兄貴について?
愉快じゃない質問だな。何だって、見てりゃあわかるだろう。世間の兄と弟を見る目について――特にその兄貴は良くも悪くも(アイツは悪くも、だと俺は思うが)有名だしまあそれなりに影響力もある、そういう兄を持った弟の気持ちなんてのは、それなりの――あくまでも、それなりのだ!想像力さえあれば誰だって理解できるだろう?理解出来ないならそいつは幸せ者だな、世界は幸福に満ちていて毎日朝から晩まで愉快で人生が楽しくてたまらないだろうさ。生憎俺はそうじゃあないけどな。
ふん。先にそれだ、とりあえず混ぜ物だらけでたいしてうまくもない安っぽい酒だって、あるかなしかじゃ大違いなんだ。特に愉快じゃない話を口にするなら必需品、だろう?
何だよ、質問してきたのはそっちだろう?なら、とっとと始めてくれよ。
親父の忌々しい魔法の力はかわいそうなベサニーに受け継がれたが、それ以外は兄貴が受け継いでるよ。まったく、ベサニーは何だって眼の色も毛色も違うあいつのことを何の疑いも無く兄だって信じ込めるのかな、俺は不思議で仕方ないよ。けど、ああ、ああ、わかってるって、残念なことに、あいつは間違いなく俺たちの兄貴だ、俺たちの。
それにもう一つ腹立たしいのは、兄貴はアメルの外見を受け継いでいるってことさ、そっくりなんだ、俺が敬意を払える数少ないメイジ、ウォーデン・アメル。あんたなら知ってるだろう、ヴァリック。そうだよ、フェレルデンの救世主とか言われてる女ウォーデンだ。親父の気質、アメルの血だとわかる外見、俺が欲しくて仕方ないものを、あいつは望んでもいないのにもってる。忌々しくならないわけがないだろう。
驚いているな?へえ、あんたでも驚くことがあるのか。兄貴が知っているかどうかって?さあな。俺はウォーデン・アメルの話を兄貴にした記憶はないし、ベサニー以外にこういう話をしたのは初めてだ。
母さんが兄貴に手厳しいのは、親父に似てるからだってベサニーはよく言う。そういうことは俺にはわからないが、たぶんそうなんじゃないか?母さんは俺にはそういう話はしない。俺も母さんにそういう話はしない、しちまったら一から十まで素晴らしい兄貴を先に産んでくれたことに対する感謝で終わっちまうからな。兄貴は何だって自分で決めるし俺やベサニーを守るのは自分だって当たり前に思ってるし、俺やベサニーはいつまでもあいつにとっちゃ弟妹でそういう風に扱われる。けど俺はベサニーと違う、俺は魔法の才能なんてものはないし背教者でもない、守ってもらう必要なんてのはないのに兄貴はいつまでも俺を昔のカーヴァーだと思ってる。まったく、忌々しいことだよ。
話を聞きたいって言ったのはあんただろう、ヴァリック。俺は話したくないとも言ったじゃないか。
兄貴がメイジに肩入れするのは、間違いなくかわいそうなベサニーが理由だよ。わかるだろう、あのバカな兄貴はそうやってずっと来たんだ。ロザリングは…フェレルデンはそれでも、この街程騎士団の力は強くはなかったけどな。
第一あいつはサークルとか騎士団とか、教会とか、そういう考え方をするようなやつじゃない。わかるだろう、あいつが瓜二つな親父にかわって守りたいのは、家族だよ。そうだ、親父が早くに死んだから、そうするのは自分の役割だって勝手に背負ってるだけだ。俺もベサニーも頼んじゃあいないのにな!そういうものは、だいたい弟にとっちゃ面倒で愉快じゃない…そうだろう。
それに俺は、そういう、…そういう小さいことだけで満足するのはごめんだ。俺は兄貴でもないし親父でもない。
けど残念なことに、俺は兄貴に勝てない。俺だってロザリングを訪れる傭兵や騎士に、畑仕事の合間に剣の使い方鎧の扱い方を教わってたってのに、俺は一度だって安物ナイフを器用に扱う兄貴に勝てた試しがないんだ、クソッタレ!
だがそれだってわからないだろう。少なくともチャンスは、あとから生まれた俺の方が残ってるって考え方もできる。俺にはチャンスはあるんだ、そうしたら……ああ、弟ってのは、そういうものだ。