彼はわくわくするわね、いつでも予想外だわ!それは私にとっては結構、いえ、かなり重大なことよ。
まさか彼が私を許すだなんて想像していなかったし、私も彼のためにこの街に戻ってくるだなんて考えてもいなかった――それも自由とひきかえに。…それはちょっと、違う言い方ね。私はいつでも私以外の何者に対しても自由であるつもりだけど、それでもたまには友達を大切にしたいと思うときだってあるのよ。でなければこんな稼業は出来ない―私自身のルールで、だけどね。
まさか、信じられない――彼がそういう目をして私を見るさまを眺めるのは最高ね。けれどそれは私も同じことだっていうのがちょっと悔しいけれど、しょうがないわ。彼は大切な友達だし……それはあなたも一緒でしょう、ヴァリック?
まだ不思議そうね。確かにあなたの疑問はもっともだわ。私だって、別に彼が…いえ、よしましょう。楽しくないことについて考えるのは嫌いなの。
確かに、何の価値もないような壊れたナイフをずっと持っているのは愚かだわ。自分の身を守ることも出来ない、どころか自分を傷つけるかもしれない、けどそれは昔、私が生きるか死ぬかの時に役立って、私が生き延びることを覚えるために必要なもので、つまり長い年月を経てお守りのようなものになっている――ロマンティックじゃない?そういうのを、大切にしているっていうのは。笑ったわね、私だってそういう夢をたまに見ることもあるの。すぐに見たこと自体も忘れるけれど。
壊れたナイフはそれでもまだ価値がある、そういう話よ。彼はまだゾクゾクするような魅力的な男だってのは事実でしょう、たぶん彼は私のことなんてなんとも――ええ、ええ、知ってるわよ、彼がカークウォールの仕込みナイフではなく壊れたナイフになってしまった理由は。けれどそれが彼の魅力を否定する理由にはならないってこと。壊れてもまだ彼はナイフのままよ。刃が折れても人を殺すことは出来るものね。
彼のグリーンアイズはそれでも魅力的だし、ナイフがきらめく瞬間はほんとうに素敵。なら私が彼を助けたいと思うに、十分じゃない?
アヴェリンがどう言うかはわからない。けどたぶん彼女は―私の一番の「親友」は賛成すると思うわ。不思議な話ではないでしょう?
ええ、だから私の行く先はあなたにだって秘密ね。私は秘密主義なの。
もう会うこともないかもしれないけど、あなたはけっこう楽しい友人だったわよ、ヴァリック。風向きがよければもしかしたら、どこかで名前を聞くことがあるかもしれないわ。蜜酒をありがとう。甘ったるいけれど、悪くはないわね。