃える篝火をうけて輝いている。あんな事があったというのに、彼が心底慕う、その命すらきっと厭わぬのではないのかと思わせる程に彼にとって大切な、姫君をかどわかし、挙げ句の果て売り飛ばしたのもこの町に巣食う貧しさだったというに。

「ここの人たちは、皆下を向かないだろう。胸を張ってる、それも、オレが見た中でも一番にね。口では、あんまり誉められたようなこといわないんだけどなあ」

「兄貴、兄貴」

「あ、ごめん。ただ、オレが思うのはね、ここは、頑張って空を見上げる必要がないんだって、そういうこと思ったんだけど」

「……相変わらず兄貴は話下手でげす」

「うん、だからごめん。ククールとかいれば、ちゃんとわかるように言ってくれたかもしれないけど、あ、でも、あいつ、この街好きじゃないから駄目かな」

 意味はよくわからずとも、いわんとしたいことはなんとなく伝わるものだ。そろそろこの拙いながらも必死な言葉の裏の意を酌む事にも慣れてきていたし、何よりも、町を眺めるその穏やかな横顔が、全てを物語っている。
 この町によい感情を抱く人間は、草の根を食い木の皮で飢えをしのいで、泥と汚物の地獄を見たものか、その背後に後ろめたいものを背負う咎人か、或いは行くところもなく希望という光をどこぞに求め彷徨う旅人か、……兎にも角にも絶望というものを多かれ少なかれ垣間見たものが多かった。

「長い話していいかな。オレ、長い話はもっとうまくないけど」

 絶望を垣間見てしまえば、決して高望みというものをしない。
 生きていればよい、生きているだけで十分だ。パルミドとは、多少の差はあれども、総じてそんな人間の集まりだった。
 ヤンガスの返事は待たずに、シラギはつづける。珍しいこともあるものだと思いながらも、ヤンガスは黙っていた。

「いつも、絶対オレは下を向いたら駄目だ、上を向かないといけないんだって思ってた、そうしないと折角目の前で奇蹟がおきたのが全部なくなるから」

 ふと、ヤンガスの視線に気がついたのか、シラギは口をつむいだ。
 次に眉をしかめ、ついでに鼻の頭にしわまで寄せて一呼吸考え込んだ。
 が、当然、うまい言葉が見つかるわけもなく、眉根を動かしては悩んでみるけれどもどうもうまいこと言えないと悟ったらしい、わずかに悔しそうに、今度はぶっきらぼうに言葉を吐く。

「奇蹟っていいかたで正しいのかなあ…いろいろ」

 手すりに右手を置き、すっかり夜風に冷えている木肌をなぞりながら、視線を泳がせる。シラギは懸命に自分の記憶を言葉にして紡ごうと足掻いていた。櫓のてすりに、とんとんとん、と小刻みに指をうちつけながら、表情にまでその苦悶の様子が、浮かび上がっている。

「陛下と姫様のことか、お城も、朝の光、廊下、あと赤いレンガ、じゃがいも、花とか、音、いろいろなことだけど」

 本気でシラギの言葉に聞き入ると、かえって思考は混乱してしまうということは、ヤンガス既に承知の上だった。シラギを良く知る唯一の同行者であるトロデ王にいわせれば、幼い頃は非常に無口であったというから、もともと己の思いを言葉にする事が不得手なのだろう。

「包丁ってのさ、はじめて持った時とか、料理酒の入った樽ひっくりかえして怒られたとか、最初は玉ねぎ大嫌いだった、とか」

「…………………………あー。やっぱり、うまくいえない!…皆、当たり前のことで、当たり前の事は大事だ、っていうこと、は」

 そのへんのシラギ個人の事情は詮索をしたくはないヤンガスも、だからあえて追求はしない。だから、その言葉の意味も考えようということすら思いつかない。

「そういうのかな。ふつうの当たり前の事。全部なくなるのは一番恐かった。ずうっとここ最近て、…オレがね、オレは空を見上げても全然青いっていう感じはしなかった、ずっと」

 一気にまくしたてると、シラギはまるで胸中のわだかまりを吐いてしまったとばかりに、大きく溜息をついた。

「でも、それでもやっぱオレは笑ってなきゃいけないんだって思ってたからさ!」

 夜の町に挑むように少年は吐いた。そしてそのままごろんと寝転がり、天を仰ぐ。
 ヤンガスは、パルミドの夜の顔をしげしげと眺めていた。
 眼下に光が漏れる。櫓からさして遠くもない場所にあるカジノの入り口から数人の男女が談笑しながら出てきた。笑い声がここまで届くということは、連中に勝利の女神が微笑んだのか。

