NieR:Automata/11945年9月、僕たちは兵器だった

序 アネモネ

序 アネモネ



「―――以上、現時刻を持って、第十四次機械兵器戦争の終結を、宣言する」

 形式ばかりの戦争終結宣言を聞くのは何度目だろう。人類軍より地上で戦い続けるアンドロイドたちに一斉に送信された広域放送を、アネモネは何の感慨も抱くことなく聞き流した。戦争終結。そんなものは、所詮上辺だけなのだ。
 かつての人類のように戦争にもルールがあり、戦争という行為がそもそも政治・外交手段であった時代とはわけがちがう。自分たちアンドロイドも、機械生命体も、戦争のために戦争をしている――そのことに気づいてから、もう何百年経つだろう。
 月に人類などはいないし、この戦いの末に何があるかなどもわからない。それでもアネモネは戦い続けることを選んだ。それは、かつては死んだ仲間たちのためだった。
 そして、何故戦い続けているのかといえば、今ここにいる仲間たちのためだ。
 彼らがいる限り、自分が膝をつくことはない。

「リーダー、森林地帯の9Sより通信が入ってます。通信状態が悪く、音声のみの通信ですが」
「かまわない、繋いでくれ」
「こちら9S、リーダー、聞こえますか」
「ああ、何かあったのか」
「例の作戦なんですけど、やっぱり難しいです。以前であれば敵の中核であった「王」を従属化すれば成功の可能性はあったんですけど、今は「王」を殺されたことで機械生命体すべての敵性意識が跳ね上がったままで、個体の従属化なら可能でも複数となるとどうしても限界があって……」
「わかった。4Sと君の二人がかりでも無理だというのなら、現段階では事実上無理ということだろう。何よりも優先されるべきは、君たちの生存だ。作戦は中断、帰投してくれ」
「了解しました。それじゃあキャンプに寄ってから帰ります」
「あっ、ナインズ、勝手に通信してる。これはもともと僕の任務だったし、報告だって僕の仕事なのに。リーダー、ナインズがまた適当なこと言ったかもしれないんですけど別に不可能っていうわけじゃないんですよ、ただ」
「うるさいよ、ほら、さっさと帰る」

 通信に割込んだ4Sをシャットアウトするように通信が切れたのは電波状態が悪かったのではなく、9Sの判断だろう。その様子を想像してアネモネは苦笑する。
 9Sは、稀少なヨルハ部隊の生き残りということもあり並の戦闘員では近づけないような森林地帯や陥没地帯の調査・戦闘任務に赴いてもらっている。レジスタンス・キャンプに彼が戻ってくるとはアネモネも思っていなかったので驚いたが、彼が手にしていた軍刀を見て、凡その事情を察した。その後彼は正式にレジスタンスの一員となり、調査任務に赴いた連れてきた同ヨルハ型4Sと共に、今ではレジスタンスの貴重な戦力になってくれている。
 特に単独での調査任務が得意なスキャナータイプが二人も生き残ってくれたのは、僥倖だった。9Sは専門のB型やD型ほどではないが単独での戦闘も可能で、一方の4Sは敵地に長年潜伏していただけあって隠密行動やデータ収集・分析に優れている。「塔」の出現と崩落までの間に失われた戦力のすべての穴埋めを彼ら二人が補っているといっても過言ではなかった。それほどに、他のアンドロイドとヨルハ機体の性能差はある。
 そのヨルハ機体の殆どが全滅し、生き残っているのは旧型の自分たちだけ。機械生命体は相変わらず進化し続け、数が減るということはない。圧倒的な戦力差、援軍は見込めない。
 昔から、それこそ何百年も前から、この状況はかわらない。

 それでも戦うしかないのだ。すべては、明日という日を迎えるために。



>>NEXT

履歴

公開