「面白いとか、楽しいときは、そりゃ笑うのあたりまえだよな」

 起き上がり、大仰に頷いて、一人で納得したらしいシラギは何を思ったのか、今度は立ち上がるとせまい物見櫓の上をぐるぐると歩き回りだした。ぎしぎしと床板がきしむのにもお構いなしに、でたらめに歩きまわる。そのついでに視線はひとところに留まらない。
 町中を見ては、遠く森の奥を見てみたり、地上を見下ろしたかとおもえば、今度は町の裏手にそびえる山を眺めるといった具合だ。

「でも、そうじゃなくて、嫌でも、腹がたっても、笑ってるっていう意味で、いつもいつも、なんかつんのめりそうになるみたいに」

 喋るほどにシラギの言葉はいつでも物足りない。何かが一つ抜ける。けれどどんな時でもヤンガスは、ただ黙ってその言葉をひとつひとつ、律儀に耳の奥に収めていた。
 物足りないのではなく、言葉に出来ないのだ。
 裏のない声色だから、ヤンガスは決してシラギを見ようとはしない。だからシラギは一人で勝手に喋る。

「でもさ、笑っちゃうよな、ここ、ここで」

 いつもは昔話はヤンガスの十八番で、それもかなり脚色済みのものを、それでもシラギはそれは愉快そうに聞いている。馬姫さまは時折ぱちくりとおおきな眼を瞬かせたりして、王様は面白くなさそうに聞き耳を立てている。けれどもここはヤンガスが生まれて育った場所だった。そこでシラギは下手くそな昔話らしき語りをして、ヤンガスは黙って夜の故郷の喧噪を肴に酒をのむ。

「パルミドにきて、陛下のために、って、いつも頑張ってばっかりいたら、さ」

 兄貴分と弟分と男二人で、たまにこういう夜もいい。

「足元すくわれただろ?」

 いつのまにか声は自分の隣に戻っていた。声に誘われて横を見れば、子供の仕種にくつくつと喉の奥で笑いをかみ殺している。

「ああ、あー…酔どれキントのやろうのことですかい…」

 もうしわけねぇ。反射的にもれるつぶやきは小さく、ヤンガスの口の中だけにとどめられた。あれは本当に一生分の不覚だったと今でも思う。無事こうして解決したからよかったものの、だ。自分がついていながら情けない。とたんに何やら後悔の念がおしよせてきて、脇腹あたりがかゆくなった。

「…まあ、不注意っちゃあ不注意でしたが、そもそもアッシが」

「それはいいよ。そういうことじゃなくてさ」

 何やら予想以上にあっさりしているシラギの態度に、かえってヤンガスのほうが戸惑う。戸惑いついでに思わず竦めてしまった肩のやり場と、それからこの半端にもやもやした気分は。多分、シラギの態度からすれば自分を責めているわけではなさそうだ。というか、単に喋りたいだけなのだろうか。そういや兄貴は嬉しいことがあると誰彼構わず喋りたがる質だった、それはきっと馬姫様が無事に戻ったからで、王様が喜んだからだ。じゃあ何で兄貴はいきなりアッシの故郷の話だの、トロデーンの話だの始めたのか。
 まとまりきらない思考を無理くりどうにかしようと、腰布に差しっぱなしにしていた水筒に手をやってみる。だが水筒の中の酒はとうに空だった。
 さてどうしたものか。第一、馬姫様をさらった野郎のことはもういい、だなんてまず冗談にしか思えない。まさかシラギが貧しさゆえの、そんな風に考えたのだろうか、確かに無類のお人好しとは思うが。
 そんなヤンガスの胸の内を察したのだろうか…シラギは言葉足らずではあっても決して愚かな類いの人間ではない。明らかにその両目は可笑しそうに笑っている。

「ほんとさ、とんでもないことなったな、って焦ったんだけど」
 悪くない。仲間、そんな言葉が心穏やかに思える。

「難しいことを一生懸命考えてもオレしょうがないなあって思ったんだ。そういうのは、ククールとかゼシカとかに任せた方が多分いいんだ。それと」

 西の森からのたっぷり緑を含んだ夜風が通り過ぎる間じゅう勿体ぶってから、シラギはいよいよ満面子供の笑顔になる。思いついた悪戯にひっかかった大人を満足そうに眺める悪ガキの笑顔だ、とヤンガスは思った。

「………姫様はなんだか楽しんでらしたみたいだったし。もう、何だよそれ、って思ったけど、でも姫様はほんとなんだか面白がってらした。オレも陛下も真っ青になったのにさ、姫様はなんだか楽しんでらしたって、…そしたらもう、そりゃ、笑うしかないって」

 確かに、…というほどにヤンガスはかの姫君の様子を常日頃伺っているわけではないのだが、少なくともあのような目に遭ったわりに、馬姫様はすこぶる御機嫌はよかった。ゲルダのことだから、悪いようにはしなかったのだろう、それにゲルダは大層「馬」を気に入っていたようだった。

「だからっていうのもあるし、ヤンガスの故郷だし、最初にきたときに、いやな感じもなかったしね」

 ああ。
 なにやらとたんに、ぐるぐると頭の中をたいそうもつれさせていた糸がほぐれた。沢山の言葉をして、つまるところ、ヤンガスが兄貴分と慕う少年はそれがいいたかっただけらしい。
 兄貴、そいつぁ、いいすぎだ。こんな町に、チンケな場末の町ですぜ、いっそ大陸中のゴミ溜みてぇなところで、キレイなものなんざひとつもありゃしねぇや、ソイツを好きだなんていう他所もんは、いやしねぇ。

「ヤンガス?」

 言葉というものはたまに不便でたまらない時があって、かわりに、沈黙はほんとうに便利なものだ。
 パルミドは実に悪徳の町の名に相応しい処だ。それは決して褒め言葉ではない、むしろどこか蔑むための呼称でしかない、少なくともこの大陸に住まう人間は、侮蔑と嫌悪をない交ぜにして「悪徳の町パルミド」と呼ぶ。ここまでの道中、そんな声を幾度も耳にしてきたのは、シラギも一緒の筈だった。夜風が頬に心地よいのは、何も古びた羽織りが温いからだけではない。

「いや、悪い気分じゃないんです、悪くねぇです、この眺めも、この町も。そんなこたぁ百も承知でやす」

 そうだ。そうでなければシラギに故郷のこの町を見せようとは思わない。美しくはないかもしれない、けれども、森と山に抱かれた貧しい町は、確かに、たったひとつのヤンガスの故郷だ。

「そういうことを、ヤンガスは判ってるから、陛下の為にここに来ようって言ったんだろ?」

 ここ。ここはパルミド。そういわんばかりに、シラギは夜の町を見渡して、ひとり頷く。

「もう二度と行かぬ!とか、…さあ、陛下はいってたけど、嬉しかったんだよ。あの方もほめるのも、誉められるのも、上手じゃないし、あとついでに有難うも下手だから、わかりにくいけど」

 確かに己の愛娘がかどわかされた場所になど、まず近付きたいと思うはずがない。

「自分だって野宿なんだから寒いに決まってるのに、…あ、オレが毛布もってったから、陛下の心配はしなくていいんだ、ヤンガスは多分ここか、あとはとりあえず宿屋にはいないだろうから迎えにいくっていったら、それもってけっていったのも、陛下だし。嬉しかったんだろうなあ、お酒、好きだし」

 だからそれはヤンガスがあとから陛下に返しといてよ。たぶん、シラギは得意な顔をしているだろう。けれどその顔は見れなかった。

「…………シラギの兄貴」

 生憎とうまく言葉にはならない。このひとは、自分の命を救ったばかりではない。ほんとうに澄んだ目で世界を見ている。だから薄汚れたパルミドの町すらも、好きだと言ってしまう。

「パルミドは、悪かねぇですや。ああ、ちょいとばかり困ったヤツらも大勢いますがね」

 我ながら単純だ。単純だと思う。人にこの町のことを誉められるだけで、こうもこの町のことを誇らしく思えるのだから。
 同時に、シラギがこの町を理解してくれたそのことも、同じくらいに嬉しく、誇らしく、少年と出会えてよかったと心底思っていた。
 決してこの町が生まれ変わるわけでもない。悪徳の町は、悪徳の町のままだろう。だが町の人間は、その一種悪名ですら誇らしげに語るのだ。
 その理由をようやく呑み込めた。


「それでも、アッシの故郷でげすよ」